キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
全国小学生サッカー大会の準決勝から、原作とは大きく違うアナザーラインへ突入していきます。
以下の要素が含まれますので、大丈夫な方のみお進みください
原作と異なる展開・独自解釈・リアル志向の描写
主要キャラクターの死亡表現・重度シリアス(鬱)展開
身体的リスクや、現実的な制度(行政やスカウト等)のリアリティ
「もしもあの準決勝で、取り返しのつかない波乱が起きていたら……?」という、もうひとつの物語です。
それでは、大丈夫な方はどうぞお楽しみください!
第1話 秘策
全国少年サッカー大会、読売ランド。
緑のピッチを囲む澄んだ空気と、どこか汗匂い立つような熱気。サッカーに魅せられた少年たちならば、誰もが一度は夢に描く聖地である。
日本一の座をかけて、全国の激戦を勝ち抜いた猛者たちが鎬を削るこの地で、後世にまで語り継がれる大会があった。
大空翼、日向小次郎、岬太郎、松山光――。
後に日本サッカーを世界の表舞台へと引き揚げていく絶対的な立役者たちが、一堂に介した奇跡の大会。人々は後に、この大会を懐かしさと畏敬を込めて振り返ることになる。
だが、同時にその記憶は、あまりにも残酷な「波乱」と「悲劇」がもたらされた大会としても、人々の心に重く刻み込まれることとなるのだった。
選りすぐりの全国代表も、残すはわずか4チーム。
明和FC(埼玉)、南葛SC(静岡)、ふらの小(北海道)、そして武蔵FC(東京)。
頂点まであとふたつと迫ったこの4校が、いよいよ準決勝のピッチへと駒を進めていた。
準決勝を翌日に控えた夜。
ふらの小の宿舎では、キャプテンの松山光が静かに、しかしメラメラと青い闘志を燃やしていた。
(ようやく……日向に借りを返せるぜ)
松山の脳裏に浮かぶのは、大会初日、全国の球児たちが集う大きな食堂での出来事だった。
些細な接触から始まった一触即発の空気の中、松山は大人として、そしてチームの顔として冷静に謝罪の意を示した。しかし、返ってきたのは明和のキャプテン・日向小次郎の理不尽で強烈な**「平手打ち」**だった。
あの屈辱と頬の熱さは、今も残っている。
松山は大会中、自チームの戦力分析と並行して、勝ち進めば必ず準決勝で当たるであろう「明和FC」の映像と戦術を徹底的に研究し続けてきた。
夜のミーティング。ふらのの選手たちが集まる部屋で、松山が切り出した。
「みんな、聞いてくれ。明日の明和だが……日向のプレイは尋常じゃないくらい強力だ。正面からまともにぶつかれば、間違いなくうちが不利になる」
FWの小田が眉をひそめて尋ねた。
「じゃあ松山さん、やっぱり日向にマンマークをつけるんですか?」
松山は静かに首を横に振った。
「マークはつける。だが、狙うのは……日向に『ふっかける』ことだ」
部屋にざわめきが広がった。松山は言葉を続ける。
「明和全体に言えることだが、奴らのプレイは荒い。特に日向のプレイは強引そのものだ。まともに身体を当てにいったら、こっちが怪我をして終わる。だから……日向にぶつけられたら、ことさら大きくラフプレーをやられたとアピールするんだ」
一瞬の静寂の後、GKの加藤がハッと目を見開いた。
「なるほど……! そうなると奴はイライラしてプレイに集中できなくなる。下手したらイエロー、いやカードが出るかもしれないな!」
松山は力強く頷いた。
「そうだ。明日はとにかく日向をイラつかせ、自滅するのを待つ。……厳しい極寒の雪国で培ってきた我慢比べなら、俺たちが全国のどこに負けるってたまるか!」
松山の熱い眼差しに呼び応えるように、ふらのイレブンの顔つきが変わった。
「よし! 明日は明和を倒して、俺たちが絶対に決勝進出だ!!」
決戦の朝。
明和FCの宿舎で、日向小次郎は一人、自身の体に起きている不気味な異変と戦っていた。
(ちくしょう……身体が重てえ……)
足の奥が鉛のように重い。視界の端がかすかに熱を帯びている。
家計を助けるための日銭稼ぎのアルバイトと、明和での熾烈なトレーニング。幼い弟や妹たちを養い、母の苦労を減らすために重ねてきた限界超えのハードワーク――その代償という名のツケが、よりにもよってこの大一番でピークに達していた。
(ふざけるな……ようやく、ここまで来たんだぞ)
日向は己の太腿を強く叩き、激痛で意識を強引に覚醒させた。
(あとふたつ……あとふたつ勝てば、東邦学園への特待生入学が手に入る。俺が、俺のこの足で家族を楽にさせるんだ……!)
溢れ出る執念と闘志だけで、日向は身体の痛む悲鳴を力ずくで押し込め、ピッチへと向かった。
『ピーーーーッ!!』
準決勝第1試合の笛が鳴り響いた。
序盤から明和FCは前線の日向へボールを集め、猛攻を仕掛ける。しかし、日向の出足はどこか鈍く、切れ味を欠いていた。
さらに、日向を苛ませたのはふらのの「徹底的な違和感」だった。
「ピピッ! ファウル! ふらのボール!」
主審の甲高い笛が響く。
「何だと!?」
日向が強引に身体を入れようとするたび、ふらののDFはまるで吹き飛ばされたかのように大袈裟にピッチへ転がり、苦悶の表情を浮かべる。松山の授けた「秘策」が寸分の狂いもなく実行され、日向のプレイリズムをじわじわと破綻させていた。
「くそっ、どけえっ!」
身体の重さと、思い通りにいかない判定への苛立ち。焦燥感が日向の思考を支配していく。
それでも、日向小次郎という男の執念は規格外だった。強引なドリブルで二人を強行突破し、力任せに叩き込んだシュートがふらののゴールネットを揺らす。
【明和FC 1 - 0 ふらの小】
先制は明和。しかし、ふらのイレブンに焦りの色は一切なかった。
持ち前の組織力と静かなチームワークでパスを回し、着実に明和陣内へと攻め込んでいく。
そして前半終了間際。中央でボールを受けた松山の目に、猛スピードで突っ込んでくる猛虎の姿が映った。
(……来い、日向!)
松山がボールを流した瞬間、焦りと重圧で正常な判断力を失っていた日向は、スパイクの裏を剥き出しにした滑り込みで飛び込んだ。
ガッ……!!
「ぐわぁぁあーっ!?」
松山は絶叫とともに大きく宙を舞い、グラウンドに叩きつけられて激しく悶絶した。
『ピピッーーーーーーッ!!』
耳をつんざくような連続の笛。
主審が激しい足取りで日向へ駆け寄る。胸ポケットから勢いよく掲げられたのは――鮮烈な赤い札(レッドカード)。
一瞬にして、静まり返るスタジアム。
「……なっ!?」
あまりの出来事に、日向はその場に立ち尽くし、呆然と赤いカードを見つめることしかできなかった。退場。前半にして、エース退場。
そのとき、ベンチから嵐のような怒号が飛び込んできた。明和の吉良監督が、顔を真っ赤にして主審に詰め寄る。
「何で小次郎が退場なんじゃあつ! ちゃんと見てたのか、このクソ審判がぁ!!」
『ピピッ!』
主審の手が再び胸ポケットに伸びる。吉良監督へ提示されたのもまた――真っ赤なカードだった。
「監督、即刻ベンチから退席してください!」
エース・日向小次郎の退場。そして、指揮官・吉良監督の退席。
優勝候補の一角と目された明和FCは、前半終了を待たずして、その「頭脳」と「心臓」を同時に失うという致命的な崩壊を迎えたのだった。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
全小準決勝で起きた波乱。
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