キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
全国大会2日目。南葛会場の第1試合、武蔵中学 VS 明和東中学は武蔵の圧勝で幕を閉じた。
しかし、この試合が人々に残した強烈な印象は、スコアそのものよりも試合の内容にあった。あまりにもラフプレーに頼った力任せの明和東に対し、負傷退場した仲間たちの悔しさと怒りが乗り移ったかのような武蔵中学の鬼気迫る戦いぶりであった。
それはピッチの戦いを見つめていた観客にとっても同じだった。
試合終了の笛が鳴ると、武蔵中学のイレブンには温かい拍手と大きな歓声が惜しみなく送られた。しかしその直後、明和東の選手たちに対しては容赦のないブーイングと罵声が浴びせられた。
「ざまあみろ!」
「汚いサッカーばっかしてるから自業自得だろ!」
「さっさと荷物をまとめて静岡から出ていけ!」
「埼玉の恥が!」
「悔し泣きする暇があれば怪我したやつに謝ってこい!」
ピッチを引き揚げる明和東へ向けられる過剰なまでの拒絶反応に、武蔵のメンバーも思わず困惑の表情を浮かべる。
本間「何もあそこまで言われなくても…」
真田「確かにな…俺も試合中は腹が立ったけど、試合が終わればノーサイドだ!」
ベンチ前でその光景を見ていた兵藤監督も、苛立ちを隠せない様子で呟いた。
兵藤「チームの責任者は何をやっているんだ! なぜ子どもを矢面に立たせている!」
だが、観客たちの激しいヘイトが収まる気配は一向になかった。
スタンドの片隅でその惨状を見かねた日向小次郎が、衝動的に明和東の元へ向かって歩き出そうとした。若島津健と沢田タケシも、迷いなくその背中に続こうとする。
「どこへ行く、日向、若島津、沢田!」
背後から北詰監督の鋭い声が飛んだ。日向は振り返り、切羽詰まった表情で訴えかけた。
日向「あいつら、明和東の所です! 俺のせいなんです。俺が小学生の時に歪んだ勝負理論を明和に持ち込んだせいなんです。だからあいつらは悪くないんです! 裁かれるべきは俺なんだ! だからあいつらのところに行かせてください!」
懇願する日向の横で、若島津と沢田も頭を下げる。
若島津・沢田「お願いします、俺たちも行かせてください!」
毅然とした態度の北詰も、日向たちの必死な眼光と事態の深刻さに、どう判断すべきか一瞬迷いが生じた。
その時——人波を押し分けるようにして、別の大人の叫び声が響き渡った。
「明和東の子どもたちは悪くない! そのように指導、指示してきたのはわしだ!」
日向たちが驚愕して声の主へ視線を向けた。
日向「吉良監督!」
声の主は、かつて彼らを率いた明和FCの監督であり、現在は沖縄でサッカースクールを開校している吉良耕三であった。
吉良「サッカーは格闘技だと言って子どもたちにラフプレーを指示し、歪んだ倫理感を植え付け、技術指導もそこそこに精神論の押し付けをしていました。罰せられるべきは子どもでは断じてありません。子どもたちには罪はありません!」
周囲の観客に届く大声でそう叫ぶやいなや、吉良はその場に膝をつき、アスファルトへ額を深く擦り付けた。
かつての指導者が衆目の中で見せた決死の土下座。あまりの光景に毒気を抜かれた観客たちの罵声は途切れ、会場のトーンが急速に下がっていった。
場所を移動し、建物の陰となった通路で、明和東のイレブンと日向、若島津、沢田が顔を揃えていた。
その前で、吉良は改めて深く膝を折り、頭を下げて謝罪した。
吉良「小次郎、沢木たちよ、わしの指導が間違っていた! 沢木たちにはつらい思いをさせてしまった。わしが精神論に頼らずしっかり技術指導をしておければ、今日みたいなことにならなかったんじゃ! 本当にすまん!」
頭を下げ続ける吉良に向かい、沢木が胸の奥底から込み上げる感情を吐き出した。
沢木「今さら謝ってもらってもな、失った時間は戻らないんだよ! 俺たちだって、俺たちだってサッカーが好きなんだよ!」
沢木の目から涙があふれ出る。
沢木「なのに、あんたの歪んだ指導のせいで…!」
搾り出すような沢木の叫びに、その場に居合わせた者は誰も言葉を返すことができなかった。重苦しい沈沈黙が広がる中、沢木が再び吉良を睨みつけて吠えた。
沢木「吉良監督、あんたに復讐してやるよ!」
日向「沢木!」
沢木「だけどな、ラフプレーなんか使わなくクリーンなプレーでな! そうした指導者に出会って、あんたの時代錯誤な指導を笑ってやるぜ!……日向、お前だっていい気になるなよ! 今は無理でも高校では必ずお前たちに勝つからな」
強い意志を瞳に宿し、言い放った沢木を筆頭に、明和東のイレブンは吉良や日向たちの前から去っていった。
去り行く沢木たちの背中を見つめる日向は、膝をついたままの吉良を気遣おうと手を伸ばした。
日向「吉良監督…」
吉良「いいんじゃ、小次郎……小次郎よ、お前が都大会で敗退してから関東大会決勝での見違えたプレーを見て、わしの間違いに気づいたんじゃ! …わしの指導は間違っていた。わしのせいでたくさんの子どもたちに取り返しのつかないことをしてしまった」
吉良は自らの拳を地面に押し当て、絞り出すように言葉を続けた。
吉良「小次郎、わしはお前たちの前に2度と姿を現さん。わしの指導を反面教師として乗り越えてゆけ!」
それだけを言い残すと、吉良は力なく立ち上がり、寂しげな後ろ姿を見せながら日向たちの前から去っていった。
その背中を、日向、若島津、沢田は無言のまま見送り続けた。
(吉良監督、今までありがとうございました…)
胸の中で感謝と決別を告げた日向は、深く息を吐くと、隣の二人に視線を向けた。
日向「若島津、タケシ、みんなの元に戻るぞ! 次は、俺たちの番だ!」
若島津・沢田「はい、日向さん!」
気持ちを切り替えた3人は、待機する松山たち東邦イレブンの元へと合流していった。
一方、地元・南葛中学の控室前でも、選手たちがそれぞれの胸の中に熱い闘志をたぎらせていた。
浦辺「いよいよ、俺たちの番だ…」
井沢「翼の前で、俺たちが岬、新田を倒してやるぞ!」
来生「俺たちの3年間の悔しさをぶつけてやるぜ!」
ミハエル「今日も、ミーが活躍しまーす」
意気込むメンバーの前に、キャプテンマークを巻き直した石崎が割って入る。
石崎「お前ら、キャプテンの俺を差し置いて勝手に盛り上がるな!」
浦辺「ったく、毎度世話のやけるキャプテンだぜ!」
石崎「うるせー、俺はやる時はやる男なんだよ! 行くぜみんな! 気合入れろよ!」
一同「おう!」
地元の声援が降り注ぐピッチへと、勢いよく飛び出していく南葛中学のイレブン。
準々決勝第2試合——南葛中学 VS 東邦学園の決戦が、まもなく始まろうとしていた。
吉良耕三というキャラですが、改めて振り返ればとんでもない指導者だなと!今の時代では生き残れないはずなのに原作ではオリンピック代表監督です!代表監督の役職に今後就くのはよしとしてもやはりこれまでの自分の指導にはけじめが必要かなと思いこの描写を描きました。次はいよいよ地元南葛中学の登場です!
次の投稿は12時頃です。