キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜   作:ロンゲスト・ロード

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関東大会は東邦学園が優勝して幕を閉じた。しかし激闘はまだ終わらない!数週間後に始まる全国大会を前に闘志を燃やすのであった。そして翼も今日の敗戦を糧に全国大会での雪辱を誓うのであった。


第97話 忍び寄る敵

関東大会決勝が終わったその夜、都内・中央テレビの本社ビル。深夜近くにもかかわらず、スポーツ部のフロアは煙草の煙と熱気で淀んでいた。

「いやあ、今日の関東大会の決勝、現地で見に行ってきたけどすごかったぜ」

ディレクターの土井が、自販機で買った紙コップの缶コーヒーを手にデスクへ腰掛けた。隣の席で受話器を置いたばかりの同僚、小川が呆れたように鼻で笑う。

「すごいと言ったって中学生の試合だろ? うちは冬の高校サッカーっていう看板コンテンツがあるじゃねえか。それに中学サッカーは東邦学園の一強体制って聞いてるぜ。いまさら関東大会の中学サッカーなんか数字になるかよ」

「確かに今日の試合も東邦が最終的には勝った。だがな、相手の武蔵中学が相当追い詰めたんだよ。だから俺は東邦より、むしろ武蔵の方に価値があると見ている」

土井は身を乗り出し、デスクの書類を小川の目の前に突きつけた。

「今日は負けた。だが、都大会では武蔵が東邦に勝っている。つまりこれで1勝1敗だ。そして次の全国大会で、すべてを決する最後の雌雄を決するとしたらどうだ?」

「なるほど……“決着戦”のストーリーか。それだけで格好の煽りになるな」

「だろ! だが、それだけじゃないんだぜ」

土井はニヤリと口角を上げ、声をひそめて畳みかけた。

「武蔵はな、3年前の全小で劇的な最期を遂げたあの『三杉淳』がいた武蔵FCのメンバーがチームの根幹をなしている。さらにいま、そのチームを率いているキャプテンは誰だと思う? 当時の相手チームのキャプテンだった大空翼だ」

小川の目がギラリと光り、下卑た笑みがその唇に浮かんだ。

「……なるほど。亡き天才の遺志と背番号を背負い、かつてのライバルが日本一を目指して健気に戦うイレブン……。茶の間の主婦層から一般層まで大好物のコンテンツが満載じゃないか」

「三杉が亡くなったのは3年前だ。資料室に潜れば当時の全小のアーカイブ映像がいくらでも眠っている。死の直前に見せたっていう『伝説の11人抜き』の映像を繋いで流してみろ。サッカー好きの連中も大喜びで飛びつくはずだ」

小川もノリノリで手帳を開き、ペンを走らせる。

「そうやっていまから視聴者に刷り込んでおいて、彼らが進学する高校サッカーの激闘を前に特別番組でも組めば、涙を誘うのは必至だ。日本人得意の判官贔屓も手伝って、武蔵は極上のキラーコンテンツに化けるぜ!」

土井は手応えを確信し、奥の個室から出てきた人物に向かって声を張った。

「どうです、徳田プロデューサー! ぜひ武蔵中学サッカー部の密着取材の許可をお願いしますよ!」

腕を組み、難しい顔で話を聞いていたプロデューサーの徳田は、煙草の煙を吐き出しながら静かに思案した。

「……なるほど、企画としては悪くない。だが相手はまだ中学生だ。人の死を取り扱う以上、世間の目もある。重々気をつけて、あちらさんの迷惑にならないようにやってくれよ」

「はい! お任せください!」

土井は調子よく頭を下げた。

数時間後、局を出た土井と小川は、路地裏にある会員制バーのカウンターにいた。洗練されたジャズが流れる薄暗い店内で、小川がロックグラスの氷をカランと鳴らす。

「さっきの徳田さんの指示、どう思う? 正直、相手に気を使う余裕なんてあるか?」

土井は鼻で笑い、高級ウイスキーを口に含んだ。

「フン、そんなの真に受けるわけねえだろ! この業界、数字を取れば善、取れなきゃ悪だ。子どもへの配慮? 人の死への配慮? そんなもんどうでもいいんだよ! 数字がすべてなんだ! だろ、小川?」

グラスを傾けながら、土井の目は獲物を狙う猛獣のように濁っていた。

「それにさ、他局のJBSを見てみろよ。湘南の不良共を追いかけ回して『本物の感動ドキュメンタリー』を作ろうと躍起になってやがる。俺たちがコンテンツを囲い込んで何が悪いってんだ……」

「……だな。じゃあ今日は、その前祝いってことで」

重厚なグラスが触れ合い、バブルの夜に冷徹な欲望が溶けていく。

翌日、武蔵中学校。

激闘の関東大会決勝から一夜明け、サッカー部には疲労回復のためのオフが与えられていた。普段であれば、人影もまばらな静かな月曜日のグラウンドである。

しかし、この日に限って学校の敷地外周には異様な光景が広がっていた。

昨日の激戦の噂を聞きつけた一般生徒、地元のサッカー愛好家、さらには埼玉や千葉といった遠方から駆けつけたサッカーファンまでが、校門の周囲に溢れ返っていたのだ。

「なんだよ、今日休みかよ! せっかく千葉から見に来てやったのに!」

「大空翼はどこにいるんだ!? 横断幕を持って来たのに!」

練習が休みだと知ると悪態をつく者、フェンス越しにカメラを構える者、校内に強行進入しようとして警備員に止められる者。対応に追われる顧問の中田と学校職員たちの悲鳴のような声が響く。

グラウンドの脇でその群衆を見下ろしながら、コーチの浅田が顔を曇らせて兵藤監督に話しかけた。

「監督、これは……」

「やれやれ……。全国大会出場を決めたことで、世間の注目度が跳ね上がっちまったな。おまけに3年前の三杉淳の件がある。周りが勝手に感情移入して、勝手な物語を作り上げようとしてるんだ」

「おまけに今のキャプテンは、当時の相手チームだった翼君ですからね……。今日をオフにしておいて本当に正解でしたよ」

兵藤は腕を組み、鋭い眼光で校門前の狂騒を見つめながら、渋い表情で呟いた。

「ああ。……だが、これでは明日からの練習に決定的な支障が出るぞ」

この狭い敷地と剥き出しのグラウンドでは、選手たちのコンディション調整どころか、戦術練習の一片すら外の目に晒されてしまう。

そこへ、冷や汗を拭いながら電話機から駆け戻ってきた中田が息を切らして告げた。

「兵藤監督! 江ノ島中学の瀧本監督からお電話です!」

「……瀧本さんからか。わかった、今行く」

兵藤は短く答え、校舎へと足早に向かった。

関東大会の激闘が残した熱狂は、武蔵中学に「過熱報道と野次馬」という思いもよらぬ混乱をもたらしていた。そして、同じ刻に悲鳴を上げていた江ノ島中学の瀧本からの電話は、武蔵中学サッカー部にどんな運命をもたらすのか!?

 




翼たちが快進撃を続ければ続けるほどマスコミが騒ぐことはないのかなと疑問を思い描きました。翼たちが過去に全小に出ているのであれば、となればテレビ局のスポーツディレクターにその時の活躍は印象に残るはずです。ましてや三杉淳の悲劇も!そこから時を経て武蔵中学が快進撃をしていると知れば放ったらかしにするかなと思って描きました。

次回は12時頃の投稿です。
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