キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
本間と弥生が部に加わり、翼とともにグラウンドに立つようになってから、武蔵中学校サッカー部の空気はわずかに変わり始めていた。
放課後のグラウンドに、懐かしい顔が姿を見せる。一ノ瀬だった。
「本当か、一ノ瀬!?」
本間が目を見張り、声を弾ませる。
一ノ瀬はどこか気まずそうに目線を落としながらも、意を決したように頷いた。
「ああ……キャプテンの死からずっと、サッカーから逃げていた俺だけど……お前たちが楽しそうにボールを追っているのを見て、またサッカーがしたくなったんだ。こんな身勝手な俺だけど、許してくれるか?」
「許すも何も、俺たちは仲間じゃないか! これで『武蔵トリオ』復活だな!」
本間が一ノ瀬の肩を力強く叩き、破顔したその時だった。
「――俺は認めねえぞ」
冷ややかな声が、重く響いた。部室の影から現れたのは、真田、向井、小島の三人だった。
真田は吐き捨てるように言い放つ。
「だってそうだろ! キャプテンが死んでから真っ先に部からいなくなった奴が、何を今更! キャプテンがいなくなっても、この部を支えてきたのは俺たちだ!」
「真田……あんな荒み切った状態で、本当に部を支えてきたと言えるのか?」
本間は静かに、だが強い眼差しで真田を見つめ返した。
「少なくとも、俺は間違っていたと思っている。だから翼君と一緒に、これから武蔵を立て直していくつもりだ」
「外部の人間に頼ろうってのか! いいさ、勝手にすればいい! だが俺は、こいつ……一ノ瀬も、大空も絶対に認めねえからな! いくぞ、向井、小島!」
真田は怒りを撒き散らしながら、背を向けて去っていった。
「気にするな、一ノ瀬。俺はお前の復帰を心から歓迎するよ。今日の放課後から、また一緒に練習しよう」
本間は気遣うように一ノ瀬の背中を叩いた。
その日の放課後。
武蔵中のグラウンドには、サッカー教室の講師の仕事の合間を縫って顔を出したロベルトと、相変わらず無邪気にボールを追うナトゥレーザの姿があった。基礎から丁寧に教え直すロベルトの指導は、まるで小さなサッカー教室のような賑やかさを見せていた。
そこへ、真田一派が歩み寄ってくる。
「へっ……裏切り者たちが、よそ者を呼んでサッカーごっこかよ」
「真田……!」
本間が眉をひそめる。
真田の瞳には、黒い嫉妬と焦燥が渦巻いていた。
「本間、俺はもう我慢ならねえ! よそ者のくせにでかい顔してるこいつらと、そんな奴らに尻尾を振るお前たちがな!」
真田は拳を握りしめ、咆哮するように突きつけた。
「だから……俺がキャプテンのいた『本当の武蔵』を取り戻す! 本間、お前たちに試合を申し込む! 勝った方が部に残り、負けた方は部から去る! この提案を受けるかどうか、返事しろ!」
「真田、お前……」
本間が言葉を詰まらせたその時、傍らでボールを抱えていたナトゥレーザが、不思議そうに首を傾げた。
「ねえ、なんでこのお兄ちゃん、サッカーに怒りをぶつけてるの? 本当は、サッカーが大好きなくせに」
悪気のない、だが真実を突いた一言。それが真田の琴線に決定的な亀裂を入れた。
「……うるせえええっ、この野郎!!」
真田は激昂し、足元のボールをナトゥレーザの顔面に向けて、至近距離からフルスイングで蹴り飛ばした!
「ナトゥレーザ!」
鈍い破壊音が響くはずだったその瞬間――。
風のように割り込んだ影が、その強烈な弾丸ライナーを足先で吸い付くようにトラップし、ピタリと殺した。
大空翼だった。
ボールを足元に収めた翼の体から、怒りのオーラが静かに、だが凄まじい圧で立ち上る。その瞳は、真田を鋭く射抜いていた。
「……サッカーボールを、人を傷つけるために使うな!」
翼の地響きのような声が、グラウンドを支配した。
「その条件……受けるよ。俺たちが勝ったら、二度とこのグラウンドに顔を出さないでくれ!」
「くっ……!」
真田は一瞬、翼の圧倒的な気迫に気圧され、後ずさりかけた。だが、すぐさま歯を食いしばり、精一杯の虚勢を張り直す。
「ハッ……ブラジル帰りの帰国子女様は言うことが違うねぇ! 本間、来週の土曜日、ここで試合だ! 5対5だ!……負けた方が、サッカー部から永久追放だ。いいな!?」
捨て台詞を残し、真田たちは足早に去っていった。
「翼君……ごめん、俺たちのせいで……」
本間が申し訳なさそうに肩を落とす。
翼は深く息を吐き、静かに首を振った。
「ううん、ごめん本間君、勝手なことを言って。でも……これは避けて通れないことなんだ。三杉君の夢を叶えるためにも……俺たちは、絶対に勝とう!」
最悪の形で決裂し、退部をかけた全面対決へと突き進むこととなった武蔵中サッカー部。
夕闇が深まるグラウンドに、重く冷たい緊張感が立ち込めていた。
ついに修復不能なまでの対立状態に陥った翼一派と真田一派!
5対5の対決の行方は!
※仕事の都合上今後の投稿は週末中心になります。引き続き作品につきあっていただけるとうれしいです。今後ともよろしくお願いします。