アランスミシー探偵事務所の事件簿   作:山門門山

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case52 魔導鎧の力

第五十八話 三機の怒り

 

 所長は、目の前に立つ三機の魔導鎧をじっと見上げていた。

 

 大型。

 

 中型。

 

 そして――小型。

 

 昨日、軍の格納庫から盗み出したものとは別の機体。

 

 だが、その構成には妙な既視感があった。

 

「……三機とも種類が違うな」

 

 大型の魔導鎧が一歩踏み出す。

 

 ――ズン。

 

 地面が震える。

 

「貴様か……!」

 

 低い男の声が響いた。

 

「何がだ?」

 

「ふざけるな!」

 

 大型の魔導鎧が拳を握る。

 

「暴れるしか脳のないバカめ!」

 

「……」

 

 所長は眉をひそめる。

 

「初対面だよな?」

 

「初対面だからどうした!」

 

 中型の魔導鎧が前へ出る。

 

「今日、生きて帰れると思うな!」

 

「……」

 

 所長は煙草を咥えた。

 

「帰るつもりだったんだがな」

 

「黙れ!」

 

 さらに小型の魔導鎧が一歩前へ出る。

 

 こちらは女の声だった。

 

「お前が……!」

 

「ん?」

 

「私の息子を殺したな!」

 

 所長の表情が変わった。

 

「……息子?」

 

「あいつを殺したのはお前だ!」

 

「そうか」

 

 所長は煙草を口から外した。

 

「それで恨んでるのか」

 

「当たり前だ!」

 

「なるほどな」

 

 所長は少しだけ俯く。

 

 そして。

 

「司令官からはな」

 

 ゆっくり顔を上げる。

 

「極力殺すなって言われてるんだよ」

 

 三機の魔導鎧が身構える。

 

「犯罪者でも、法で裁くから殺すなってな」

 

「なら――」

 

 小型の魔導鎧が銃口を向ける。

 

「お前も法で裁かれろ!」

 

「……」

 

 所長の額に。

 

 青筋が浮かんだ。

 

「だが」

 

 所長は大型ライフルを片手で持ち上げる。

 

「お前らは殺す」

 

「何だと……?」

 

「俺を殺しに来てる奴を、わざわざ生かしてやるほど俺は優しくねえ」

 

 その瞬間。

 

 所長の姿勢が変わった。

 

「死にたくなきゃ逃げろ」

 

 大型ライフルの銃口が、魔導鎧の手元へ向く。

 

 ――ダァン!

 

 大口径弾が飛ぶ。

 

 大型魔導鎧が構えていた対オーガ用の大型火器が吹き飛んだ。

 

「なっ――!」

 

 続けて。

 

 ――ダァン!

 

 中型の武器が破壊される。

 

 ――ダァン!

 

 小型の銃器も弾き飛ばされる。

 

 三機とも一瞬、呆然とした。

 

「……」

 

 所長はライフルを肩に担ぐ。

 

「武器がなくても魔導鎧なら十分戦えるんだろ?」

 

 魔導鎧が唸りを上げる。

 

 その横で。

 

「おい」

 

 所長は昔馴染みを見る。

 

「何だ?」

 

「さっさと逃げとけ」

 

「お前は?」

 

「俺はこいつらと遊ぶ」

 

「三機相手だぞ」

 

「だから何だ?」

 

「……」

 

「また連絡する」

 

「本当に生きて帰れよ」

 

「努力する」

 

「それ、信用できないんだが」

 

「じゃあな」

 

 所長は手を振る。

 

 昔馴染みは苦笑しながら車へ向かった。

 

 やがて。

 

 車のエンジン音が遠ざかっていく。

 

「さて」

 

 所長は三機を見る。

 

「邪魔する奴もいなくなったな」

 

 大型魔導鎧が構える。

 

「殺せ!」

 

 ――ドンッ!

 

 魔導鎧が地面を蹴った。

 

「……!」

 

 速い。

 

 大型の巨体とは思えない速度だった。

 

 魔導鎧の腕が振り抜かれる。

 

 所長は腕を交差させて受け止める。

 

 ――ドォン!

 

 巨体が数メートル後ろへ滑る。

 

「……へえ」

 

 所長が笑う。

 

「力もあるな」

 

 中型が横から飛び込んでくる。

 

 所長が身を捻る。

 

 その瞬間。

 

 ――ヒュンッ!

 

 青白い光が走った。

 

「……!」

 

 所長の頬に、細い傷が走る。

 

 血が一筋流れた。

 

 所長が指で頬を触る。

 

「……刃か」

 

 魔導鎧の腕部。

 

 そこには魔力によって形成された刃が展開されていた。

 

 小型機も同様だった。

 

「魔力刃……」

 

 所長は血の付いた指を見る。

 

 そして。

 

 久しぶりに。

 

 少しだけ嬉しそうに笑った。

 

「なるほどな」

 

 大型が再び迫る。

 

 中型が左右から回り込む。

 

 小型が背後へ回る。

 

 三機が同時に接近戦を仕掛けてくる。

 

 ――ドン!

 

 ――ガン!

 

 ――ズン!

 

 拳。

 

 蹴り。

 

 魔力刃。

 

 魔導鎧の巨体が次々と迫る。

 

 所長はそれを受け、避け、時には拳で弾き飛ばす。

 

 だが。

 

「……!」

 

 また一筋。

 

 腕を魔力刃が掠めた。

 

 血が滲む。

 

「……」

 

 所長は傷を見る。

 

「なるほど」

 

 普通の銃弾ならほとんど気にしない。

 

 だが、この刃は違う。

 

 魔力によって形成された刃は、オーガの頑丈な皮膚を容易に切り裂いている。

 

 さらに。

 

 大型魔導鎧の拳が腹へ叩き込まれる。

 

 ――ドゴォン!

 

「ぐっ……!」

 

 所長の巨体が吹き飛ぶ。

 

 地面を転がる。

 

 口元から血が滲む。

 

「はは……」

 

 所長はゆっくり立ち上がる。

 

「……久しぶりだな」

 

 三機が再び構える。

 

 所長も大型ライフルを捨てる。

 

 武器ではなく。

 

 自分の拳を握る。

 

「こういうのは」

 

 所長の口元が吊り上がった。

 

「やっぱり楽しいな」

 

 魔導鎧三機が一斉に突っ込んでくる。

 

 そして。

 

 オーガと三機の魔導鎧による、本格的な近接戦闘が始まった。

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