キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
一方、松山も東邦学園関係者との面談が始まろうとしていた。
全国小学生サッカー大会が幕を閉じた翌日。
ふらの小の主将・松山光は、息子の応援のために上京していた両親と共に、東邦学園中等部の校長室を訪れていた。
立派な応接セットを挟み、対面には東邦学園中等部の校長、サッカー部監督の北詰邦彦、そして大沢スカウト部長が並んでいる。事前に広大なグラウンドや最新設備、清潔な寮などの施設見学を終えたところで、大沢スカウト部長が進行を開始した。
「……というわけで、光君の上京後のサポートや生活面につきましては、我が東邦学園が全力をもって対応させていただきます。ぜひ、光君を東邦学園にお預けいただけますよう、お願いいたします」
松山の父は静かに頷き、腕を組んだ。
「特待生待遇としてうちの光を……ですか。正直なところ、一般の学生としてとなれば、北海道からの上京費用、寮費、学費の負担も含め、とてもじゃないが光を東京へ出すことはできませんでした。ですが、特待生としてこれ以上ない環境でサッカーができるのであれば、親として異論はありません。……しかし、息子の人生です。最終的な決断は息子自身に委ねたいのですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんです。光君と松山ご家庭のご意向を何よりも尊重いたします」
大沢が柔らかな笑みを浮かべて頷く。
「光、お前はどうしたい?」
父の問いかけに、松山は少しの迷いもなく、力強い目で両親を見つめ返した。
「父さん、母さん……俺は東邦学園でサッカーがしたい。東京に行くことを許してください」
「お前自身が決めたことだ。反対はせんよ」
「ありがとう、父さん!」
松山は深々と頭を下げると、正面の東邦関係者へと向き直った。
「大沢さん、北詰監督、校長先生。東邦学園でお世話になります。よろしくお願いします」
深々と一礼した松山だったが、頭を上げたその瞳には、鋭い光が宿っていた。
「……ですが、質問とお願いが一つずつあります」
大沢はすっかり気を良くして頷いた。
「どうしたのかね? 何でも言ってごらんなさい」
「東邦学園からのスカウトの話……最初から俺が第一希望だったんですか? それより前に、本命として目をつけていた選手がいたんじゃないですか? ……例えば、明和FCの日向小次郎とか」
松山の母が慌てて制した。
「光! なんて失礼なことを……!」
「い、いや! うちは最初から君だけを評価して……!」
大沢がぎくりとして言葉を詰まらせる。
「昨日の決勝戦の前、観戦に訪れていた日向の前に東邦のスカウトが現れ、『優勝できなかったからスカウトの話は白紙にする』と断っていた話を耳にしました」
その言葉を聞いた瞬間、北詰監督の冷徹な視線が大沢スカウト部長へと突き刺さった。
「そ、それは……」
しどろもどろになる大沢を制し、北詰監督が自ら重厚な口調で割り込んだ。
「……そうだ。今、我が東邦学園に必要なのは、チームをコントロールするゲームメイカーと、圧倒的なストライカーだ。ストライカー候補として、明和の日向小次郎をマークしていた。だが……彼は君の作戦によって退場し、精神面の未熟さを露呈した。だからスカウトの対象から外したのだ」
真っ向から事実を認めた北詰に対し、松山は一歩も引かずに言葉を返した。
「北詰監督。今回は俺が奴の特徴を徹底的に研究し、封じ込めました。ですが、奴のストライカーとしての強さは本物です。俺が入った東邦であれば、奴に二度と自滅などさせません」
松山のまっすぐな眼差しが、北詰の瞳を射抜く。
「それに……南葛SCの岬太郎。あいつには卓越したフットボールセンスがありながら、父親の仕事の都合で転校を繰り返しています。ですが、全寮制のある東邦学園なら、腰を据えてサッカーに打ち込めるはずです」
北詰は眉をひそめ、不敵な笑みを浮かべた。
「君は……この私に戦力の獲得を進言しているのかね?」
「東邦学園が全国で勝つための、当然の提言をしたまでです」
物怖じひとつせず、ブレない軸を持って言い切った小学生――。
北詰監督はしばらく松山を凝視していたが、やがて「ふっ……」と短く鼻で笑った。
「……分かった。日向小次郎、岬太郎の二人の獲得については、ここで明言はできない。だが……松山光君。君の東邦学園への加入を、心から歓迎する。ようこそ、東邦学園へ」
北詰は力強く右手を差し出した。松山もまた、その手をしっかりと握り返した。
ふらの小主将・松山光、東邦学園中等部への入学決定――!
校舎の外まで松山親子を見送った後、東邦学園の三人は立ち止まった。
去っていく松山の後ろ姿を見つめながら、北詰監督が満足そうに呟く。
「ふっ……あそこまで物怖じせず、監督である私に自分の意見をぶつけられる小学六年生など、なかなかいないな」
「は、はい……」
「大沢部長、良い仕事をしてくれた。感謝するよ。……松山光、思わぬ『掘り出し物』だ」
北詰は視線をシャープに尖らせ、命じた。
「それと大沢部長、至急スカウト会議の準備をよろしく頼むぞ」
「はっ!」
自らが「プランB(滑り止め)」扱いであることを理解しながらも、腐るどころか激しい闘志を燃やして東邦学園への入学を決めた松山光。
この男の存在と、その揺るぎない覚悟が、東邦学園と日本サッカーの未来にどのような変革をもたらすのか――。
松山光、東邦学園に正式加入。ただ加入するだけでなく、チームとして必要なものを分析し、物怖じせず進言できる度胸。松山ならこうするかなと思って描きました。
※東邦学園スカウト部長大沢はオリキャラです。