キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜   作:ロンゲスト・ロード

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ブラジルから帰国した翼はその足で三杉家に向かう。仏壇に手を合わせる翼親子。そこに三杉夫妻から生前の三杉淳のサッカーへの熱い思いを知る。決意を新たに武蔵での一歩を踏み出そうとする翼であった。


第18話 和解

秋分の日を挟んだお彼岸の午後。

静謐な霊園には、季節を知らせる秋風が吹き抜け、赤々とした彼岸花が墓石の合間に咲き揺れていた。

三杉淳が亡くなってから、これが3度目の秋彼岸だった。

小学校最後の夏に起きたあまりにも大きすぎる悲劇から2年。中学生になった翼と母・奈津子は、静かに手向けられたばかりの生花と、細く立ち上る線香の煙に深く頭を下げていた。

「行きましょうか、翼」

「……うん」

手持ちの桶と柄杓を戻し、静かな石畳の参道を駅へ向かって歩き出した時だった。

角を曲がった先から、花束を手にした一組の親子が歩いてくるのが見えた。

「――っ!?」

翼の足がピタリと止まった。

向こうから歩いてくる少女――小柄だがどこか大人びた面影を残すその姿に、翼の胸が激しく脈打った。

(弥生ちゃん……!)

青葉弥生だった。

あの日、あのあまりにも凄惨だった通夜の席で、半狂乱になりながら翼へ苛烈な言葉を投げつけた少女。その記憶がフラッシュバックし、翼の脳裏に激しい痛みが走る。呼吸が浅くなり、無意識のうちに視線を落とすと、翼は吸い寄せられるように足を早め、すれ違いざまにその場を立ち去ろうとした。

「翼君?」

弥生の声が届いた。驚きと動揺が混ざった小さな声だった。

「弥生ちゃん……」

立ち止まることなく、背中を向けたまま歩みを進めようとする翼。逃げ出したいわけではない。だが、彼女の前に立つ資格が自分にあるのか分からなかった。

「……ブラジルに行ったって聞いたけど、いつ日本に?」

母親同士が連絡を取り合っていたのだろう、弥生が問いかけてくる。

「……3日前なんだ。……俺、行くよ」

拒絶するように身を翻し、歩みを進めようとした翼の背中に、切羽詰まった声が飛んだ。

「行かないで、翼君!」

参道に響いた声に、翼の足が止まる。振り返ると、弥生は花束を抱えたまま、ボロボロと大粒の涙をこぼしていた。

「行かないで……! あたし、ずっと……翼君にあんなひどいことを言ってしまって……ずっと、謝りたいと思ってたの……っ!」

「弥生ちゃん……」

「あんなの……翼君のせいじゃないのに、あたし、自分のおそろしさに耐えられなくて……翼君に全部ぶつけちゃった……! ずっと、ずっと後悔してたの……!」

絞り出すような弥生の慟哭に、秋の澄んだ空気が震えていた。

三杉の墓参りを終えた後、霊園の脇にある小さな公園のベンチで、二人は向き合って座っていた。

少し離れた木陰では、奈津子と弥生の母が、静かに二人を見守っている。大人は口を出さず、傷ついた子どもたちが自分たちの足で時間を進めるのを、優しく待っていた。

「……翼君、ごめんなさい。私のせいで翼君を深く傷つけてしまって……取り返しのつかないことをしてしまったわ」

膝の上で拳を握りしめ、頭を下げる弥生に、翼は穏やかに首を振った。

「いいんだよ、弥生ちゃん。もう済んだことだから……自分を責めなくていいんだよ」

翼の言葉には、ブラジルでの孤独な葛藤と、三杉の両親からノートを託されたことで得た覚悟が宿っていた。かつてのように自分を責めて逃げ出す少年は、もうそこにはいなかった。

弥生は涙を拭い、ぽつりと尋ねた。

「……翼君。ブラジルでも、サッカーを?」

「最初はできなかった。ボールを見るのも怖くて……サッカーから離れていたんだ。でも、今はもう大丈夫」

「……そう。私はね……あれからサッカーに関わるのをやめているの」

弥生は悲しげに目を伏せた。三杉のマネージャーとして誰よりも近くで彼の熱量を見ていたからこそ、彼を失った傷は今も深く残っていた。

「でも……どうして日本に?」

「三杉君が愛したここで、サッカーがしたいんだ。……俺、明日から武蔵中に転入するんだよ」

「えっ……! 武蔵に……!?」

弥生の瞳が大きく見開かれた。

三杉が遺した場所。三杉が背負っていたチーム。そこへ翼が飛び込もうとしている意味を、弥生は瞬時に理解した。

「……翼君は、ブラジルに行ってもずっと、キャプテンの死に向き合っていたんだね」

弥生の口から、自然と三杉を指す「キャプテン」という言葉が漏れた。

「キャプテンが生きていたら……きっと翼君を大喜びで歓迎したでしょうね。『よく来たね、翼君』って……笑顔で」

「三杉君が……」

「うん。……ねえ、翼君。私……こんな私だけど、また翼君を応援してもいいかな?」

まっすぐに見つめてくる弥生の瞳には、トラウマの影を押し流すような、純粋な光が戻っていた。

翼は胸の奥が温かくなるのを感じながら、心からの笑顔を浮かべた。

「ありがとう、弥生ちゃん。もちろんだよ!」

弥生も、2年ぶりとなる本当の笑顔を咲かせた。

「ふふ、じゃあ翼君、明日は学校でね! 私も武蔵中学校に通っているの」

「うん、弥生ちゃん。学校で会おう!」

澄み渡る秋空の下、お彼岸の参道で二人は手を振り合って別れた。

2年前のあの夏、あまりにも理不尽な悲劇によって止まってしまっていた二人の時間が、2年という歳月と互いの成長によって、ようやく再び動き出した。わだかまっていた心の氷は溶け、絆はより深い場所で結び直されたのだった。

2人に輝かしい未来が待ち受けているのだろうか。




翼も弥生と無事にわだかまりをとくことができました。いよいよ武蔵中学への登校。かつての三杉淳のチームメイトたちの反応は?
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