キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
全国大会が開幕し、メイン競技場で行われた1回戦――東邦学園対東一中、武蔵中学対ふらの中学は、奇しくも全く同じ「6-0」という圧勝劇で、それぞれ優勝候補の本命としての存在感を見せつけていた。
一方、別会場の各グラウンドでも、全国の切符を勝ち取った強豪たちによる熱戦が繰り広げられていた。
南葛市営グラウンドで行われた第1試合には、神奈川代表の江ノ島中学が登場。関東大会で武蔵中学を最後まで苦しめたその実力が伊達ではないことを、満天下に証明してみせた。
ド派手な攻撃サッカーでゴールを重ねる江ノ島の姿に、超満員のスタンドからは惜しみない歓声が上がる。
「江ノ島、強ぇーっ!!」
「藤原のプレイはマジで異次元だぜ!」
「1年生コンビの山村と加藤も、威勢が良いだけのことはあるな!」
「それにしても赤城のあの抜群の安定感は何なんだよ!?」
「いやいや、それらを完全に見事に束ねている江口のキャプテンシーこそ本物だろ!」
怒濤のゴールラッシュで圧勝を飾った江ノ島ナイン。引き揚げてくるベンチ裏で、主将の江口が爽やかに汗を拭ぐった。
「さあ、俺たちは着替えが終わったら、そのまま第2試合を見学するぞ!」
「えーっ!?あたしはメイン競技場に戻って翼さんを応援するよっ!」
マネージャーの江口翔子が即座に異議を唱えると、1年生コンビの加藤と山村が身を乗り出した。
「翔子、そりゃないぜ!それなら俺たちもメイン競技場に戻る!」
「何を言っとるか、バカもんが!!」
赤城が怒髪天を突く凄まじい形相で一喝する。
「全員でそのまま観戦だ!!」
「ったく……あいつら全国大会に来てまで相変わらずだな。なあ、彰」
「フッ……翔子、翼さんは武蔵に行く前は南葛にいたんだ。南葛中学には翼さんの知り合いがたくさんいるんだぞ」
「ふん!?知り合いなんかいたって変わらねー……ハッ!そうか!翼さんの知り合いなら、あいつらから翼さんの過去の話が聞けるってことか!彰、いいこと言うじゃねーか!……しゃーねーなー、兄貴に免じて残ってやろうとするか!」
「翔子、お前な……」
呆れ返る江口をよそに、加藤と山村が駄目をこねる。
「でも俺たちはメイン競技場に……」
「颯!マー坊!お前たちは遊びじゃなくサッカーをしに来ているんだぞ!そこを履き違えるな!」
ベンチから瀧本先生の一声が飛ぶと、調子に乗っていた加藤と山村は一瞬で背筋を伸ばした。
「「……はい」」
そんな賑やかなやり取りが繰り広げられる中、いよいよ南葛市営グラウンドの第2試合、南葛中学(静岡)対花輪中学(秋田)の試合が始まろうとしていた。
地元・南葛中学の登場とあって、スタンドを埋め尽くしたギャラリーのボルテージは最高潮に達している。
その熱狂するスタンドの一角に、メイン競技場で第1試合を終えたばかりの東邦学園の岬太郎、新田瞬、そして数名のチームメイトたちが、山本コーチに引率されて滑り込んできた。
岬は万感の思いでスタンドを見渡す。
「懐かしいな……あの練習場に、こんなにたくさんの人が詰めかけているなんて……」
「岬!新田!」
聞き覚えのある懐かしい声に振り向くと、そこには南葛SC時代の恩師・城山監督が立っていた。
「城山監督!お久しぶりです!」
「ふふ、お前たちも立派になって……さっきの東邦の試合も大活躍だったな。お前たちが翼や石崎と直接対戦するときは、どちらを応援するか迷ってしまうが……今日はその心配はいらんな。しっかりと石崎たちを応援してやってくれ!」
主審の笛とともに、ピッチへと姿を現す南葛中学と花輪中学のイレブン。
スタンドの応援が一気にヒートアップする。
「行けーっ!南葛ーっ!」
「今年こそ全国優勝だぞーっ!」
その大歓声の中、南葛の先頭近くを歩く一人の金髪の少年が、実にフランクな仕草でスタンドへ手を振った。すると、女子中学生たちからけたたましい黄色い声援が上がる。
「キャーッ!ミハエルーッ!こっち向いてーっ!」
「……え?」
思わぬ光景に戸惑う岬と新田へ、城山監督が苦笑交じりに解説を入れた。
「あいつはミハエル。アメリカ人の留学生だ。父親が貿易関係の仕事をしていてな、その都合で去年の2学期にアメリカから転入してきたんだ。なんと……かつて翼が住んでいたあの家に、今は住んでいるんだぞ」
「翼君の家に……!?」
「ノリはあんな風に軽いが、実力は本物だぞ」
岬は思わず息を呑み、ピッチ上の背番号11を見つめた。
(……ミハエル……)
一方、ピッチ上では、ミハエルのアイドル気取りな振る舞いに、キャプテンの石崎が青筋を立てていた。
「おいミハエル!これから試合だぞ、気取りやがって!」
「オー、ソーリー。サル崎」
「だ、誰がサル崎だ!俺は石崎だっ!!」
「ははは、また始まったよ、あいつらの恒例行事」
呆れ顔で笑うのは浦辺だ。井沢も頼もしそうに頷く。
「うちの試合前の名物になったな。だがあいつがアメリカから来てくれたおかげで、プレッシャーから解放されてリラックスして試合に臨めるようになったんだから感謝しないとな」
「全くだ。……おい石崎、ミハエル、そろそろ整列だぞ」
「来生!キャプテンの俺を差し置いて勝手に仕切るなっていつも言ってるだろ!……よし、じゃあみんな、行くぞっ!」
「「おうっ!!」」
整列の瞬間、石崎は向かい合う花輪の立花兄弟に向かって、不敵な笑みを浮かべた。
「よう、立花兄弟!この試合、お前たちの得意な空中サッカーは、俺たちには一切通用しないぜ!」
「何寝ぼけたこと言ってんだ、このサルが!」
「ボールを顔面に受けすぎて、ついに頭がおかしくなったか?」
罵倒されても、石崎は自信満々の態度を全く崩さない。
「へっ、強がってられるのも今のうちだぜ!」
ピッチに漂う独特の緊張感。
主審の笛が響き、南葛中学対花輪中学の火蓋が切って落とされた!
南葛中学のスタメンは、GK森崎。DFに岸田、中山、高杉、西尾。MFはダブルボランチに石崎と浦辺、トップ下に井沢。FWは左にミハエル、中央に来生、右に滝という陣形だ。
南葛ボールでスタート。中盤でテンポよくパスが回る。
ダブルボランチに入った石崎から浦辺、そして前線の井沢へとボールが渡る。そのパス回しを見て、スタンドの岬が呟いた。
「……中盤の攻撃組み立ては、10番の井沢君に全てを託す形だね。石崎君と浦辺君は、汚れ役に徹してチームを支えているんだ……」
岬の的確な分析をよそに、前線でボールを受けた井沢が前進。右サイドの滝へ鋭いパスを送る。
滝は得意のサイドライン際のウイングプレイ……と見せかけ、鮮やかなステップで斜め内側へと切り込んだ!
「サイドラインベタ張りだけが俺の持ち味だと思われたら困るぜ!」
滝はディフェンスを引きつけると、そのまま左のオープンエリアへと展開!
そこに走り込んできたのが、背番号11のミハエルだった!
「行きますよーっ!」
ミハエルの超絶な切れ味を誇るドリブル!相手DFが一瞬で置き去りにされる。
そのままカットインから放たれた右足の一閃――放たれたシュートは猛烈なスピードで花輪ゴール右隅へと突き刺さった!
ドッ!!
前半3分、南葛中学が電光石火の先制点!!
「な……!?」
スタンドの岬が目を見開く。
「これが……新生南葛の実力……!」
「驚いたか、岬。これがあいつらの新しい武器だ。スピードだけなら、新田、お前以上かもしれないぞ」
「くっ……!」
城山監督の言葉に、新田は悔しそうに歯を食いしばった。
一方、いきなり先制を許した花輪の立花政夫が吐き捨てる。
「クソッ……翼や岬、若林のいない南葛なんて俺たちの敵じゃないと思っていたが……!」
「だったら、こっちもすぐにやり返せばいいんだよ、兄ちゃん!」
花輪ボールで試合再開。
立花兄弟は阿吽の呼吸を誇る超高速コンビプレイで、南葛の守備陣を次々と切り裂いていく。
「くそっ、あいつらのコンビプレイは相変わらず凶悪だぜ……!」
焦る石崎を嘲笑うかのように、政夫がペナルティエリア手前で仕掛けた。
「よし、仕上げだ和夫っ!!」
政夫がボールをゴール前へと高く打ち上げる!
和夫がボールの落下地点へ走り込み、ゴールポストを足場にして超高空へとジャンプしようとした――その瞬間!!
「空中サッカー破れたりぃぃぃっ!!」
石崎が叫びながら、反対側のゴールポストを思い切り力任せに蹴り飛ばした!!
ガンッ!!
激しい衝撃でゴールポスト全体が大きく揺れる!
ポストを足場にしようとした和夫は激しくバランスを崩し、哀れにも地面へと無様に叩きつけられた。浮いたボールは、駆けつけたGK森崎が難なくキャッチ。
「へへっ!見たか空中サッカー攻略法――」
自慢気な顔で親指を立てた石崎だったが――
ピッ!ピッ!ピッーーーー!!
静寂を切り裂く主審の激しい笛の音!
毅然とした足取りで石崎のもとへ歩み寄った主審が、胸ポケットから掲げげたのは……鮮やかな『イエローカード』だった!
「えっ……えええぇぇぇっ!?」
あまりの事態に石崎の目が飛び出そうになる。
「い、イエローカード!?なんでだよ審判!!」
「君ね!今大会は相手を危険に晒すプレイには厳しく対処すると、開会式前の主将会議で何度も伝えたはずだぞ!故意にゴールポストを揺らして相手の体勢を崩すのは重大な危険行為だ!」
主審は厳しく石崎を叱責すると、立ち上がった立花兄弟の方を振り向いた。
「それから君たち!ゴールポストを足場にして跳ぶようなプレイも大怪我の元だから絶対禁止だ!次にやったら即座にカードを出すからね!」
「「ゲゲッ……!?」」
自信満々に繰り出した石崎の「空中サッカー攻略法」は、単なる危険行為としてイエローカードを提示されるという大失態に終わってしまった!
「そんなぁぁぁ……俺の完璧な作戦がぁぁぁ……!」
頭を抱えて崩れ落ちる石崎。
試合はまだ始まったばかり――迷走気味のキャプテン石崎を乗せたまま、新生南葛の全国初戦は波乱の展開を迎えるのだった!
ミハエルですがゲームでは、ローズダンサーというドリブル技があったのでドリブルが得意という設定です。
明日も投稿します。3話投稿です。お付き合いいただけるとうれしいです。