キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
12月中旬。冬の澄み切った空気が武蔵野のグラウンドを包み込んでいた。
新監督の兵藤、そしてフィジカルコーチの浅田ユリが着任してから数か月。欧州最先端の戦術理論とデータに基づくコンディショニングは、着実に武蔵イレブンの肉体と意識を変革させつつあった。
日曜日の厳しいトレーニングを終え、汗を拭う部員たちが兵藤の前に集まる。ミーティングの冒頭、兵藤は表情ひとつ変えずに告げた。
「来週の日曜日、練習試合を行う」
「相手はどこですか?」
本間が尋ねる。兵藤の口から出た校名に、選手たちの間に小さなどよめきが走った。
「習実(しゅうじつ)だ」
「習実……!? 習実といえば、都大会ベスト4の常連校じゃないか!」
向井が声を張り上げる。
「確か今回の秋季大会も、準決勝で東邦に負けはしたが、春の関東大会への出場権は掴んでるはずだぜ」
「そんなとこと、ブロック大会1回戦敗退の俺たちがやるのかよ……」
弱気な一ノ瀬の声に、周囲の部員たちも顔を見合わせ、呑み込まれそうな空気が漂いかけた。その時、真っ直ぐな声が冬のグラウンドに響いた。
「何言ってるんだい、みんな!」
大空翼だった。翼は仲間たちの顔を一人一人見つめながら、弾んだ声で続ける。
「2年前、みんなは全国小学生サッカー大会の決勝まで行ったじゃないか。それにこの数か月、兵藤監督や浅田コーチのもとで、必死に練習に取り組んできたんだ。自分たちのサッカーを信じようよ。負けるはずがないんだ。そうだろ?」
「……そうだよな」
田沢が頷き、真田も頭をガリガリと掻きながらニッと笑った。
「何かさ、お前にそう言われると、不思議と本当にその気になるんだよな。よしいっちょ、やってやるか!」
「おう!」
一瞬で盛り上がる部員たち。その歓声の傍らで、本間だけは静かに見つめ、何かを思案するように沈黙していた。
熱気が少し落ち着いたところで、一ノ瀬が周囲を見回す。
「あれ……そういえばナトゥレーザのやつ、今日も来てないな。12月に入ってから全然顔を出さないけど、どうしたんだ?」
翼が少し申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
「うん。地元の小学校で友だちがたくさんできたみたいでさ。最近は放課後、あっちで小学生たちとサッカーをやっているみたいなんだ。ただ、かなりしつこくナトゥレーザに絡んでくる子が一人いるらしくて、その子から抜け出せないって言ってたよ」
「なんだそりゃ。真田みたいな奴だな。なあ、真田?」
一ノ瀬に振られた真田は、急にバツの悪そうな顔をして口をつぐんだ。
「……あ、ああ。そうだな」
「ん? 待てよ……ナトゥレーザの通ってる小学校には確か、お前の弟も……」
一ノ瀬が目を丸くする。
「まさか、真田! お前の弟か!?」
「……そうなんだよ!」
観念したように真田が声を荒らげた。
「弟のやつがナトゥレーザに対抗意識を燃やしちゃってさ、毎日挑んでるらしいんだ! 俺だって毎晩家に帰ったら特訓につきあわされてまいってるんだぞ!」
「ハハハ! でもお前の弟も来年はうち(武蔵)に来るんだろ? ナトゥレーザにお前の弟か、こりゃ来年度が楽しみだなあ!」
和やかな笑いが広がる中、兵藤がパイプ椅子から立ち上がり、手帳を閉じた。
「来年の話より、今は来週の試合に集中してくれ」
数日後。いよいよ明日に習実戦を控えた土曜日、練習後のグラウンド。
兵藤の手から、明日のスタメン発表とともに新しいユニフォームが一人ひとりに手渡されていく。
「翼」
兵藤から手渡された折りたたまれたユニフォーム。それを受け取り、開いた翼は息をのんだ。
背中に躍っていたのは、鮮やかな**「10」**の数字。
「10……って、これは本間君の……」
驚き、本間を見つめる翼。本間は穏やかな、しかし強い意思を込めた瞳で翼の視線を受け止めた。
「いいんだ、翼君」
本間は翼の肩にそっと手を置いた。
「君がこの武蔵に来てくれたから……俺たちは、キャプテンの死に向き合い、それを乗り越える気持ちを持つことができたんだ。だから、キャプテン……いや、三杉さんの後を継ぐキャプテンは、翼君。君なんだ」
「本間君……」
「まあ、そうなるよな!」
真田が割り込み、胸を叩いた。
「安心しろよ翼! お前のキャプテンに異を唱える奴がいれば、俺が黙らせてやるからよ!」
「ったく、真田、お前がそれを言うか?」
一ノ瀬がつっこむと、グラウンドにドッと笑いが起きた。
「うるせえ! とにかく明日の試合、勝とうぜ、キャプテン!」
「そうだ! たのむぞ、翼キャプテン!」
口々に翼を「キャプテン」と認める温かい声が広がる。兵藤は静かに翼を見つめた。
「どうする、翼」
翼は手の中の「10番」を強く握りしめた。胸の奥から湧き上がる熱い想いが、視界をクリアにしていく。仲間たちを見渡し、翼は大声で応えた。
「みんなの気持ち、しっかりと受け取ったよ! 明日は、新生武蔵の初試合だ。必ず勝とう! そして——東邦を倒して、日本一になるぞ!」
「『おう!!』」
グラウンドを揺るがすような雄叫び。浅田ユリは腕を組み、満足そうに目を細めた。
「フフフ……いいチームね」
隣に立つマネージャーの弥生も、眼差しを輝かせていた。
「そうですね……翼君の情熱が、みんなの気持ちをひとつにしてくれた。……そしてその先には、キャプテン……三杉さんがみんなに見せようとしてくれた景色へ、翼君が連れていってくれる。そんな気がするんです」
「弥生ちゃん。本当に、それだけ?」
浅田が少し意悪く、大人びた微笑を向ける。
「えっ……?」
頬を染めて動揺する弥生に、浅田はくすりと笑った。
「ふふ、何でもないわ。まずは明日ね」
その少し離れた場所では、顧問の中田先生がジャージの袖で激しく目元を拭っていた。
「お前たち……お前たち……ううっ……!」
三杉を失った深い悲しみを乗り越え、ひとつの熱い魂となった武蔵イレブン。
それぞれの決意と遺志を背負い、新生・武蔵中学校は、都の強豪・習実との「初陣」へと向かう。
遂に武蔵からの仲間からも認められキャプテンとなった翼。次回翼率いる武蔵が初陣に臨む!
※真田信次の弟は原作ではなくオリジナル設定です。
※習実中学もオリジナル設定です。