爆音が響いた。
――ズドォォォン!!
鉄門を吹き飛ばした直後。
所長は対物ライフルを肩に担いだまま、楽しそうに周囲を見回していた。
「……」
目に入ったのは、監視塔。
そして、その奥に並ぶ建物。
「……」
所長は対物ライフルを持ち上げる。
遠くで昔馴染みが叫んだ。
「おい!」
「なんだ?」
「もういいだろ!」
「何が?」
「門は壊した!」
「そうだな」
「だから終わりだ!」
「まだだろ」
「何が!?」
所長は監視塔へ銃口を向けた。
「上に人がいる」
「だから何だ!」
「邪魔だ」
「待て!」
――ズドォォォン!!
監視塔が揺れた。
巨大な弾丸が塔の一部を吹き飛ばす。
鉄骨が曲がり、窓が粉々に砕ける。
塔が大きく傾いた。
「おお……」
所長が目を輝かせる。
「すげえな」
「すげえじゃねえ!」
昔馴染みが頭を抱える。
「司令官に何て言われたか忘れたのか!」
「……」
所長が止まる。
「何だっけ?」
「壊すな!」
「……」
「言われただろ!」
「ああ」
所長は頷く。
「言われたな」
「ならやめろ!」
「分かった」
所長は対物ライフルを構える。
「もう少しだけな」
「全然分かってねえ!」
――ズドォォォン!!
今度は建物の壁が吹き飛んだ。
「お前ぇぇぇ!」
昔馴染みの絶叫が響く。
所長は楽しそうに笑った。
「ははは!」
――ズドォォォン!!
さらに一発。
倉庫の屋根が吹き飛ぶ。
――ズドォォン!!
別の建物の壁が崩れる。
「最高だな!」
「だから固定して使う武器なんだよ!」
カルテルの構成員たちも完全に混乱していた。
「何なんだ、あの化け物は!」
「対物ライフルを振り回してるぞ!」
「しかも撃ちながら笑ってる!」
所長はもう聞いていない。
対物ライフルを肩から下ろすと、満足そうに眺める。
「いい武器だ」
その時だった。
「オーガ共は嫌なんだよ!」
怒号が響く。
所長が振り返る。
監視塔の陰から、複数の兵士が飛び出してきた。
「固定して使う物を振り回しやがって!」
「何だと?」
「オーガはみんなそうだ!」
「俺だけだろ」
「仲間の仇だ!」
兵士たちが一斉に銃を構える。
――ダダダダダッ!
銃声が響く。
所長は身体を捻る。
何発かが外套を掠め、地面へ突き刺さる。
「……」
所長の表情から笑みが消えた。
「俺に恨みがあるのか?」
「当たり前だ!」
「そうか」
所長は対物ライフルを下ろす。
「なら仕方ねえな」
大型ライフルへ持ち替える。
――ダンッ!
一発。
敵の銃器を弾き飛ばす。
――ダンッ!
二発目。
別の男が物陰へ転がり込む。
所長は走る。
「来るぞ!」
カルテル側も応戦する。
しかし。
普通の銃では所長の巨体を止めるのは難しい。
「駄目だ!」
「効いてねえ!」
「対オーガ用を持ってこい!」
その声を聞いて、所長の眉が動く。
「対オーガ用?」
嫌な予感がした。
建物の奥から、数人の男が姿を現す。
彼らが持っていたのは。
通常の歩兵銃より遥かに大型の銃器。
巨大な銃身。
分厚い銃床。
無理やり人間が扱えるようにした対大型種族用の兵器だった。
「撃て!」
――ズドン!
所長が横へ飛ぶ。
着弾地点の地面が弾けた。
「……!」
続けて。
――ズドン!
――ズドン!
大口径弾が次々と飛んでくる。
「おいおい……」
所長は建物の陰へ飛び込む。
「本気で俺を殺す気かよ」
「当たり前だ!」
敵の一人が叫ぶ。
「お前に恨みがある奴は、この街にいくらでもいる!」
「そうかよ」
所長は大型ライフルを握り直す。
「だったら――」
銃口を物陰から出す。
――ダァン!
一発。
敵の大型銃が弾き飛ばされる。
「――こっちも遠慮しねえぞ!」
所長が飛び出す。
大型ライフルを連射する。
敵が散開する。
銃声が交錯する。
砂埃が舞う。
建物の壁が削れる。
まるで小規模な戦場だった。
だが。
その時。
――ゴォン。
低い音が響いた。
「……?」
所長が止まる。
地面が震えている。
もう一度。
――ゴォン。
今度ははっきりと分かった。
何かが歩いている。
「……」
カルテルの構成員たちが道を開ける。
「来たぞ!」
「魔導鎧だ!」
所長の目が細くなる。
建物の陰から。
一機。
二機。
三機。
巨大な鉄の鎧が姿を現した。
魔石機関が唸りを上げる。
装甲が陽光を反射する。
それぞれが大型火器を装備している。
魔導鎧三機。
カルテルの戦力として。
堂々と戦場へ降り立った。
「……」
所長は大型ライフルを肩に担ぐ。
「なるほど」
口元が笑う。
「昨日の三機とは別か」
魔導鎧の一機が銃口を向ける。
「オーガを殺せ!」
機体が踏み出す。
――ズン。
地面が揺れる。
もう一機も続く。
――ズン。
三機目が大型銃を構える。
――ガチャリ。
所長はその光景を見上げた。
「……」
そして。
ゆっくりと大型ライフルを構える。
「面白くなってきたな」
周囲では、カルテルの構成員たちが歓声を上げている。
対して。
所長は。
笑っていた。
まるで。
巨大な玩具を目の前にした子供のように。
「さて」
所長は煙草を口に咥える。
だが、ライターがない。
「……」
少し考える。
「まあいい」
そして魔導鎧三機を見上げた。
「ぶっ壊すか」