第五十三話 コンテナごと
地下格納庫に銃声が響き渡った。
所長は三機の魔導鎧を前に、周囲を見回す。
入口からはカルテルの構成員が次々と押し寄せてくる。
「撃て!」
銃弾が飛ぶ。
所長は一機の魔導鎧を盾代わりに引き寄せた。
ガガガガガッ!
弾丸が装甲へ食い込む。
「……」
所長は魔導鎧を見る。
「傷つけるなよ」
怒っている。
自分が撃たれたことではない。
商品に傷がついたことに対してだった。
「お前らなぁ」
所長は魔導鎧を脇へどける。
「これ、売り物なんだぞ」
「知るか!」
「知らねえなら覚えろ」
所長が床を蹴った。
巨体が一気に前へ出る。
「うおっ――!」
先頭の男を肩から弾き飛ばす。
そのまま後ろの連中までまとめて吹き飛ばした。
だが、次から次へと敵が現れる。
「数が多いな」
所長は周囲を見回す。
撃ち合っている間にも、施設の奥からさらに人が集まってくる。
このまま正面突破してもいい。
だが。
「……面倒だな」
所長は格納庫の隅を見る。
そこには大型の貨物コンテナがいくつも並んでいた。
工場や鉱山から運び込まれた資材を保管するためのものらしい。
そのうちの一つは、ちょうど魔導鎧が三機とも収まりそうな大きさだった。
「……」
所長はコンテナを見る。
魔導鎧を見る。
もう一度コンテナを見る。
「これだ」
妙に納得した顔をした。
「何をするつもりだ!」
敵の一人が叫ぶ。
「帰る」
「は?」
「三機持って帰る」
「そんなことさせるか!」
「じゃあ邪魔するな」
所長は魔導鎧の固定具を確認する。
そして一機ずつ、コンテナへ運び始めた。
「な、何をしている!」
「見れば分かるだろ」
「魔導鎧を運んでいるだと!?」
「そうだ」
一機。
コンテナの中へ入れる。
ガシャン。
二機目。
ガシャン。
三機目。
ガシャン。
カルテルの構成員たちは呆然としていた。
「……あいつ」
「何を考えてる?」
「魔導鎧を盗んでるんだろ」
「それは分かる!」
所長はコンテナの扉を閉めた。
そして。
そのコンテナを両手で掴んだ。
「……?」
誰もが動きを止めた。
「まさか」
所長は腰を落とす。
「おい、待て」
ギギギ……。
コンテナが床から浮いた。
「嘘だろ……」
所長はそのまま持ち上げた。
「よし」
肩へ担ぐ。
「な――」
「コンテナごと持っていくつもりか!?」
所長は答えなかった。
ただ。
入口を見る。
そこまでの距離を確認する。
「出口まで一直線だな」
「待て!」
「待たねえ」
所長が踏み出す。
一歩。
二歩。
三歩。
そして。
「どけぇぇぇ!」
ダァンッ!
床を踏み抜く勢いで走り出した。
「うわあああああ!」
カルテルの構成員が左右へ飛び退く。
所長は止まらない。
巨大なコンテナを担いだまま、地下施設の通路を一直線に駆け抜けていく。
壁にぶつかる。
ガンッ!
鉄骨が歪む。
「邪魔だ!」
さらに走る。
階段。
「こんなもん!」
ドドドドドッ!
階段を一段飛ばしで駆け上がる。
後ろから怒号が響く。
「止めろ!」
「出口を塞げ!」
「魔導鎧を取り戻せ!」
「なんでコンテナごと持ってるんだ!?」
「知らん!」
「追え!」
所長は笑った。
「追いつけるなら追いついてみろ!」
そのまま通路を駆け抜ける。
途中で扉が閉じ始めた。
「……」
所長は速度を落とさない。
「遅え!」
コンテナを担いだまま扉へ突っ込む。
ドガァン!!
鉄扉が吹き飛ぶ。
外へ出る。
夜の冷たい空気が顔に当たった。
「外だ!」
警備兵が叫ぶ。
周囲から銃弾が飛んでくる。
所長はコンテナを盾にする。
「……」
銃弾がコンテナへ当たる。
ガンッ、ガンッ、ガンッ!
「おい!」
所長が叫ぶ。
「商品に当たったらどうする!」
「撃て!」
「撃つな!」
「どっちだよ!」
カルテル側が混乱する。
所長はその隙を逃さない。
正門を見る。
そこには大きな鉄門。
その向こうには、所長が隠しておいた車がある。
「よし」
所長はコンテナを担いだまま走る。
もう誰も追いつけない。
魔導鎧三機。
大型コンテナ一つ。
そして二百キロを軽く超えるオーガ。
それが一つの塊になって、夜の軍管理地区を突っ切っていく。
「止まれ!」
「止まらん!」
「そこは軍の管理区域だぞ!」
「知ってる!」
「コンテナを置いていけ!」
「嫌だ!」
「それは軍の魔導鎧だ!」
「今は俺が持ってる!」
「盗品だぞ!」
「だから返さない!」
めちゃくちゃだった。
だが、所長にとってはいつものことだった。
そして。
正門が近づく。
警備兵が慌てて門を閉めようとする。
「門を閉めろ!」
ギギギギ……。
巨大な鉄門がゆっくりと動く。
「……」
所長は門を見る。
そしてコンテナを見る。
「……」
少し考える。
「こっちの方が早いな」
所長は速度を上げた。
「ま、待て!」
警備兵が叫ぶ。
所長は止まらない。
「うおおおおおおお!」
ドガァァァン!!
コンテナを担いだ巨体が鉄門へ突っ込んだ。
門が大きくひしゃげる。
所長はそのまま外へ飛び出した。
「……」
夜道。
所長は数十メートルほど走ったところで、ようやく足を止めた。
肩に担いだコンテナを見る。
「……」
無傷。
中の魔導鎧も、おそらく無事。
「よし」
満足そうに頷く。
「高く売れそうだ」
その背後。
歪んだ門の向こうでは、カルテルの構成員たちが呆然と立ち尽くしていた。
「……逃げた」
「コンテナごと……」
「魔導鎧三機を……」
「一人で……」
所長はそんな声を背中で聞きながら、車のところまで歩いていく。
そしてコンテナを車の荷台へ載せようとして。
「……」
止まった。
「入らねえな」
コンテナは当然、車より遥かに大きかった。
所長はしばらく考える。
「……」
そして車を見る。
コンテナを見る。
「まあいいか」
車を諦めた。
「走って帰るか」
そう呟いた瞬間。
遠くから軍の警報音が聞こえてきた。
「……やっぱり面倒だな」
所長はコンテナを担ぎ直した。
そのまま夜の街道へ向かって歩き出す。
その背中には。
魔導鎧三機入りの巨大コンテナ。
そして。
本人はいたって満足そうだった。
「昔馴染み、喜ぶだろうな」
所長は笑った。
「三機もあるんだから」