キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
前半の終了を告げる笛が響き渡った瞬間、南葛市競技場のスタンドはどよめきと大歓声に包まれた。
南葛VS東邦の準々決勝。下馬評を覆し、新戦力ミハエルの2ゴールによって、王者東邦から2点ものリードを奪ってハーフタイムを迎えたのは地元・南葛中だった。
熱気冷めやらぬメインスタンドの通路付近。南葛SC時代の恩師である城山は、溢れかえる人波の中で、武蔵中学のメンバーと共にピッチを見つめていた大空翼の背中に声をかけた。
「翼!」
振り向いた翼の表情がパッと華やぐ。
「城山監督、お久しぶりです。都大会決勝以来ですね! 全小へは応援に行けませんでしたが優勝おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう。あの子たちが優勝できたのも翼や岬、新田、そして石崎たちが中学でも活躍しているからだ! あの子たちにとってお前は憧れでもあり目標なんだ!」
感慨深そうに目元を緩める城山に、翼は真っ直ぐな瞳を向けた。
「ありがとうございます! 先生は後半もこのまま石崎君たちのペースでいくと思いますか?」
城山は腕を組み、視線をピッチ中央へと移しながら重々しく言葉を紡ぐ。
「それはわからん! 岬や新田たち東邦がこのままおとなしくしているかどうかは俺よりもお前たちの方がよくわかっているだろ? まぁ、俺としては岬や新田には活躍してほしいし、でも石崎や浦辺たちがここまで来るのにどれだけ努力してきたか知る身としては負けてほしくない気持ちだよ!」
「そうですね! 僕も同じ気持ちです。どちらかとしか対戦できないんで!」
翼が爽やかに微笑むと、城山はポケットから時計を取り出し、そっと息を吐いた。
「そうだな、おっともうそろそろだな! それじゃ翼、またな。」
そう言い残し、城山は南葛SCの教え子たちが陣取るスタンドの区画へと歩みを進めていった。
去っていく恩師の背中を、武蔵の一ノ瀬が深く感心したように見つめながらぽつりとつぶやく。
「あの監督、この3年間で全国を2回優勝させて何気に名将なんだよな…」
そのつぶやきに応えるように、一ノ瀬の隣に立っていたロベルト本郷が、深く重みのある声で頷いた。
「それに何より目先の勝利だけを求めるのでなく子どもたちの将来を優先して起用しているところが城山さんのすごいところだ! だから中学でもつぶれずにこうして全国大会でも活躍できるんだ!」
スタンドのそこかしこで様々な思いや会話が交差する中、ピッチ脇のベンチ前へと戻ってきた南葛イレブンの周囲は、活気あふれる陽気な空気で満たされていた。
「見たか! 俺の活躍を!」
己の胸を力強く叩いて胸を張る石崎に、来生が呆れ半分、可笑しさ半分といった様子で肩をすくめる。
「まったく、お前ぐらいだよ、日向の強烈なシュートを顔面で受け止める芸当ができるのは!」
「まったく、呆れてものがいえねえが、あれで俺たちに火がついたのは確かだからな! ミハエルもそう思うだろ?」
滝が隣のミハエルに振ると、ミハエルは肩をすくめて両手を広げ、独特の身振りを交えて答えた。
「サル崎のプレイはクレイジーです! でもハートが熱くなりまーす!」
褒め言葉と受け取った石崎は満面の笑みを浮かべて頷く。
「そうだろう、そうだろう、待て、俺はサル崎じゃない石・崎・だ!」
「オーソーリー、石頭。」
「誰が石頭だ!」
漫才のようなやり取りを繰り広げる二人を横目に、井沢が苦笑いを浮かべながら息を漏らした。
「また始まったよ…でもあの掛け合いがなけりゃ俺たちもこうしてまとまるのも難しかっただろうな。」
その様子を少し離れた位置から静かに見つめていた浦辺は、心の中で深く頷いていた。
(確かにチームを同じ方向に向かせて引っ張るだけなら正直、あいつには悪いが、俺の方が上だ! だが、チームの雰囲気を爆発的に高めるのはあいつなんだ! あいつのプレイと存在感がチームの生命線なんだ!)
チームの士気が最高潮にある今だからこそ、浦辺は兜の緒を締め直すようにベンチの古尾谷監督へと向き直り、声を張った。
「先生、後半、岩見や長野たちベンチメンバーもいつでも出れるようにアップしておいてください。お願いします。」
その言葉に、隣にいた来生が驚いたように振り返る。
「浦辺、どうしたんだ? 俺たちがリードしているんだぜ?」
「だからこそだよ、東邦がこのまま黙っているなんてこと絶対ないからな! だから場合によれば俺らもバテるやつが出てくるから交代をうまく使って流れを東邦に渡さないためだよ!」
意図を理解した来生が力強く拳を握り直す。
「…そうだな。それなら俺たちもブッ倒れるまで走り回れるぜ!」
二人のやり取りを聞きつけた石崎が、指をさしながら憤慨したように割り込んできた。
「来生、浦辺! キャプテンの俺を差し置いて仕切るなといつも言ってるだろうが!」
だが、浦辺は茶化すことなく、真直ぐで強い眼差しを石崎にぶつけた。
「ああ、すまない。石崎、お前は最後までピッチにいて俺たちを鼓舞するんだ。いいな!」
浦辺のまとう真剣な迫力に一瞬気圧されながらも、石崎は自身の胸をドンと叩いて応じた。
「わ、わかったよ! キャプテンの俺の存在感で東邦を黙らせてやるぜ! 後半もやるぞ!」
「おう!」
円陣を組む南葛イレブンの威勢の良い掛け声が、夏の空へ向けて力強く響き渡った。
一方、2点のリードを許したまま重い足取りでピッチ脇へと戻ってきた東邦学園の陣営には、都大会決勝でも味わったことのない重苦しい緊張感が漂っていた。
主将の松山が、どこか視線を落としがちな岬の隣へと歩み寄る。
「岬、すまない。お前の言う通りだった…。南葛の本当のキーマンは石崎だった! やつを乗せたことにより試合展開を難しくさせてしまった…」
「…松山…」
申し訳なさそうにする松山に、横から若島津も悔しさを噛み殺した表情で口を開く。
「それにあのミハエルも尋常じゃないスピードだ。ここに地の利が完全に南葛が味方している。」
「そうだ、だから先に3点目を取られるのは絶対に阻止するぞ!」
松山が周囲を鼓舞するように語気強めにつなぐ。
そこへ、重厚な気配をまとった北詰監督がゆっくりと歩み寄ってきた。
「松山の言う通りだ。地の利は圧倒的に南葛、先に点を取られたら追いつくことは至難の業だ! だが我々が後半にやることは変わらん!」
北詰の鋭い眼光が、エース・日向小次郎へと注がれる。
「日向、後半、徹底的にシュートを打ちまくれ、打ちまくれば必ず隙ができる。みんなはそれを見逃すな。いいな!」
日向はゆっくりと顔を上げ、黒い瞳に鋭い闘志を宿らせて言い放った。
「みんな、俺にボールを回してくれ、ゴールへの道は俺が必ずこじ開ける。」
その覚悟を受け止めつつ、北詰はさらに厳しい問いを投げかけ、日向の精神を研ぎ澄ませる。
「日向、この試合、どんなことがあっても非情にゴールを狙えるか?」
迷いの欠片もない口調で、日向は即座に言い切った。
「監督、もちろんです! チームの勝利のためなら非情にゴールを狙い続けます!」
北詰は満足げに深く頷いた。
「頼むぞ、日向!」
「はい!」
覚悟を完了させた日向の横顔を見届け、主将の松山が東邦イレブン全員に向かって右拳を高く突き上げた。
「よし、敵は強敵だ! だが俺たちは王者東邦だぞ、必ずこの試合勝つぞ!」
「おう!」
地鳴りのような手拍子と歓声が降り注ぐ中、決意を固めた東邦イレブンが一斉に芝のピッチへと足音を響かせて散っていった。
観客席の熱気が再び最高潮へと跳ね上がる。
南葛の逃げ切りか、王者の逆襲か。両者の譲れぬ思いが激突する後半の戦いが、今まさに幕を開けようとしていた。
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