キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
全国大会1回戦、草薙メインスタジアム第2試合。
武蔵中学対ふらの中学の一戦が、いよいよ始まろうとしていた。
立ち並ぶ看板の向こう、超満員のスタンドもこの因縁深いカードに興味津々の様子でざわめいている。
「武蔵対ふらの……3年前の全小で対戦したメンバーが結構残っているんだよな?」
「ああ。ふらのの当時のキャプテン松山は、チームを全国優勝に導いた手腕を買われて東邦に引き抜かれたが、残された連中が引き継いだチームだ。対する武蔵は三杉淳が残したチームだが、そこに元南葛の翼や留学生のナトゥレーザ、南米帰りの火野が加わっているから……“純粋に残ったメンバー”の比率なら、ふらのかな?」
「でも大空翼って、南葛のチームメイトの出来の悪さに呆れてブラジルに渡り、帰ってきたら武蔵に行ったやつだろ?テレビの特集でやってたぞ。なんか酷くないか?」
「ああ、俺も見たよ!元親友で現・南葛キャプテンのやつがインタビューで答えてたから、相当嫌なやつなんだろうな」
「おい待てよ、別のテレビ局のドキュメンタリーに出てきた時は、そんな風には見えなかったけどな?」
「ふん、そんなの演出だろ!それにここは静岡だぜ。静岡を捨てたやつより、大黒柱が抜けても健気に戦うふらのの方が好感が持てるよな!」
事情を知らない観客たちの心ない噂話が、グラウンド近くの武蔵応援席にまで届いてくる。
3年前の悲劇と当時の事情をすべて知る保護者や関係者たちは、悔しさに胸を痛めていた。
「勝手なことばかり言って……!3年前、実たちがどんな気持ちで決勝を戦ったのかも知らないで……!」
本間の母親が拳を握りしめ、目元を濡らす。
「大空さん、気にしないで。ここにいるみんなは、翼君が決してそんな子じゃないって知っているから!」
「……本間さん、みなさん、ありがとうございます」
翼の母・奈津子が頭を下げる傍らで、後輩の小田由美が不安そうに問いかけた。
「弥生先輩は、当時もマネージャーだったんですよね?……どう思いますか?」
「由美ちゃん!」
北野陽子が窘めようとしたが、青葉弥生は静かに、しかし力強い瞳で語り始めた。
「あの時は……三杉キャプテンを亡くしたショックで、とても試合ができるような状態ではなかったの。それでも本間君たちが『三杉キャプテンのためにも』って強行出場したけれど、松山君率いるふらの相手には歯が立たなかった……。それに翼君は、他の誰よりも三杉キャプテンが亡くなったことを心から悲しんで、それを乗り越えるためにみんなを引っ張ってきたはずよ!」
弥生はスタンドの最前列へ駆け出すと、手すりを掴んで立ち上がり、腹の底から声を張り上げた。
「だから……私たちにできることは、翼君を、チームみんなを信じて支えることよ!……翼君、ファイトーーっ!!」
その真っ直ぐな大声援は、ピッチ中央に立つ翼の耳へとまっすぐに届いた。
「弥生ちゃん……!」
弥生の声援を口火に、武蔵の応援団全体に熱い火がついた。
「行けーっ!武蔵ーっ!」
「お前たちには俺たちがついてるぞ!」
「ファイトだーっ!!」
スタンドからの突然の爆発的な大歓声に、一瞬戸惑う武蔵イレブン。しかし、その温かい熱量が、逆に彼らの肩の力をふっと抜き、激しい緊張感を心地よい集中力へと変えていく。
「ったく……入れ込みすぎだっつーの」
真田が苦笑いしながらつぶやいた。
「だけど、これで冷静に試合に入れそうだぞ」
一ノ瀬が深く息を吐き出すと、本間が力強く頷いた。
「過去は変えられないが……そこに囚われていたら先には進めないからな」
その言葉を聞き、背番号10を背負う大空翼が振り返った。
「本間君、ようやく試合に挑めそうだね。……そうだ、気負う必要なんかないんだ。俺たちは自分たちが信じるものを追い求めるだけだ。行くよ、みんな!」
「ああ!」
「任せろ、翼!」
火野とナトゥレーザが力強く応じ、翼の一声のもと、イレブンがそれぞれのポジションへと散っていく。
【武蔵中学 スターティングメンバー】
GK:相川
DF:真田正巳、井川、真田信次、広瀬
MF:翼、ナトゥレーザ、本間、川村
FW:火野、一ノ瀬
ピッチに笛が響き、武蔵ボールでキックオフ!
開始直後から、武蔵は流れるような華麗なパスワークを展開。完璧に連動する動きに対し、ふらの陣営はマークを全く絞ることができない。
「くっ……!」
「速い……!」
あっという間にふらのゴール前へと迫る武蔵。
中央で溜めを作った翼が、左サイドから猛然と上がってきた真田正巳へ絶妙なパスを通す。真田正巳はクロスと見せかけ、中央のナトゥレーザへグラウンダーのパスを選択!
ボールを受けたナトゥレーザは、密集するふらのディフェンスのわずかな隙間を、まるでダンスでも踊るかのような超絶なドリブルで切り裂いていく。そして、飛び出しかけたふらのGK加藤の位置を冷静に見極めると――右足で優しくボールを掬い上げた。
鮮やかなループシュート!
加藤が必死に手を伸ばすが、ボールはその指先をあざ笑うかのようにかわし、綺麗にネットを揺らした。
前半4分、1-0!武蔵中学、鮮烈な先制ゴール!
静まり返るスタジアム。
ナトゥレーザが見せた次元の違う超絶な個人技に、さっきまで武蔵へ心ない批判を浴びせていた観客たちも完全に言葉を失い、やがて万雷の拍手と歓声がスタジアムを包み込んだ。
「おい……見たか今の!?」
「ああ……ほとんど角度がなかったぞ!?しかもあの密集地帯だぞ!?」
「あいつがナトゥレーザ……今の武蔵の14番か……!」
ベンチ前で腕を組むフィジカルコーチの浅田が、感嘆の声を漏らした。
「監督、スタンドの雰囲気が変わりましたね」
兵藤監督は不敵な笑みを浮かべ、頷いた。
「ああ。マスコミのネガキャンに引っかかった一部の連中のおかげで批判的な雰囲気があったが……あいつら、自分たちのプレイで完全に黙らせるどころか、味方にしやがった。……だが、これでいつものサッカーになる!」
目に見えない悪意ある敵を、ナトゥレーザの超絶技巧という圧倒的な一発回答で黙らせてみせた武蔵中学。
ここから牙を剥く武蔵の怒涛の攻勢に、果たしてふらのは耐え切ることができるのだろうか――!?
やはりメディアの影響力は大きく中央テレビのネガキャンを信じこむ人が一定数います。そんなアンチを黙らせるナトゥレーザの超絶個人技。この後の試合はどう展開するのでしょうか!?