キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
全国大会準々決勝・第一試合。武蔵中学対明和東中学の一戦は、武蔵中学の勝利という形で幕を閉じた。
スコアの上では順当な結果であったが、試合内容は凄惨を極めた。明和東の苛烈なまでのラフプレーにより、武蔵中学の小島が負傷退場を余儀なくされるなど、ピッチ上は終始荒れ模様となったのだ。試合終了後、スタンドからは荒い戦い振りを続けた明和東イレブンに対し、容赦のない怒号と野次が浴びせられた。
その混乱を収めたのは、かつて彼らを率いた元明和FC監督・吉良耕三であった。
吉良は自らの過剰な勝利至上主義と指導の非を認め、明和東の部員たち、そして教え子である日向、若島津、沢田の前で深々と頭を下げた。過去の過ちと向き合い、二度と彼らの前に現れないことを告げて去っていく吉良の背中を、かつての教え子たちはただ黙って見送るしかなかった。
第一試合の荒れた熱気がようやく静まりを見せ始めた頃、いよいよ第二試合――南葛中学対東邦学園の注目の一戦が始まろうとしていた。
会場である南葛市立サッカー球技場は、埋め尽くした観客のほとんどが地元・南葛の応援団で占められており、スタンドは早くも熱狂的な熱気に包まれていた。
「ついに我らが南葛が、王者東邦に挑むぞ!」
「しかし、今年の東邦の戦力は歴代最強だぜ!そう簡単にうまくいかないだろ……何しろ、小学校時代の南葛SC三本柱は、こぞって他府県か海外に行っちまったんだぞ!そのうちの1人、岬があの東邦にいるんだ!」
「それだけじゃない!次の代で南葛に日本一をもたらした元キャプテンの新田だって、今は東邦の主力として立ちはだかるんだぞ!」
「ああ、わかってる!わかっちゃいるが……残されたメンバーがどんな思いでこの舞台までたどり着いたか知ってるか!? 俺はあいつらが毎日、血の滲むような猛練習に取り組んできた姿をずっと見てたんだ!だからこそ、あいつらが王者東邦を倒す瞬間が見たいんだよ!」
「あいつらがピンチになったら、俺たちが声を張り上げて背中を押してやるんだ!」
「そうだ!ここは俺たちのホーム、南葛だ!応援しなくてどうするんだよ!」
熱っぽく語り合う男性客たちの熱気とは対照的に、スタンドの一角からは黄色い歓声が上がっていた。彼女たちのお目当ては、南葛の11番を背負うミハエルである。
「キャー!ミハエル、素敵ーっ!」
「ミハエル!ミハエル!ミハエル!」
自陣のピッチ際で華麗にボールを扱いながら、爽やかに手を振ってみせるミハエル。男性客たちも負けじと声を張り上げる。
「南葛ーっ!」
「石崎!今日もガッツだぞ!」
「井沢、今日のゲームメイクは頼んだぞ!」
地元の大歓声を全身に浴び、南葛イレブンの表情に引き締まった気合が走る。
「この声援はありがたいな。俺たちの背中を力強く押してくれるぜ」
10番を背負う井沢が静かに呟く。
「全くだ!完全に俺たちのホームグラウンドだからな!」
浦辺が不敵に笑えば、来生も視線を東邦ベンチに向けながら応じた。
「ああ、東邦だってこの独特なアウェー感はやりづらいはずだ。なあ、石崎!」
仲間から話を振られた石崎だったが、その視線は東邦でも試合への集中でもなく、スタンドの女性客へと向けられていた。黄色い声援を独占し、優雅に応答するミハエルの姿に、額に青筋を立てて噛みついている。
「おい、ミハエル!いつまでキャーキャーやってんだ!これから試合だぞ!ったく、何で女性の声援があいつばっかりで俺にはねえんだよ!」
「ソーリー、ソーリー、サル崎。」
ひらひらと手を振るミハエルに、石崎のボルテージが跳ね上がる。
「俺はサル崎じゃねえ!石崎だ!」
「また始まったぜ、あのコンビは……」
あきれ顔で吐息をつく滝の横で、浦辺はふっと表情を緩めた。
「……だが、ミハエルのヤツがいつも通りで助かったぜ。石崎のヤツ、ああ見えて本番はプレッシャーでガチガチになるタイプだからな。ミハエルが普段通りでいてくれりゃ、あいつも余計な緊張をしなくてすむ」
一方、緊張感が張り詰める東邦学園のベンチ前。
「集合!」
キャプテンの松山光の声がかかると、東邦イレブンが一斉に整列した。監督の北詰が、鋭い眼光で選手たちを見回す。
「いいか、南葛のキーマンは10番の井沢、そして11番のミハエルだ。あの二人を乗せると試合の主導権を握られる。厄介だぞ」
「それ以外のメンバーも派手さはないが、全員が堅実で隙のないプレイをしてくるはずだ」
コーチの山本が補足すると、北詰は静かに頷き、南葛SC出身の二人に視線を向けた。
「岬、新田、気負う必要はない。お前たちは今や東邦に欠かせない絶対的な主力だ。観客のアウェーな声援に惑わされ、自分を見失うなよ。……他の者も同様だ!今大会、最も厳しい日本一の練習量をこなしてきたのは誰だ!? お前たちだ!積み重ねてきた努力は絶対に裏切らん!」
「監督の言う通りだ!」
松山が前に出て、力強く拳を握りしめる。
「俺たちの目指すゴールは全国三連覇!ここまで来て負けるわけにはいかないぞ!必ず勝つぞ!」
「「「おう!!」」」
気勢を上げた東邦イレブンが、南葛の待つピッチへと足を踏み入れる。両チームが中央で顔を合わせ、キャプテン同士、そして元チームメイトたちが視線を交錯させた。
「石崎。……翼、岬、若林がいないこのメンバーで、ここまで勝ち上がってきたことは認める」
松山が石崎を真っ直ぐに見据え、静かな、しかし絶対的な誇りを込めて言い放つ。
「だが、これより先へは行かせない。翼のいる武蔵は、俺たち東邦が倒すと先約済みだ!」
「ぬかせ!俺たちの意地とプライド、この試合でたっぷりと味わわせてやるぜ!」
石崎が不敵に笑い返し、その背後で岬太郎が、かつての仲間である石崎の姿を複雑な眼差しで見つめていた。
(……石崎くん……)
主審のコイントスが終わり、両チームのスターティングメンバーがそれぞれのポジションへと散っていく。
【南葛中学】
GK 1 森崎
DF 2 岸田 / 5 中山 / 6 高杉 / 3 西尾
MF 10 井沢 / 8 浦辺 / 4 石崎
FW 11 ミハエル / 9 来生 / 7 滝
【東邦学園】
GK 1 若島津
DF 10 松山 / 2 古田 / 6 川辺 / 5 今井
MF 11 岬 / 4 小池 / 15 沢田 / 7 新田
FW 9 日向 / 13 反町
ピッ――!
主審の笛が鳴り響き、東邦ボールでキックオフ。
東邦は無理に前線へ急がず、自陣で細かくパスを回しながら南葛の守備陣の出方と間合いを図る。ボールは中盤の底から、ゆっくりと岬の足元へ通った。
(南葛は、武蔵のように前線からハイプレスを仕掛けたり、複雑な戦術で嵌めてくるタイプじゃない。ならば――)
瞬時に相手の守備ブロックを見抜いた岬が、前線へ鋭い指示を飛ばす。
「瞬!お前のスピードで切り裂くんだ!」
「了解だ、岬さん!南葛相手でも遠慮はしねえぜ!」
左サイドでパスを受けた新田瞬が、爆発的な加速でドリブルを開始する。対峙した南葛の右サイドハーフ・滝は、その圧倒的な初速に対応しきれない。
「なっ、速い……!」
「ちょろいぜ!」
一瞬で滝を置き去りにした新田は、さらにカバーへ入ろうと立ちふさがる石崎のコースを見切り、あっさりとその横を抜き去っていく。
しかし、新田が完全に突破を果たしたと思ったその瞬間――視界の死角から、猛烈な勢いで割り込んでくる影があった。
ドッ!
「なっ!?」
激しい身体の接触とともに、新田の体が弾き飛ばされる。直後、ピッチに甲高いく笛の音が響き渡った。主審の手が示したのは東邦のファウル――コースを完全に消し、絶妙なタイミングで身体を入れ込んだ浦辺の守備に対し、新田が押し倒す形になったのだ。
南葛ボールでの再開が告げられる。
メインスタンドの上層階、武蔵中学のメンバーとともに戦況を見つめていた大空翼が、膝を乗り出すようにしてそのプレイを称賛した。
「今の浦辺君の飛び出し、絶妙なタイミングだったよ!」
「ああ、新田のドリブルコースとスピードを完全に読み切って動いてたな」
一ノ瀬が感心したように頷く横で、火野竜馬が呆れたように鼻を鳴らす。
「だが、その前にあっさり抜かれた4番……あの石崎とかいうヤツは、もう少しどうにか出来ただろうが」
「あはは……でも、あれが石崎くんらしいからね」
苦笑いを浮かべながらも、翼の瞳には昔と変わらない仲間たちへの信頼が宿っていた。
ピッチ上でも、南葛の確かな連携が交わされていた。
「サンキュー、浦辺!助かったぜ!」
胸を撫で下ろす石崎に、浦辺がニッと不敵な笑みを向ける。
「安心しろ!お前のカバーなんざ、最初から織り込み済みだ!」
「何だとコラ!余計なお世話だ!」
威勢よく言い返す石崎を尻目に、新田は悔しそうに芝を蹴りつけた。
「クソッ……!」
倒れた新田に駆け寄った岬が、手を差し伸べながら静かに声をかける。
「僕らは誘い込まれたみたいだね。……瞬、この南葛は一筋縄ではいかないよ」
「……岬さん。……大丈夫です、次は絶対にやられません!」
「頼んだよ、瞬」
立ち上がった新田の瞳に、再び鋭い闘志が宿る。
王者東邦の圧倒的な個の力と、幾多の試練を乗り越えてきた南葛の堅実な組織力。キックオフ直後のわずか数分で、ピッチ上には息をのむような『死闘の予感』が色濃く漂い始めていた。
いよいよ始まりました、南葛VS東邦の一戦、翼、岬、若林のいない南葛がどう東邦に立ち向かうのでしょうか!?
次の投稿は、18時頃です。