アランスミシー探偵事務所の事件簿   作:山門門山

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case54 宝島

第六十話 戦利品

 

 カルテルの拠点を制圧してから、しばらく。

 

 所長は瓦礫の上で煙草を吹かしながら、周囲を見回していた。

 

 倒壊した建物。

 

 吹き飛んだ門。

 

 半壊した監視塔。

 

 あちこちから立ち上る煙。

 

 その光景を眺めていた所長が、ふと首を傾げた。

 

「……待てよ」

 

 近くに転がされていたカルテル構成員を見る。

 

「ここ、軍の管理地区だったよな?」

 

「……そうだ」

 

「ってことは」

 

 所長の目が輝く。

 

「軍の銃がいっぱいあるんじゃねえか?」

 

 男の顔が引きつった。

 

「……」

 

「あるよな?」

 

「……ある」

 

「どこだ?」

 

「言えるか!」

 

「そうか」

 

 所長は笑った。

 

「じゃあ起きてる奴を探すか」

 

「何をする気だ?」

 

「案内させる」

 

「誰に?」

 

「お前らに」

 

 所長は立ち上がった。

 

「俺、まだ暇なんだよ」

 

「……」

 

「それに」

 

 対物ライフルを肩に担ぐ。

 

「せっかく軍の管理地区まで来たんだ。手ぶらで帰るのももったいねえだろ?」

 

 男は青ざめた。

 

「お前……何をするつもりだ」

 

「銃を探す」

 

「……」

 

「あと金」

 

「……」

 

「情報も」

 

 所長は笑う。

 

「あるだろ?」

 

「……」

 

「全部案内しろ」

 

     *

 

 しばらくして。

 

 地下倉庫。

 

 重い扉が開く。

 

「……」

 

 所長の目が輝いた。

 

「おお……」

 

 そこには大量の銃火器が並んでいた。

 

 軍用拳銃。

 

 ライフル。

 

 機関銃。

 

 狙撃銃。

 

 大型銃器。

 

 弾薬箱。

 

 さらに軍から流れてきたと思われる装備まである。

 

「最高だな」

 

 所長は一本のライフルを手に取る。

 

「これ、いいな」

 

「それは軍の――」

 

「知ってる」

 

 別の銃を手に取る。

 

「こっちは?」

 

「それも軍の物だ」

 

「いいじゃねえか」

 

「よくない!」

 

 所長は笑った。

 

「積め」

 

「全部!?」

 

「全部」

 

「そんなに運べるわけ――」

 

 所長は通信機を取り出す。

 

「おい」

 

『何だ』

 

「人数連れてこい」

 

『……何人?』

 

「多い方がいい」

 

『また何か拾ったのか?』

 

「そういうことだ」

 

『何を?』

 

「荷物」

 

 通信を切る。

 

「あとトラックも頼む」

 

 昔馴染みは、嫌な予感しかしなかった。

 

     *

 

 その後。

 

 金庫の場所。

 

 武器庫。

 

 情報保管庫。

 

 所長は拘束した構成員を一人ずつ起こしては、場所を案内させた。

 

「ここか?」

 

「……はい」

 

「金は?」

 

「そ、その奥です」

 

「よし」

 

「情報は?」

 

「……そこに」

 

「よし」

 

 所長は満足そうに頷いた。

 

 やがて昔馴染みが人員とトラックを連れて到着する。

 

「……」

 

 昔馴染みは荷物を見る。

 

「お前」

 

「何だ?」

 

「これ全部か?」

 

「ああ」

 

「銃だけで相当あるぞ」

 

「だから人数を呼んだ」

 

「金まであるじゃねえか」

 

「見つけた」

 

「書類も?」

 

「見つけた」

 

「……」

 

 昔馴染みは額を押さえた。

 

「お前、本当に何でも持っていくな」

 

「使える物は持っていく」

 

「それを普通は盗品って言うんだよ」

 

「細かいな」

 

 トラックへ次々と物資が積み込まれていく。

 

 銃火器。

 

 弾薬。

 

 金。

 

 カルテルの記録。

 

 取引先の名簿。

 

 そして大量の情報。

 

 所長は満足そうに眺めていた。

 

「これだけあれば十分だな」

 

     *

 

 やがて。

 

 荷物の回収が終わる。

 

「よし」

 

 所長は対物ライフルを肩に担いだ。

 

「帰るか」

 

「もう帰るのか?」

 

「ああ」

 

 昔馴染みが安堵する。

 

 しかし。

 

「その前に」

 

「……何だ?」

 

 所長が建物を見る。

 

「もう少し壊しとくか」

 

「おい」

 

 所長は対物ライフルを構えた。

 

「何でだよ!」

 

「盗みがバレるだろ」

 

「もうバレるだろ!」

 

「証拠を減らすんだよ」

 

「減るどころか瓦礫しか残らなくなるぞ!」

 

 ――ズドォォォン!!

 

 建物の壁が吹き飛んだ。

 

「ははははは!」

 

 所長が笑う。

 

 ――ズドォォォン!!

 

 監視塔が崩れる。

 

「ははははは!」

 

 ――ズドォォォン!!

 

 倉庫の屋根が吹き飛ぶ。

 

「最高だな!」

 

 カルテルの構成員たちは、その光景を呆然と見ていた。

 

 銃口を向けられているからではない。

 

 目の前で、自分たちの拠点を破壊しながら大笑いしているオーガが。

 

 ただただ怖かった。

 

「……化け物だ」

 

「何なんだ、あいつ……」

 

「笑ってるぞ……」

 

「俺たちの基地を壊しながら……」

 

 所長はそんな声を聞くと、振り返った。

 

「おい」

 

 全員の身体が跳ねる。

 

「何か言いたいことがあるなら、好きに話せ」

 

「……」

 

「俺は別に構わねえぞ」

 

 所長は笑った。

 

「ただし」

 

 対物ライフルを肩から下ろす。

 

「余計なことを話したら」

 

 銃口を近くの男へ向ける。

 

「この銃口が、お前の家族のところへ向くだけだ」

 

「……!」

 

 所長は笑ったままだった。

 

「だから安心しろ」

 

「……」

 

「余計なことを話す自由くらいはある」

 

 カルテルの男たちは、一斉に口を閉じた。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 所長は満足そうに頷く。

 

「賢いな」

 

 そしてまた。

 

 対物ライフルを構える。

 

「じゃあ、もう一発」

 

 ――ズドォォォン!!

 

「ははははは!」

 

     *

 

 その頃。

 

 小型魔導鎧から降ろされた女は、拘束されたまま瓦礫の脇に座らされていた。

 

 意識を取り戻してから、ずっと所長を睨んでいる。

 

「……」

 

 所長がその前を通り過ぎる。

 

 そして。

 

 ふと立ち止まった。

 

「起きてるか」

 

「……ええ」

 

「暇だな」

 

「は?」

 

「お前、暇つぶしに付き合え」

 

「……」

 

 女の顔が引きつる。

 

「何をするつもり?」

 

「別に」

 

 所長はしゃがみ込む。

 

「少し話すだけだ」

 

「……」

 

「さっきは威勢が良かったのにな」

 

「……」

 

「息子の仇だとか、殺すとか」

 

「……」

 

「今は随分静かだな」

 

「命が惜しいだけよ」

 

「正直でいい」

 

 所長は笑った。

 

「お前、魔導鎧から降りたら結構普通なんだな」

 

「……何が言いたいの?」

 

「いや」

 

 所長は首を傾げる。

 

「さっきまであんなデカい鎧に乗ってたからな」

 

「……」

 

「降りたら小さいなと思って」

 

「……失礼ね」

 

「そうか?」

 

「そうよ」

 

「なら元気じゃねえか」

 

「……」

 

 女は呆れたように所長を見る。

 

「あなた、本当に暇つぶしでこんなことしてるの?」

 

「ああ」

 

「……最低」

 

「よく言われる」

 

 所長は立ち上がった。

 

「じゃあもう少しそこで待ってろ」

 

「どこへ行くの?」

 

「建物壊してくる」

 

「……」

 

 女は遠ざかっていく所長を見る。

 

 そして。

 

 遠くで。

 

 ――ズドォォォン!!

 

「ははははは!」

 

 また爆音と笑い声が響いた。

 

「……本当に最低」

 

 女は小さく呟いた。

 

     *

 

 やがて。

 

 昔馴染みが荷物の回収を終える。

 

「全部積んだぞ」

 

「よし」

 

「軍が来るまで待つか?」

 

「ああ」

 

 所長は煙草に火をつけた。

 

 その横には。

 

 拘束された女。

 

 そして。

 

 破壊された三機の魔導鎧。

 

 所長はそれらを眺めながら、満足そうに煙を吐いた。

 

「……結構いい仕事だったな」

 

 昔馴染みは燃え盛る基地を見た。

 

「これを仕事って言える奴、お前くらいだよ」

 

「そうか?」

 

「ああ」

 

 遠くから軍の車両が近づいてくる。

 

 所長は煙草を咥えたまま笑った。

 

「さて」

 

「今度は司令官に何て言われるかな」

 

 その顔は。

 

 まったく反省していなかった。

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