キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
ついに翼にも動きがあります。
9月1日 南葛小学校 6年生の教室
夏休みが明け、静けさを取り戻すはずだった教室に、石崎の馬鹿でかい声が響き渡る。
「えーっ!? 東邦学園!!? 岬、お前、東邦学園に行くのかよ!」
周りのクラスメイトたちが一斉に視線を向ける中、岬は少し申し訳なさそうに眉を下げて答えた。
「そうなんだ。東邦学園からスカウトを受けて……。4月から父さんがパリに行くんだ。そのタイミングで、寮のある東邦学園に行くことになったよ」
眼鏡の位置を直しながら、大川学が納得したように深くうなずく。
「寮生活なら、より一層サッカーに打ち込めますよね。今の岬君には、すごくピッタリな選択かもしれません」
「くそーっ! 何で東邦学園のスカウトは、俺のこのガッツあふれるプレイを評価してくれねえんだよ!」
悔しそうに頭を抱える石崎に、学が容赦のない正論を投げかける。
「石崎君の場合は、ガッツあふれるというよりは『無謀』なプレイに近いですからね」
「何だと~っ! 学、お前言わせておけば!」
「わっ、冗談ですよ石崎君!」
逃げ惑う学と、それを大声で追いかけ回す石崎。
いつもの賑やかで微笑ましい南葛小の日常。岬はその光景を見て穏やかに微笑む。
しかし、その視線はふと、教室の窓際にある**「ひとつの空席」**へと向けられた。
本来なら、誰よりも元気にこの場にいて、誰よりも笑顔でサッカーの話をしているはずの机の主――大空翼。
全国小学生サッカー大会でのあの日から、翼は深い心の傷を抱えたまま、一度も立ち直ることができずにいた。
(翼君……)
ぽつりと呟いた岬の瞳に、深い陰りが落ちた。
その日の放課後、岬は大空家を訪れていた。
だが、玄関を開けた母・奈津子の表情は暗く、疲弊しきっていた。
「ごめんね、岬君。せっかく訪ねてきてくれたのに……あの子、まだ学校に行けるような状態じゃなくて……」
「そうですか……。実は僕、4月から東京の東邦学園への入学が決まって、南葛にいられるのは卒業までなんです。それを、翼君に直接伝えたくて……」
「東邦学園に……」
奈津子は少し意外そうに目を見張った後、視線を落とし、何かを決意したように静かに口を開いた。
「そうだったのね……。ねぇ、岬君。実はね……あの子、近いうちにブラジルへ行くことになったの」
「え……ブラジル……!?」
「うん。ロベルトさんと一緒に……ここ(日本)とは違う環境で暮らせば、あの子の気持ちも少しは変わるんじゃないかって。石崎君たちに話すと、みんな優しいから心配して大騒ぎになっちゃうでしょう? だからずっと黙っていたの。でも……岬君には、伝えておくわね」
そう言って奈津子は、翼が日本を旅立つ「本当の日時」を、そっと岬に教えたのだった。
南葛市・最寄り駅のホーム
残暑の差し込むホームに、大きめのキャリーケースを引いた翼と、その傍らに立つロベルトの姿があった。
これから成田へ向かい、そのままブラジルへと旅立つ。
しかし、翼の瞳には光がなく、ただ虚ろに足元を見つめているだけだった。
「翼君!」
ホームの階段を駆け上がってきたのは、息を荒らげた岬太郎だった。
「……っ、岬……君……?」
翼の小さく擦れた声に、岬はまっすぐ歩み寄る。
「お母さんから聞いたんだ。今日、翼君が旅立つって」
翼は何も答えず、ただ申し訳なさそうに視線を泳がせる。そんな翼の小さな両手を、岬はギュッと強く握りしめた。
「僕、4月から東邦学園に行くよ。ふらのの松山君と一緒に、あそこでサッカーをするんだ」
「サ……サッカー……?」
「サッカー」という言葉に、一瞬だけビクッと肩を震わせ、顔を背けようとする翼。
だが、岬は握った手を絶対に離さず、翼の目をまっすぐに見つめて、叫んだ。
「翼君! 僕は君とまた会える日を、ずっと待ち続けるよ!」
「……サッカーなんか、どうでもいい!!」
「……え……?」
翼が思いがけない言葉に息をのむ。
「だって僕は……僕は君の親友、岬太郎だからだ!!」
「親友の君に、また会えれば……僕はそれだけでいいんだ!!」
言葉が、翼の凍りついた胸の奥に直接叩きつけられる。
「サッカーができるから」ではなく、「ただの大空翼」という人間そのものを全肯定し、どこまでも自分を「親友」と呼んでくれる存在。
ガタゴトと音を立てて、ホームに電車が滑り込んできた。
「見送りありがとう、岬。……さあ、行こう翼」
ロベルトに肩を抱かれ、促されるまま電車へと乗り込む翼。
プシューッと重いドアが閉まり、ゆっくりと車体が動き出す。
ガラス越しに見送る岬。その姿が遠ざかっていく中で――
翼の瞳の奥、深く沈んでいた暗闇の底に。
本人すら気づかないほど小さな、小さな**「炎」**が、かすかに宿った。
大空翼と、岬太郎。
二人の天才少年が、次に再会を果たす時――それは一体、どんな未来になっているのだろうか。
それを知る者は、まだ誰もいない。
原作とは逆の岬が南葛から去る翼を見送る形となりました。2人の再会はどんな形で訪れるのだろうか!
次話で小学生編は完結です。