キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
全国小学生サッカー大会終了の翌日、ふらの小主将・松山光の東邦学園中等部への入学が決定した。
松山は東京での面談を終えると、次なる戦いを見据え、北の大地・北海道へと帰郷していった。
その翌日。東邦学園・会議室。
北詰邦彦監督を筆頭に、大沢スカウト部長、コーチ陣、そして松本、田中をはじめとするスカウト陣が集結し、緊急スカウト会議が開催されていた。
大沢は元アスリートらしい屈強な体躯とイカツイ面構えの持ち主だが、フロントとしての思考は極めて論理的でスマートな男だ。感情論に流されることなく、物事を静かに収めていく切れ者である。
重苦しい空気の中、司会進行を務める大沢が静かに口を開く。
「……来年度の中盤、ひいては将来のキャプテン候補として、ふらの小の松山光君の獲得を決定した。全小優勝キャプテン、大会MVP、その実績と人間性は申し分ない」
大沢はメガネの奥の鋭い目を光らせ、会議室を見渡した。
「ただ……獲得に至る経緯には、大きな問題がある。当初、我々スカウト部からは『南葛SCの大空翼』『明和FCの日向小次郎』の二名を特待生A枠として獲得する、と報告を受けていたはずだ。なぜ土壇場でこれが変更になったのか? ……田中君、説明したまえ」
「は、はい!」
指名された田中スカウトが慌てて資料を準備しようとしたその時、座っていた松本スカウトが颯爽と立ち上がった。
「お待ちください。その件は担当の私が説明いたします」
自信に満ちた態度で、松本は大沢に向き直る。
「ご承知のように、担当スカウトである私は南葛の大空翼、明和の日向小次郎を特待生A枠の候補として追いかけておりました。ですが……日向小次郎は準決勝において感情をコントロールできない精神的未熟さを露呈して退場処分となり、大空翼は武蔵の三杉淳に対し歯が立たない実力不足をさらけ出しました。よって二人を対象から外し、見事な統率力でチームをまとめあげ優勝に導いた松山光を、A枠として推薦・決定いたしました」
大沢は体躯に見合う重厚な声で「ふん」と鼻を鳴らした。
「それは結果論だ。私が聞きたいのは、そうした欠点や危険性があることを知りながら、なぜ一度は二人をA枠として上に推薦したのか……ということだ。君は危うく我が校に大きな損失をもたらすところだったのだぞ」
「……それは、準決勝になるまで気づきませんでした」
「そうした危険性を事前に予見し、総合的に判断した上で我が東邦学園にふさわしいかどうかを見極め、推薦するのが君たちスカウトの仕事だと言っているのだ」
大沢の理路整然とした追及に、松本は悔しそうに唇を噛みしめた。
「それに君は、スカウティングの手法においても問題のある行為をしていたそうだな。……田中君、説明を」
今度は田中が意を決して立ち上がった。
「は、はい……。松本さんは大空翼君よりも、むしろ日向小次郎君に密着しておられました。しかしその際……『若林からペナルティエリア外からゴールを奪うことができたらNo.1ストライカーだ』と執拗に煽り、さらに彼の家庭環境を盾に『優勝して特待生になるのは必須だ』と……十二歳の少年に対し、過度なプレッシャーをかけ続けていたと言わざるを得ません」
「田中君!」
松本が弾かれたように席を立ち、鋭い視線で田中を睨みつける。
「松本君、席に座りたまえ」
大沢の静かだが威圧感のある一言に、松本は拒絶の表情を浮かべながらも渋々腰を下ろした。
「田中君の報告と照合すると……大空翼へのスカウティングはおざなりであり、日向小次郎に対してはあまりにも過剰で高圧的なスカウティングをしていた。……そういう認識でいいんだね?」
「……っ……はい。……事実です」
松本の絞り出すような声を聞き、大沢は腕を組みながら冷徹に告げた。
「松本君。君は優秀だ。だが、その優秀さゆえに選手を『一つの勝ちパターンを作るための駒』としか見ていなかったようだね。ましてや相手はまだ十二歳の子どもだぞ? 手本を示すべき大人がそのような振る舞いをしてどうする。子どもは大人の背中を見て育つんだ」
松本は返す言葉もなく、ただ無言で俯くしかなかった。
「君を、日向小次郎の担当から外す。いいね」
感情的にならず、スマートかつ容赦なく更迭宣告を下すと、大沢は手元の資料へ視線を戻した。
「さて、特待生の二つのA枠のうち、一つはふらのの松山光。もう一つは……家庭の経済的事情を考慮し、かつ我が校の主砲となるストライカー枠として、スカウト部から改めて日向小次郎の獲得を提案したい」
これを聞き、指導陣の山本コーチが身を乗り出した。
「確かに、我が校の補強ポイントとしては完璧に合致している。しかし……自己コントロールのできない選手を加入させて、チームとして大丈夫なのかね?」
「100%問題ない、と言い切ることはできません。しかし本人も今回の件でかなり反省し、苦しんでいるはずです。そして、その感情を正しく抑え、選手としての成長を促すのが我々大人の仕事です」
大沢のスマートな回答に、山本コーチはニヤリと笑みを浮かべた。
「なるほど。一級品の素材をさらに光らせることができるかどうかは、我々現場の指導力次第ということですか。……ふっ、鍛えがいがあるというものだな」
「はい。日向に関してはご家庭の事情もありますから、条件さえ提示できれば獲得自体は十分可能です。しかし……前担当者の件もあり、彼の中で我々東邦学園への心象は最悪なはずです。足元を見るような真似は一切せず、誠心誠意、私自らが彼の獲得のために動きます」
ここで、これまで静かに議論を聞いていた北詰監督が口を開いた。
「大沢さん、よろしく頼む。……それと、できれば中盤にもう一人、ゲームを作れる人材が欲しい。相手に松山と日向のラインを警戒し抑え込まれた際、別のルートから攻撃を組み立て、得点チャンスを作り出せる男がな」
「それならば……南葛SCの岬太郎君が適任かと思います。南葛でも大空翼の最高のサポート役として機能していましたから。……ただ、今年のA枠(全額免除)は松山君と日向君で使い切っております。B枠(一部免除)で納得してもらえるならば、狙えるのですが……」
会議室に一瞬の沈黙が流れた。そこに、田中スカウトが控えめに手を挙げた。
「あ、あの……! 入学時は『B枠』として納得してもらい……そこで実績を残せば『来年度以降はA枠に切り替える』という条件を提示するのはどうでしょうか?」
大沢の目が輝いた。
「なるほど! それならばご家庭への費用面での負担も最小限に抑えられるし、岬君自身のモチベーションにもなる。そしてこのメンツが揃えば……来年度の全国制覇も十分に可能だ!」
大沢は力強く頷き、田中に指をさした。
「よし! 田中君、岬君の獲得は君に任せる。ぜひとも成功させてくれよ!」
「は、はいっ! 尽力いたします!」
松本の暴走から始まった波乱のスカウト会議は、大人たちの誠実さと熱意によって新たな道を見出し、強豪校としてのプライドをかけたビッグ補強へと動き出していくのだった――。
原作で常々疑問に思っていたのは、なぜ翼と日向のダブル獲得を標榜しながら翼に断られてあっさり引き下がったのか?翼が取れなかった時のプランBはなかったのか?翼が取れなかったから代わりに若島津ではポジションも違うし、サッカー強豪校としてあまりにも杜撰なスカウト戦略だなと思っていました。また松本の日向への煽り、もしあれがなければ原作の決勝の試合展開はかなり違ったものだったのではないかと思いました。もし東邦学園がサッカー強豪校としてしっかりとスカウト戦略をとったらの視点で描いてみました。