アランスミシー探偵事務所の事件簿   作:山門門山

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case49 後始末

第五十五話 報告

 

 翌朝。

 

 昔馴染みの屋敷を出た所長は、珍しく周囲を警戒しながら歩いていた。

 

「……こそこそするのは性に合わねえな」

 

「そもそも昨日、軍の管理地区から魔導鎧を三機盗んできた奴が何を言ってる」

 

 隣を歩く昔馴染みが呆れたように言う。

 

「声がでけえ」

 

「お前が言うな」

 

「今日は静かにしろ」

 

「誰のせいだと思ってる」

 

 二人は街道を外れ、人気の少ない道へ入っていく。

 

 昨日、所長がカルテルの拠点へ潜入する前。

 

 念のため、車を拠点から少し離れた場所へ隠していた。

 

 そして、その車の中には昔馴染みに用意してもらった武器も積んだままだった。

 

 今から、それを回収する。

 

「この辺りでいい」

 

 所長が言った。

 

「ここから先は歩く」

 

「分かった」

 

 昔馴染みは車を停める。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「ああ」

 

「カルテルの連中に見つかるなよ」

 

「昨日、派手にやったからな」

 

「だから心配なんだよ」

 

「まあ、なんとかなる」

 

「その『なんとかなる』で、昨日は門を一つ壊したんだろ」

 

「必要経費だ」

 

「軍の門だぞ」

 

「細かいことを気にするな」

 

 所長は車から降りる。

 

「じゃあ行ってくる」

 

「お前、本当に一人で行くのか?」

 

「車のところまで行って持って帰るだけだ」

 

「それができるならな」

 

「できる」

 

 所長は歩き出した。

 

     *

 

 しばらく歩く。

 

 木々の間を抜ける。

 

 丘を越える。

 

 そして。

 

 昨日隠した場所が見えてきた。

 

「……」

 

 所長は立ち止まった。

 

 遠くにカルテルの拠点が見える。

 

 昨日の騒ぎが嘘だったかのように静かだった。

 

 ただし。

 

 何人かが周辺を警戒している。

 

「……まだいるな」

 

 所長は木陰に身を隠す。

 

 しばらく様子を見る。

 

 警備兵。

 

 車両。

 

 建物。

 

 そして、昨日自分が突入した格納庫。

 

「思ったより復旧が早いな」

 

 所長は煙草を取り出しかける。

 

 だが、やめた。

 

「……今日はやめとくか」

 

 珍しく慎重だった。

 

 昨日の騒ぎを考えれば、今頃は周辺一帯を徹底的に捜索していてもおかしくない。

 

 しかし。

 

 カルテルの連中は、まだこの辺りまで調査の手を伸ばしていないようだった。

 

「運がいい」

 

 所長は小さく笑う。

 

 そのままさらに移動する。

 

 やがて。

 

 木々の陰に隠された車が見えてきた。

 

「……」

 

 所長はしばらく車を眺める。

 

 周囲に誰もいない。

 

 車体にも荒らされた形跡はない。

 

「よし」

 

 慎重に近づき、車体を確認する。

 

 傷はない。

 

 窓も割られていない。

 

 鍵もそのまま。

 

 そして。

 

 運転席を開ける。

 

「……」

 

 中を確認する。

 

 昨日、昔馴染みに用意してもらった武器も、そのまま残っていた。

 

 大型拳銃。

 

 大型ライフル。

 

 対物ライフル。

 

 どれも無事だった。

 

「よかった」

 

 所長はようやく安心したように息を吐いた。

 

「武器まで探されてたら面倒だったからな」

 

 すべて無事なのを確認すると、所長は車へ乗り込む。

 

 エンジンをかける。

 

 ――ブルン。

 

「よし」

 

 所長はカルテルの拠点をもう一度見る。

 

 昨日の襲撃でかなり派手に暴れた。

 

 それでも、まだここまで捜索の手が伸びていない。

 

「助かったな」

 

 所長はそう呟き、そのまま車を走らせた。

 

     *

 

 向かった先は。

 

 軍の地区統括司令部。

 

 所長は門の前で車を止める。

 

「……」

 

 門番が所長を見る。

 

 昨日までの騒ぎを知っているのか、兵士たちの表情が険しくなる。

 

「またお前か」

 

「そう怖い顔するな」

 

「何しに来た」

 

「司令官に報告だ」

 

「……」

 

「約束を守りに来た」

 

「約束?」

 

「ああ」

 

 兵士は少し考える。

 

 やがて。

 

「……通せ」

 

 所長は車を降りた。

 

     *

 

 司令官の執務室。

 

 扉を開ける。

 

「失礼する」

 

「……」

 

 司令官が顔を上げる。

 

「お前か」

 

「ああ」

 

「昨日ぶりだな」

 

「そうだな」

 

「何をしに来た?」

 

「報告」

 

 所長は椅子へ座る。

 

 司令官は嫌そうな顔をした。

 

「座る許可を出した覚えはない」

 

「疲れてるんだよ」

 

「……」

 

 司令官は諦めた。

 

「それで?」

 

 所長は腕を組む。

 

「昨日の件だ」

 

「カルテルか?」

 

「ああ」

 

「どうなった?」

 

「かなり激しかった」

 

「……」

 

 司令官の目が細くなる。

 

「何をした?」

 

「調査だ」

 

「具体的に言え」

 

「敵の拠点へ侵入した」

 

「やっぱりか」

 

「情報を確認して、魔導鎧を一機回収した」

 

「……」

 

 司令官が固まる。

 

「一機?」

 

「ああ」

 

「魔導鎧を?」

 

「ああ」

 

「お前が?」

 

「そうだ」

 

 司令官は頭を抱えた。

 

「……どうやって」

 

「いろいろあった」

 

「その『いろいろ』を聞いている」

 

「敵の妨害が激しくてな」

 

「妨害?」

 

「ああ」

 

 所長は真顔で話し始める。

 

「敵が魔導鎧を使って襲ってきた」

 

「……」

 

「俺たちも応戦した」

 

「俺たち?」

 

「まあ、細かいことはいい」

 

「よくない」

 

「とにかく激戦だった」

 

「それで?」

 

「三機のうち一機はなんとか回収できた」

 

 司令官が眉を寄せる。

 

「残りは?」

 

「一機は敵の妨害で木っ端微塵になった」

 

「……」

 

「もう一機も戦闘中に大破した」

 

「……」

 

「だから持ち帰れたのは一機だけだ」

 

 司令官は所長をじっと見る。

 

「……本当か?」

 

「本当だ」

 

「お前が嘘をついているようにしか見えない」

 

「失礼だな」

 

「昨日のお前を見ていると、何をしていても不思議じゃないんだよ」

 

「それは褒め言葉か?」

 

「違う」

 

 司令官は深くため息を吐いた。

 

「しかし、一機でも回収できたのなら約束は守ったということか」

 

「そういうことだ」

 

「軍の魔導鎧を一機でも取り戻せたのは大きい」

 

「だろ?」

 

 所長は何でもないように答える。

 

「まあ、残りは残念だったな」

 

「……」

 

 司令官は疑わしそうな目を向ける。

 

「本当に木っ端微塵になったんだな?」

 

「跡形もない」

 

「そうか……」

 

 司令官はしばらく考える。

 

「なら、一機は確認させてもらおう」

 

「後で持ってくる」

 

「お前が?」

 

「もちろん」

 

「逃げるなよ」

 

「逃げねえよ」

 

 所長は立ち上がる。

 

「じゃあ、これで報告は終わりだな」

 

「待て」

 

「なんだ?」

 

「お前」

 

 司令官は所長を睨む。

 

「妙に機嫌がいいな」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

「約束を守れたからだろ」

 

「……」

 

 司令官は疑いを拭えない。

 

 だが、所長は気にせず部屋を出ていく。

 

 扉が閉まる。

 

 司令官はしばらく黙っていた。

 

「……本当に一機だけか?」

 

 誰も答えない。

 

 ただ。

 

 その日の軍の記録には。

 

 『魔導鎧一機、回収予定』

 

 とだけ記された。

 

 一方。

 

 その頃の所長は車へ戻りながら、煙草に火をつけていた。

 

「……うまくいったな」

 

 その顔は。

 

 昨日三機を盗んだ男とは思えないほど、満足そうだった。

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