キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜   作:ロンゲスト・ロード

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マスコミの過熱報道と周囲の過剰な反応による喧噪を避け、武蔵中学の経営母体である武蔵医療大学グループの力をフル活用して富士山山麓の保養所で調整に入るのであった。また同じような境遇の江ノ島中学も合流して全国大会に向けた合宿を開始するのであった。


第100話 再会の予感

 

関東大会終了から数日。過熱するマスコミの狂騒を逃れ、富士の深い緑に包まれた『武蔵医科大学  富士研修センター』では、外界の雑音を完全に遮断した熱い合同トレーニングが繰り広げられていた。

グラウンドで誰よりも目を輝かせて動いていたのは、意外にも武蔵中学サッカー部顧問の中田であった。

中田はノートとペンを握りしめ、江ノ島中学を率いる瀧本監督の後ろをピタリと追いかけ、熱心にメモを書き留めては怒涛の質問攻めを行っていた。

「なるほど……生徒の心身の育成は、サッカーの技術指導そのもの以上に重要であると! サッカーはあくまで人として成長を促すための手段……! いやあ瀧本先生、同じ教育に携わる者として本当に勉強になります!」

タジタジになる瀧本を横目に、コーチの浅田がクスリと微笑む。

「フフフ、中田先生もこの合同合宿で何か大きなきっかけを掴んでくれるといいのだけど!」

ピッチ上では、相変わらず賑やかな光景が広がっていた。

武蔵のゲーム形式の練習で翼が見事なミドルシュートを網に突き刺すと、江ノ島マネージャーの江口翔子が甲高い声を張り上げた。

「キャ~ッ! 翼さん、素敵~っ!!」

大きく手を振る妹に、ベンチ前で水分補給をしていた江ノ島主将の江口大翔が思わず怒鳴りつける。

「こら翔子! お前は江ノ島のマネージャーだろ! 相手のキャプテンに声援送ってどうすんだ!」

一方、実戦形式で鮮やかな連携からゴールを奪った山村と加藤の1年生コンビは、ハイタッチもそこそこに武蔵のマネージャー・北野陽子の元へ猛ダッシュで駆け寄っていた。

「陽子さん! 見てくれましたか僕のゴール! 今のゴール、陽子さんに捧げますよ!」山村が爽やかに胸を張る。

そこへ加藤がすかさず割り込み、山村の肩を突き飛ばした。

「颯、調子に乗るな! さっきのは俺のラストパスをお前が押し込んだだけだから実質俺のゴールだろ! それにお前の泥臭いゴールなんざ陽子さんは喜ばねえんだよ!」

「なんだとマー坊! 羨ましいだけだろ!」

「やめんか馬鹿者共! すぐピッチに戻れ!」

副主将の赤城の雷が落ち、首ねっこを掴まれて引きずられていく二人を見て、ベンチの兵藤監督が苦笑いを浮かべた。

「ハハハハ! うちの真面目な連中とはまた違った、いい賑やかさだな」

通常練習が終わった後も、両校の選手たちは誰一人として宿舎へ戻ろうとしなかった。広大な天然芝のそこかしこで、自発的な居残り自主練の花が咲いていた。

「翼さん! 1on1、付き合ってくださいよ!」

藤原がニヤリと笑ってボールを突くと、翼は即座にスパイクの紐を結び直した。

「いいよ藤原君、やろう!」

「火野! 俺のセービング練習に付き合え! お前の本気のシュートを打ち込んでくれ!」

赤城がグローブを叩き鳴らすと、火野は不敵に唇を歪めた。

「ふっ、いい度胸だ! 俺のシュートは生半可じゃ捕れないぜ!」

「望むところだ!」

「おいナトゥレーザ! ちょっと顔貸せよ! この前のリベンジだ!」

加藤と山村が挑むと、ナトゥレーザは白い歯を見せてボールをリフティングした。

「いいよ! 俺もまだまだやり足りないんだ!」

そこへ真田正巳が割り込む。

「ナトゥレーザ、俺も混ぜろ! 加藤、山村、お前らは知らんが、ナトゥレーザはお前らより先に俺の獲物なんだよ!」

夕暮れの富士の風が吹き抜ける中、あちこちでボールを蹴る快音と威勢のいい声が響き渡る。

「兵藤監督……江ノ島中学との合同合宿、大正解でしたね」

浅田が嬉しそうに目を細めると、兵藤も深く頷いた。

「ああ。あのまま東京の学校に残っていたら、これほど研ぎ澄まされた環境で練習することは不可能だっただろうな」

その頃――。

武蔵中学を包む混乱の原因である中央テレビの取材班は、武蔵中学校の正門前から少し離れた路上に中継車を止めていた。

「土井さん、ダメです!」

息を切らせて走ってきたADが頭を下げる。「学校側は『部活の取材は一切受け付けない』の一点張りです。近所の聞き込みもしましたが、生徒たちは学校とは全く別の場所で全国に向けた調整に入っているみたいです」

「チッ、どこへ雲隠れしやがったんだ……!」

土井が苛立ちを隠さずに煙草を揉み消したところへ、別のADが駆け込んできた。

「土井さん! 近所の住民からの情報です! 木曜日の早朝、サッカー部の連中が大型バスに乗り込んでどこかへ出かけていくのを見たそうです!」

土井の目がギラリと光った。

「そうか……分かったぞ! 武蔵は私立だ。経営母体のグループ企業が保有している静岡か神奈川の保養施設に逃げ込んだな! そこなら静かな環境で練習に集中できる……」

土井はニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、中継車のドアを叩いた。

「場所を特定次第、俺たちも向かうぞ! ……小川の奴は、うまくやっているだろうな?」

その頃、同僚の小川は土井よりも一足早く静岡県南葛市に入っていた。

向かった先は、南葛中学校。かつて大空翼が小学生時代を過ごした街である。

小川の表向きの取材名目は「地元静岡で開催される全国中学サッカー大会に向け、地元代表校の意気込みを取材する」というものだった。カメラの前で、南葛中主将の石崎 了が意気揚々とマイクを握っていた。

「……ええ! 3年前の全小準決勝で武蔵FCに敗れてから、僕たちも本当に傷つきました。中でも翼は特にショックが大きくて、一時期はサッカーボールを見るのも無理な状態だったんです。そんな環境を……まあ、捨ててブラジルに行っちゃいましたけどね! でも、こうしてまた全国の舞台で戦えるのは本当に嬉しいです!」

マイクを向ける小川が、言葉の端々に毒を含ませて畳みかける。

「全国で、その武蔵FC出身の選手たちにリベンジしたい気持ちはあるかい?」

「はい! それはもちろん、負けた相手なのでリベンジしたい気持ちはあります!」

「ありがとう! 南葛中学が全国大会で活躍するのを期待しているよ!」

取材が無事に終わり、石崎は胸を張って仲間の元へ戻ってきた。

「どうだお前ら! 俺の沈着冷静な受け答え! これで俺も一躍全国区の有名人だぜ!」

副キャプテンの浦辺が呆れ果てた顔で頭を振る。「まったく、お前は相変わらず調子いいな……」

だが、クールな井沢が顎に手を当て、不審そうに首をひねった。

「……しかし、さっきのインタビュー、ちょっと変じゃなかったか? やけに翼に関する質問ばかり多かった気がするぞ」

FWの来生も同意するように眉をひそめる。

「確かに! 俺もそう思った。翼は大事な元チームメイトだし、あいつと戦うのが目標でもあるが……今回の俺たちの全国出場とは直接関係ないだろ! てっきり俺たちの予選での戦いぶりを聞かれると思ってたのにさ」

石崎は能天気に笑い飛ばした。

「なぁにお前ら分かってねえな! 翼と俺たちの変わらない熱い友情に、テレビ局の人が感動したんだよ! ああ〜、早く翼と再会してぇなぁ!」

少し離れた場所で、マネージャーの中澤早苗は胸の前で両手をギュッと握りしめていた。

(……翼君……)

「翼は、やっぱりまだ東京で練習しているのかな?」浦辺が呟いたところへ、南葛中サッカー部顧問の古尾谷先生が歩み寄ってきた。

「いや、翼君たちはもう静岡に来ているそうだぞ」

「えっ!? 静岡に!?」部員たちが一斉に声をあげる。

「静岡県サッカー協会のお偉いさんに聞いたんだがね。マスコミの過熱取材のせいで東京での練習が困難になり、武蔵の関連グループが持つ富士の保養施設で合宿をしているらしい」

井沢の目が輝いた。

「じゃあ今、すぐ近くの静岡にいるんですね!? 先生、それなら武蔵中学に練習試合を申し込んでくださいよ! 武蔵は関東2位で、あの東邦すら倒している! 全国上位を目指す俺たちにとって、これ以上ない最高の練習相手です!」

「確かにな! 先生、俺からもお願いします!」

「俺も!」「先生、頼みますよ!」

石崎も慌てて前に出た。「こらっお前ら! キャプテンの俺を差し置いて勝手に決めるな! ……でも先生、俺からも頼みます!」

古尾谷は圧倒されながらも笑った。「わかった、わかったよ。ダメ元で武蔵の兵藤監督に連絡を入れてみよう」

友人の西本ゆかりが、早苗の肩をそっと叩いた。

「早苗、よかったね! あなたがずっと想い続けてきた翼君に、やっと会えるかもしれないね」

「……ゆかり……うん!」

しかし――この南葛中学からの熱い練習試合の申し出が叶うことはなかった。

数日後、東海エリアで放送された中央テレビのニュース番組。そこで流された石崎のインタビュー映像は、恐ろしい悪意によって切り貼りされていたのだ。

『翼は(自分たちの不甲斐なさに絶望して)自分たちを捨ててブラジルへ行った』

『(ライバルである)武蔵に転校した翼たちに、負けた相手としてリベンジしたい』

あたかも、大空翼が地元の仲間を見捨てて南葛から去り、武蔵に寝返ったかのようなストーリーに捏造されてお茶の間に流されたのだ。

この放送を宿舎のテレビで見た兵藤監督は怒りに震え、南葛からの申し出を即座に、そして固く断わりの連絡を入れた。いま南葛と接触すれば、捏造報道に拍車をかけられ、双方の選手たちが傷つくことが火を見るより明らかだったからである。

「すまんが古尾谷先生、この状況で試合を受けるわけにはいかん……」

そうして、早苗や石崎たちが待ち望んだ翼との再会は、全国大会が開幕するその日までお預けとなるのだった――。

 




マスコミの悪意のある捏造報道です。今でこそコンプライアンスの遵守が叫ばれてますが、この作品の時代設定の80年代後半から90年代前半はまだまだコンプライアンスという言葉も意識も薄かったので悪意ある報道もあったかもしれません。また、原作の石崎のキャラクターならそんなテレビ局側の思惑に気がつかずベラベラと喋ったかもしれません。サービス精神が旺盛なんでしょうが、そこを悪意ある大人たちに利用されました。武蔵中学は、このネガティブキャンペーンをどう乗り切る!?

本日も3話投稿です。次は12時頃です。
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