キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
夏の強烈な太陽が照りつける静岡県草薙総合運動場。蝉の時雨を掻き消すように、メインスタジアムを取り巻く巨大な歓声とブラスバンドの演奏が青空へと吹き抜けていた。
全国中学校サッカー大会。
全国の激戦区を勝ち抜いた16の精鋭校が一堂に会する、中学生サッカーの最高峰である。
開会式を直前に控え、スタジアム裏手の待機エリアには、各都道府県の代表ユニフォームに身を包んだ選手たちがひしめき合っていた。むせ返るような熱気と青々とした芝生の匂い、そして肌を刺す独特の緊張感。
「……すげえ熱気だな」
真田が周囲を見渡しながらつぶやいた。
「俺たちにとっては、3年ぶりの全国の舞台だからな」
一ノ瀬が胸のエンブレムに手をやりながら言えば、本間も静かに頷く。
「全国から選りすぐりの16校が残ったというわけか……」
しかし、周囲の代表校たちが武蔵中学に向ける視線は、決して穏やかなものではなかった。
「おい、見ろよ、あれが武蔵中学か……天才・三杉淳を失ってから3年、遂にこの舞台に戻ってきたか……」
「三杉淳の最後の相手となった大空翼がキャプテンで、“武蔵トリオ”がその脇を固め、さらに“三杉淳の再来”ナトゥレーザ、“南米帰りのストライカー”火野までいやがる。優勝候補にふさわしい面子だぜ!」
「おい、あいつらと談笑してるのは神奈川の江ノ島だぜ!主将の江口に副主将の“守護神”赤城……やっぱでけえー!それ以外にも“天才”藤原に、ヤンチャな1年生コンビ・加藤&山村もいるぞ!」
周囲のヒソヒソ話に気づいた加藤と山村が、噂話をしている選手たちを鋭く睨みつけ、威圧するように一歩踏み出そうとした。だが、その瞬間に巨大な影が差す。
「こら、余計な真似はするな!」
赤城がふたりの首ねっこをガシッと掴み、まるで子猫のように引きずり戻した。
「ひぃー!江ノ島、やっぱやべー連中だよ!」
その時、周囲のどよめきが一気に跳ね上がった。
前回の優勝校であり、現在2連覇中。今大会で怒涛の3連覇を目指す絶対王者・東邦学園が姿を現したのだ。
「来た、王者東邦だ!」
各代表校がさらに色めき立つが、東邦の面々はそんな視線など慣れっこだと言わんばかりに意にも介さない。
それどころか、彼らは自分たちが真に警戒すべき相手を見つけるやいなや、静かな、しかし苛烈な視殺戦を開始した。
松山は当然、大空翼を。
日向は火野を。
若島津は江ノ島の守護神・赤城を。
そして岬はナトゥレーザを――。
火花を散らす視線が交錯し、張りつめた緊張感が頂点に達しようとしたその時、大会関係者のマイク声が響き渡った。指示に従い、各校の選手たちが動き始める。
『――全国中学校サッカー大会、開会式を執り行います。選手入場!』
スタジアムを激震させる大歓声。
16校の選手たちが一斉に草薙メインスタジアムの眩しい緑のピッチへと足を踏み出していく。
いよいよ始まる、16校による一発勝負のトーナメント。
前回優勝校・東邦学園キャプテンの松山光による堂々たる選手宣誓や優勝旗返還が執り行われ、開会式は滞りなく終了した。
そして、各校はそれぞれの「次」の準備へと移る。
引き続きメイン競技場で開幕戦を戦う者、スタンドに戻り自分たちの出番まで静かに牙を研ぐ者、別の会場で試合があるためバスへ移動する者。
その束の間の時間に、グラウンド脇ではささやかな交流が行われていた。
「おーい、翼!」
底抜けて明るい声。3年ぶりに聞いたその声に、翼の表情が一気に緩む。
「石崎君!南葛のみんな!」
「翼、久しぶりだな!」
駆け寄ってきた井沢に、翼が嬉しそうに声をかける。
「井沢君!今は君がチームの中心なのかい?」
「いや、俺が中心っていうわけじゃないが……俺が10番をつけている」
「強いていうなら、俺たち元修哲トリオとあいつかな?」
来生が視線で示した先にいたのは、金髪をなびかせたアメリカ人留学生のミハエルだった。
「ハーイ、はじめましてでーす」
フランクな笑みを浮かべ、握手を求めて手を差し出すミハエル。
翼がその手を握り返した瞬間――ミハエルの瞳が、一瞬だけ獲物を狙う猛獣の鋭い光を放ち、翼と静かな火花を散らした。
その異様な緊張感に気づき、真田が割って入る。
「おいおい、お前らのせい……っていうか石崎のインタビューのせいで、一時期俺たちがどんだけ大変だったか!」
「よせ信次、あれはマスコミの悪意のせいだ。南葛のせいじゃない」
本間が窘めるが、南葛の浦辺が深々と頭を下げた。
「いや……あれは俺たちもなんかおかしいとは思ったんだが、うちの“馬鹿キャプテン”がベラベラ喋ったのは事実だ!すまん!」
「こらっ、浦辺!誰が“馬鹿”だ!」
「事実だろーが!」
ギャーギャーと言い争いを始める石崎と浦辺。その懐かしい光景に、翼は3年前の南葛SC時代を思い出し、ふっと胸を温かくした。
「なあ翼、岬の試合を観なくていいのか?」
傍らで見ていたナトゥレーザが声をかける。
「そうだった!東邦はこのあとすぐ出るんだった」
「げっ、俺たちもそろそろ南葛会場まで移動しねえと!あっ、いけねえ忘れてた!翼に会わせたい人がいるんだ!おーい、マネージャー!」
石崎の呼びかけに応じて、少し照れくさそうに歩み出てきたのは中澤早苗だった。
一瞬キョトンとする翼。
「……もしかして、あねご?」
コクリと頷く早苗。
「そうだったのか!雰囲気が変わって一瞬誰だかわからなかったよ!そうか、今はマネージャーなんだね。……弥生ちゃんと一緒だね」
「弥生」という思いがけない名前に、早苗の胸が小さく跳ねる。
そんな早苗の反応には全く気づかず、翼は爽やかな笑顔を弾けさせた。
「あねご、これからも石崎君……いや、南葛のみんなを支えて応援してあげてよ。じゃあ、俺行くよ!」
爽風のように去っていく翼の後姿を見送り、石崎が口を尖らせた。
「ちっ、翼のやつ相変わらずだぜ。もう少しあねごと話をしたらいいのによ……そろそろ俺たちも行くぞ!」
移動を始める南葛中学サッカー部。
同じ頃、ふらの中学サッカー部も束の間の再会を果たしていた。
「松山キャプテン!」
「おお、お前ら!」
声をかけてきた後輩たちに、松山が目を細める。現主将の小田が胸を張った。
「俺たち、キャプテンがいなくてもできるんだってことを見せたくて……!」
「小田、キャプテンは俺じゃない。お前だ!」
松山は力強く小田の肩を叩き、表情を締め直した。
「お前たちの1回戦の対戦相手、武蔵は強いぞ!翼もいるし、3年前に俺たちが倒した時とは全然違うぞ!」
「はい!わかっています。……決勝で東邦とやるのが、俺たちの目標ですから!」
力強く答えるふらののメンバーたち。その少し後方に、一人の少女が立っているのを松山が見つけた。
「君は……確か、藤沢さん?」
「えっ!?」と声を上げて驚くふらの陣営。
「キ、キャプテン!なぜうちのマネージャーを知っているんですか!?」
「……ああ。一昨年の北海道で開催された全中の決勝で優勝した後に、藤沢さんから手紙をもらってな。定期的に文通をしていたんだ。まさか藤沢さんがふらののマネージャーだったとはな」
赤くなる藤沢美子と、ニヤニヤする部員たち。そこへ岬も笑顔で加わり、束の間の思い出話に花が咲く。
だが、アナウンスの音がふたりの意識を現実へと引き戻した。
「よし……それじゃあな」
松山と岬はふらのの面々と固い握手を交わすと、一転して勝負師のような顔つきへと戻った。
運命の開幕試合。
対東一中戦へ向け、王者・東邦学園がピッチへと向かって歩み出す――。
中澤早苗に対してやや塩対応な翼でした。この物語で翼がブラジルへと渡ることになった経緯やブラジルでの生活、帰国してからの生活に中澤早苗が絡む要素が一切ありません!つまり原作のように中澤早苗が翼をマネージャーとして献身的に支えることが一切ないのに翼が中澤早苗に好意を寄せることはありません!この状況で翼が好意を持つことになったら“翼はどうかしている”と言わざるを得ません。
一方、藤沢美子ですが、中1の時に北海道で行われた全中の試合を観戦してから松山にファンレターを書いてそこから文通を開始したという設定にしています。文通での交流というのがこの時代ならではですが…
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