キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
全国大会2日目。今日はベスト8の激突となる。
各会場とも第1試合から大きな盛り上がりを見せていた。
南葛会場にも、早朝から多くの観客がつめかけていた。
人波の中に、翼の母である大空奈津子、そしてロベルト・本郷の姿があった。久しぶりに訪れた南葛の風景に心を躍らせつつも、ふたりは同時に3年前の夏、翼が南葛を後にした日のことを思い出していた。
奈津子「翼がひっそり南葛のみんなの前から姿を消して3年たったのね…」
ロベルト「ええ、だが翼は、悲しみを乗り越え新しい仲間とともにこの場所に帰ってきた…」
そこへ、武蔵中学サッカー部のメンバーが姿を現した。
その瞬間、スタンドの観客から一斉に声援が飛ぶ。
「翼、頑張れ!」「翼、お帰り!」
「対戦相手が南葛じゃないからお前を応援するぞ!」
温かい歓声に、翼は視線を向ける。
翼「…みんな…。」
火野「へっ、翼、人気あるじゃねえか!」
翼「よし!やるぞみんな!」
武蔵中学のイレブンはグラウンドへと散り、ウォーミングアップから躍動感あふれる動きを見せる。
対する明和東中学。彼らは少し前に南葛会場に入った際、敷地内で東邦学園のメンバーと遭遇していた。
日向「…沢木、お前ら…」
沢木「よう日向、久しぶりだな?関東大会では当たる機会がなかったが、この大会では必ずお前を倒す。」
日向「フッ、威勢がいいな。沢木よ、お前たちのサッカーが武蔵に通用するとは思えんがな!」
沢木「それはどうかな?最後にピッチに立っているのが俺たちならば俺たちの勝ちだぜ!どんな手段を使ってもな。」
沢木の手加減のない眼光に、日向は気色ばんだ。
日向「まさか!お前たちラフプレーを仕掛けるつもりか!」
沢木「おいおい、サッカーは格闘技なんだろ!そう俺たちに教えて特訓を叩きこんだのは明和のキャプテンだったお前だろ!」
沢木は薄く笑いを浮かべる。
沢木「勝つためには、どんな手段でも使う!それだけだ!……じゃあな、試合後のお前の表情が見ものだぜ、日向!」
吐き捨てるように去っていく沢木たちの背中を見送りながら、日向は己の手を見つめた。自らが犯した過去の過ちの重さに胸が締め付けられる。
日向「何てことだ…俺は、誤った考えを仲間に教えていたのか…」
旧明和FC時代からのチームメイトである若島津と沢田が、日向の背中に歩み寄り気遣う。
若島津・沢田「日向さん…」
そこへ岬が静かな笑顔で声をかけた。
岬「大丈夫だよ、小次郎、彼らの考えを翼君たちなら気づかせることができるさ!」
松山「…そうだな。…不思議な気持ちだが、あいつらのことは翼たちに任せようぜ。」
アップの時間が終わり、主審の笛とともに武蔵中学 VS 明和東中学の火蓋が切って落とされた。
明和東のキックオフでスタート。
武蔵中学は、昨夜のミーティングでの指示通り、明和東の戦意を早々にくじくべく開始直後から前線へ鋭いプレスを仕掛ける。火野、翼、ナトゥレーザの3名で瞬時にボールホルダーの逃げ道を塞ぎ、翼が巧みな足さばきでボールをカット。
そのまま翼が推進力を上げて前進させようとした瞬間、翼の体が斜め後ろへ傾き転倒した。明和東の堀が、審判の影に隠れながら翼のユニフォームを力任せに引っ張っていたのだ。
スタンドの観覧席からそのプレイを見つめる松山たち。
松山「早速仕掛けて来やがったか…」
しかし翼はファウルに対しても表情ひとつ変えず、すぐに立ち上がってボールをセットする。
武蔵ボールでリスタート。
武蔵中学は一切ボールを停滞させず、華麗なパスワークで素早く明和東陣内へと押し込んでいく。明和東の激しいアフターファウルを避けるため、一接触の前にワンタッチ、ツータッチで叩き、相手に的を絞らせない。
トントンとテンポよくボールが繋がり、ペナルティエリア内でナトゥレーザへパスが通る。
ナトゥレーザがドリブルへ移行しようとするその刹那、彼は首をわずかに振って背後の敵の位置と距離感を完璧に把握していた。明和東のDFが勢いよく後ろから身体ごとチャージしてくるタイミングに合わせ、ナトゥレーザは接触の衝撃をそのまま利用するようにピッチへ倒れ込む。
ベンチの兵藤監督が思わず呟く。
兵藤「うまい!」
ナトゥレーザはピッチに伏せたまま、大袈裟に痛がる素振りを見せる。
主審の笛が鳴り響き、毅然としたジェスチャーでペナルティスポットを指さした。PK判定。
PKが告げられた瞬間、つい先刻まで顔を歪めていたナトゥレーザは何事もなかったかのようにすっと立ち上がり、ボールを抱えてペナルティスポットへ向かう。そのまま短い助走から冷静にゴールネットを揺らした。
前半8分、1ー0。武蔵中学が先制。
松山「ナトゥレーザのやつ、恐れいったぜ、明和東のラフプレーを利用して逆にPKを奪うとはな!」
岬「しかも敵がファウルに来る距離を計算した上だからね!さすがブラジルにいたことはあるね、駆け引きに長けているね。」
松山「岬、お前の言うことが正しければ翼、ナトゥレーザ、火野にはラフプレーは通用しないってことになるな!」
岬「100%とは言えないけど、予想できるものは対策を立ててくるんじゃないのかな?」
日向「…火野…」
試合は明和東ボールでリスタートしたものの、武蔵は前線から休むことなくプレッシャーをかけ続ける。焦った明和東は縦へのロングボールで圧力を逃れようとするが、武蔵の最終ラインが見事な統制でオフサイドトラップを完成させ、反撃の手がかりを一切与えない。
逆に武蔵は洗練されたパスワークから主導権を握り続ける。前半16分、ペナルティエリア手前で獲得したセットプレー。キッカーからの精緻なクロスに対し、火野が圧倒的なジャンプ力で頭ひとつ抜け出し、豪快なヘディングで押し込んで追加点を奪う。
2ー0。
松山「火野のやつ、ジャンプする直前、ディフェンダーの肩を抑えてやがった!しかも審判には見えない位置でだ!」
岬「都大会で小次郎の左側をつついたり、関東大会では、タケシを走らせたり、武蔵は徹底的に弱点をつついてくるね。」
松山「…ああ、あいつらしたたかさまで兼ね備えてやがる。だが、点差が徐々に開き始めてくると試合が荒れだすだろうな…」
岬「…翼君…」
松山や岬の危惧通り、点差が開き始めたことで明和東は焦りと焦燥から集中力を欠き始め、プレイングの荒々しさが目立ち始めた。
中盤で武蔵の川村がボールを保持し、前線の翼へラストパスを供給しようとした瞬間、堀の鋭いタックルが川村の軸足を目がけて襲いかかる。川村は間一髪で接触を避けたものの、体勢を崩してピッチへ倒れ込んだ。しかし主審の笛は鳴らない。
ベンチの兵藤監督が立ち上がり、声を荒げる。
兵藤「今のはファウルだろ!」
ピッチ上の翼は、試合の空気が荒れ始めたことを肌で感じ取っていた。これ以上危険なプレイを誘発させないためにも、完全に戦意を喪失させる必要がある。
翼はペナルティエリア外、やや距離のある位置でボールを受けると、迷いなく右足を振り抜いた。独特の軌道を描いて急降下するドライブシュートがゴールネットを揺らす。
前半23分、3ー0。
その後も武蔵中学は浮足立つことなく集中力を維持し、ゲームを完全にコントロールしたまま前半を3ー0で折り返した。
試合の流れは完全に武蔵が掌握している。だが、荒々しさを増す明和東のラフプレーに対し、後半どのような対応を見せるのか。
荒れ模様の試合、武蔵中学はどう切り抜けるのか!?
本日の投稿は終了です。次回は週末に投稿となります。