キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜   作:ロンゲスト・ロード

13 / 28
東邦学園スカウト松本の失態を挽回するべくスカウト部長大沢自らが日向獲得に乗り出した。日向家の経済事情を事前に徹底調査した上で交渉に臨み見事に日向の心を射止めることに成功した。
次は南葛の岬、果たして?


第13話 サッカーがしたい

東邦学園・スカウト部のフロアで、田中スカウトは受話器を耳に押し当て、熱っぽく語りかけていた。

電話の相手は、南葛SCの城山正監督。目的は、同チームのMF・岬太郎の獲得である。

「城山監督、重ねて申し上げますが、我が校の特待生A枠(全額免除)は松山君と日向君で既に埋まっております。岬君へ提示できるのはB枠(一部免除)です。しかし……東邦学園の最大の強みである『全寮制』の環境を整え、我々は岬君の才能を心から信じております。全国を転々とするような浮き草のような生活ではなく、一つの場所で腰を据えてサッカーに取り組み、その才能をさらに伸ばすための手伝いをしたいのです! それが我が校の強い願いです!」

田中の電話越しの訴えに、城山は静かに、しかし深く頷いた。

『……田中さん。いや、東邦学園が岬の将来に対してどれほど真剣に考えておられるか、その熱意と温かい思いは十分に伝わりました。……私の方から岬の父親に連絡を入れます。田中さんから直接電話を差し上げてよいか確認を取り、折り返しご連絡いたします。それでよろしいでしょうか』

「はい! 大丈夫です。ぜひよろしくお願いいたします! 失礼いたします!」

受話器を置いた田中は、力強く拳を握り締めた。

「よし……! これでまずは第一関門突破だ」

それから数日後。城山から折り返しの連絡が届いた。

岬の父・一郎も東邦学園からの話を聞く用意があるとの返答を得て、自宅への連絡の許可を取り付けることができた。

田中はすぐに岬家へ電話を入れた。電話口に出た一郎と会話を交わす中で、来週から都内で一郎の個展が開催されること、その打ち合わせのために上京する予定があることを知る。田中はその機会に合わせ、太郎も伴って直接顔を合わせ、話を聞いてもらう約束を見事に漕ぎ着けたのだった。

「部長! 岬君のお父様との面談の約束が取れました!」

大沢スカウト部長に報告する田中。大沢は重厚な体躯を椅子に預け、満足そうに頷いた。

「上出来だ、田中君。……だが、最後の詰めを誤るなよ。我が校の全寮制をアピールするのは良いが、それをことさら強調しすぎるのは逆効果だ。寮に入るということはな……十二歳の子どもが、親から離れて暮らすということなんだからな。親子の情にしっかりと配慮して交渉に臨みなさい」

「はっ……! 肝に銘じます!」

大沢のスマートかつ深い助言を受け、田中は深く頭を下げた。

数日後。都内某所。

岬一郎の作品の熱烈なファンであり、長年のパトロンでもある山村氏のアトリエ応接室にて、田中、山村、そして岬親子の四人が顔を揃えていた。

田中は城山監督の時と同様、誠心誠意の態度で切り出した。

「お父様、太郎君。現状、提示できるのは特待生B枠となりますが、寮への優先入寮権、そして中等部(1年目)で実績を残していただければ、翌年度からはA枠(全額免除)へ切り替えるという条件をお約束いたします」

熱意を込めて説明する田中を前に、岬親子は静かに考え込んでいた。

その様子を横で見ていた山村が、助け船を出すように穏やかな声をかけた。

「いい話じゃないか、岬君。……実はね、この個展が終わったら君に話そうと思っていたことがあったんだ。岬君、君はフランス・パリに行って、絵の本格的な勉強をする気はないかい?」

「え……パリ、ですか?」

驚く一郎に、山村は微笑んだ。

「何と言っても芸術の本場だ。本場の空気に触れ、揉まれることで、君の才能はさらに花開くはずだ。……渡航費用や現地での生活費は、私が全て負担しようと考えていたところなんだよ。だからね、太郎君の学費のことなら心配いらない。私が太郎君の学費も一緒に面倒を見ようじゃないか」

パトロンからの破格の申し出に、一郎は深く感動しながらも頭を下げた。

「山村さん……温かいお申し出、本当にありがとうございます。ですが……私はやはり、太郎自身の意思を一番に尊重したいのです」

一郎は優しい眼差しを隣の息子に向けた。

「太郎。私はこれまで、自分の仕事の都合でお前を日本各地へ連れ回してきた。せっかくできた友達とも、すぐに別れさせてしまうことになって……本当に申し訳なく思っている。……もしお前が学費のことで東邦行きを迷っているのなら、心配はいらないんだぞ。こんな時のために、私にも少しばかりの蓄えはある。山村さんにご負担をかけなくても、学費くらい私が払うことができるんだ」

「父さん……」

父の言葉を聞き、太郎の瞳からぽろぽろと大きな涙が溢れ出した。

「父さん……! 実は僕……ふらので友達になった松山君に『一緒に東邦でサッカーをしないか』って誘われてたんだ。だけど……僕が東邦に行ったらお金のこともかかるし、父さんと離れ離れになったら父さんが困るんじゃないかって……ずっと心配だったんだ。……だけど、だけど僕……サッカーが好きだ! 一つの場所で、腰を落ち着けて……大好きなサッカーがしたいよっ……!」

ボロボロと涙をこぼしながら、胸の奥に溜め込んでいた本音を裸でぶつける太郎。

その健気で一途な叫びに、横で話を聞いていた田中スカウトも堪えきれず、思わずもらい泣きをして鼻をすすらせた。

一郎は太郎の華奢な肩を力強く抱き寄せた。

「何を言っているんだ、太郎……! 子どもが親に遠慮することなんて、何一つないんだよ。子どものやりたいことを全力で応援するのが、親の務めなんだ。お前は自分の大好きなサッカーに、思いっきり打ち込めばいいんだ!」

「父さん……っ!」

一郎は溢れる涙を拭い、まっすぐな目で田中スカウトと向き合った。

「田中さん。……息子を、太郎のことを、どうかよろしくお願いいたします」

「父さん……ありがとう……!」

田中はハンカチで何度も目元を拭い、震える声で力強く答えた。

「はい……! はいっ! 太郎君の未来、責任を持ってお預かりいたします……!」

こうして、南葛のフィールドプレイヤー・岬太郎の東邦学園入学が正式に決定した。

北の大地で牙を研ぐ優勝キャプテン・松山光。

埼玉から世界を目指す猛虎・日向小次郎。

そして全国を旅し、ついに安住の地を得た天才MF・岬太郎。

松本の暴走という危機から始まった東邦学園スカウト部の戦いは、大沢部長のスマートな策と田中スカウトの泥臭い情熱により、中学サッカー界の勢力図を根底から塗り替える歴史的・大物補強の成功という最高の結果で結実したのだった――。

 




原作では父親と一緒について行くという選択肢しかなかった岬でしたが、もし寮に入ってサッカーに打ち込むという選択肢が岬の前にあればということを考えて描きました。これで原作のフランスに渡っての武者修行はなくなりましたが、日向や松山たちと毎日もまれながらどんな成長をとげるのか楽しみです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。