キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
関東大会終了から3日後。
メディアの暴走や一般客の押し寄せといった想定外のトラブルに見舞われながらも、3日間のオフを得てすっかりリフレッシュした武蔵中学サッカー部の面々を乗せた大型バスは、東名高速道路を走り静岡方面へと向かっていた。
車内前方、シートに深く腰掛けた兵藤に、隣の浅田が感心したように話しかけた。
「しかし……驚きました。兵藤監督が、まさか日本でも有数の巨大企業である『兵藤グループ』の御曹司だったなんて」
兵藤は窓の外へ視線を向けたまま、苦々しい表情で鼻を鳴らした。
「そんな大層なもんじゃないさ、浅田ちゃん。ほぼ勘当状態の身なんだからな」
「でも、そうでもしないとここまでスムーズに動けたかどうか……。監督のご実家が裏で手を回してくれたおかげで、武蔵中学も面倒な理事会をすべてすっ飛ばして、いま向かっているあの巨大施設を丸ごと貸し出してくれたんですから」
「……大人たちの醜いエゴから、あいつらを護るためさ。使える手段はなんだって使う」
兵藤は短く吐き捨て、後方のアスリートたちに目を向けた。
そんな大人の事情など露知らず、バスの後部座席では部員たちが全国大会で立ちはだかるであろう全国の強豪たちに想いを馳せていた。
「まだ抽選会は先だが、各地区の出場校が出揃ったな」
本間がノートを開きながら言った。一ノ瀬が手すりに肘をかけて頷く。
「関東の6校は言わずもがなだが、それ以外で一番不気味なのは九州1位の比良戸だな。次藤と佐野の日本人コンビに加えて、ボランチからセンターバックまでこなすファン・デン・ベルクと、絶対的エースのマルク・ブロンデ・ファルクっていうオランダ人留学生コンビが強力すぎる」
「あとは、大型GKの中西太一を擁する難波中学を大阪府決勝で破り、そのままの勢いで近畿を制した東一中も相当なダークホースだな」
「それと、東海大会を制した南葛中か……」
本間がふと呟き、前列に座る翼に視線を向けた。「翼君、南葛中はやっぱり、あの3年前の南葛SCのメンバーが中心なのかい?」
翼は振り返り、懐かしそうに目を細めた。
「俺も3年前の大会以来、誰とも連絡を取っていないんだ。だけど都大会決勝のあと城山監督とお会いした時に聞いたよ。石崎君がチームのキャプテンとしてすごく頑張っているって」
「石崎って、3年前ガッツあふれるサイドバックだった奴か」と真田。
「ああ。だが南葛にも凄腕の留学生が入ったって聞いたぞ?」と一ノ瀬が乗っかる。
「えっ、どんな選手なんだい?」
翼が身を乗り出すと、通路を挟んだ浅田が笑いながら会話に入ってきた。
「FWでアメリカ人の男の子よ! 確か名前はミハエルといったかしら。去年の夏休み頃に加入したらしいわよ」
「ナトゥレーザがいる俺たちが言えた義理じゃないが、どこも留学生を上手く組み込んでレベルアップを図っているんだな」
本間が感心したように言うと、浅田は人差し指をチッチッと振った。
「そんなことないわよ。全員日本人の生粋のチームで、堂々と地区代表を勝ち取ってきた学校だってあるわ。……たとえば、北海道のふらのとかね」
「……ふらの……」
その名前が響いた瞬間、旧武蔵FC出身の本間、一ノ瀬、真田たちの顔からふっと雑念が消え、静まり返った。
「……そうか。3年前の全小決勝、武蔵FCの最後の相手はふらのだったね」
翼が静かに呟くと、真田が真剣な眼差しで兵藤に話かけた。
「監督……一回戦とまでは言わねえ。だが東邦とぶつかる前に、ふらのと当たるようなトーナメント枠を引き当ててくれ」
一ノ瀬も真剣な面持ちで言葉を重ねる。
「東邦の松山とは都大会や関東大会でやり合っている。だがな……俺たち旧武蔵FCのメンバーが絶対に超えなきゃならない本当の壁は、ふらのなんだ」
「この2年、チームの低迷続きでふらのへのリベンジなんて口にする余裕もなかった。だが、ようやく巡ってきたんだ……あの時の決着をつけるチャンスが。頼むよ、監督」
本間たちの切実な眼差しを受け止め、兵藤は力強く首を振った。
「……本間。組み合わせはクジ引きだから絶対叶うとは言えないが……最高の枠を引き寄せられるように努力する!」
そんな熱い会話を交わしているうちに、バスは高速を降り、富士山麓の深い緑に包まれた目的地の施設へと到着した。
『武蔵医科大学 富士研修センター』。
バスを降りた部員たちは、眼前に広がる圧倒的な光景に思わず息を呑んだ。
「す、すげえ……! 雲一つない青空の下に、見事な天然芝のグラウンドが広がってるぞ!」真田が歓声をあげる。
「それだけじゃないわよ!」浅田が胸を張る。「クラブハウス内のジムには、最新のウエイトマシンや酸素カプセルまで完備されているわ!」
「こんな至れり尽くせりの環境で全国の調整ができるなんて……」本間が絶句する。
「ハハハ! 学校もそれだけ俺たちに期待してくれてるってことだな!」真田が嬉しそうに笑った。
「よし、全員降りたな!」
兵藤が一同を見回し、声を張り上げた。
「まずは宿舎に入って荷物を解け。その後、トレーニングウェアに着替えてグラウンド集合だ。……おっと、その前に。こんな恵まれた施設を使わせていただくスタッフの方々への感謝を忘れるなよ。それと――お前たちの全国に向けた実戦調整の相手も手配しておいた」
兵藤が指し示した駐車場に、ちょうどもう一台の大型バスが滑り込んできた。
プシューッとドアが開き、降りてきたのは江ノ島中学サッカー部顧問の瀧本であった。
「あれは……江ノ島中学!?」本間が目を見張る。
瀧本は兵藤の元へ歩み寄ると、深々と頭を下げた。
「兵藤監督、合同合宿の申し出を快く受けていただき、本当にありがとうございます。まさかこれほど素晴らしい施設を用意していただけるとは……」
「礼には及びませんよ、瀧本先生。江ノ島の激しいフットボールと合同合宿を張れるのは、うちの連中にとっても計り知れないメリットですから」
兵藤が笑みを交わしていると、バスから降りてきた江ノ島中学の面々が武蔵のメンバーを目ざとく見つけた。
「あっ! 翼さん! また会えましたね!」
江口翔子が目を輝かせ、一目散に翼のもとへ駆け寄っていく。
「おい翔子! 自分のデカい荷物くらい自分で持っていけ!」
主将である兄の江口大翔が後ろから叱り飛ばすと、翔子は露骨に嫌そうな顔で振り返った。
「うるさいわね! 兄貴が私の分も持っていきなさいよ!」
言い返した直後、翼が目の前にいることに気づいた翔子は、一瞬で声のトーンを3オクターブ落とし、しなやかに微笑んだ。
「あ……翼さん。私の荷物、自分で持ちますわ♡」
一方、江ノ島の誇る強力なコンビ、山村と加藤はマネージャーの北野陽子の姿を見つけるや否や、猛ダッシュで詰め寄っていた。
「陽子さん! 奇遇ですね、またお会いできるなんて! 重い荷物なら僕が持ちますよ!」
爽やかに微笑む山村を、加藤が力任せに押しのけた。
「おい退がれ山村! 初めまして陽子さん、私が加藤と申します! 山村は僕の舎弟みたいなものなので、何か困ったことがあればいつでも僕に言ってください!」
「こらっマー坊! いつから俺がお前の舎弟になったんだよ!?」
「うるせー! 俺が再来年の江ノ島のキャプテンになるんだから、お前は舎弟みたいなもんだろ!」
「なんだとコラぁ!?」
目の前で掴み合いを始めようとする二人の頭上から、副キャプテンである巨漢の赤城の怒声が落ちた。
「やめんかーっ! 馬鹿者共が!!」
赤城が二人をまとめて首ねっこで掴み上げ、恐縮して頭を下げた。
「す、すまん……見苦しい姿をお見せした……」
その様子を温かい目で見守っていた弥生が、クスリと笑って翼の隣に並んだ。
「翼君……なんだか、ちっとも退屈しなさそうな合宿になりそうだね」
翼はボールをギュッと抱え直し、眩しい太陽を見上げて爽やかに笑った。
「うん!」
雑音も、メディアの過熱報道も一切届かない富士の聖域。最高のライバルである江ノ島中学を迎え、武蔵中学サッカー部の全国制覇に向けた合同合宿が、賑やかに幕を開けた――。
同じ悩みを抱えた学校が集まった合同合宿!どうなることとなりますか!?
南葛中学の留学生のミハエルはテクモ版のゲームに出てくるアメリカのミハエルがモデルです。
※本日の投稿はこれで終了です。次は週末に投稿します。お付き合いいただけるとうれしいです。