キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
12月下旬、クリスマスを間近に控えた冬の澄んだ空気の中、習実中学校のグラウンドには独特の緊張感が漂っていた。
都大会ベスト4の常連であり、春の関東大会出場を決めている強豪・習実。その監督は、自校のベンチ前で腕を組み、ウォーミングアップを行う武蔵の選手たちを冷ややかな目で見つめていた。
(かつての強豪・武蔵か……最近はブロック大会1回戦敗退が続いていたようだが、JFAのモデル校に指定されたからと、どこまでやれるかだな)
習実監督の関心は、ただ一点に絞られていた。武蔵の「10番」を背負う少年——大空翼。
(サンパウロFCのジュニアで主力として暴れていたという帰国子女か。小学生時代の評判はともかく、ブラジル仕込みの個の力だけは警戒が必要だな)
「10番へのマークを徹底しろ。ボールが入った瞬間に二人で寄せろ。あいつさえ抑えれば、あとは恐るるに足らん」
習実監督の指示に、選手たちが力強く頷く。しかし、笛の音とともにキックオフされた直後、習実ベンチの思惑は脆くも打ち砕かれることとなった。
「奪え! 30mキープ!」
兵藤の低い声が響く。武蔵の選手たちは一斉にラインを押し上げ、コンパクトな陣形を保ちながら習実のビルドアップに強烈なハイプレスをかけた。
「な……なんだこの距離感は!?」
ボールを持った習実のMFが絶句する。パスコースをことごとく限定され、苦し紛れに出した横パスを本間に奪われた。
習実の警戒が翼に集中する中、武蔵の他のメンバーが躍動する。翼は自ら強引に打開しようとはせず、引きつけたDFの隙を突いて巧みなスルーパスを供給。右サイドを破った一ノ瀬のクロスに、中央へ飛び込んだ真田が頭で合わせた。
ゴーール!
「よしッ! 先制!!」
ハイタッチを交わす武蔵イレブン。鮮やかな先制劇に習実ベンチは騒然となった。その後も武蔵はゾーンプレスで主導権を握り、何度もチャンスを作る。しかし、決定期で真田のシュートは枠を外れ、一ノ瀬のミドルも相手GKの正面を突く。追加点を奪えぬまま、前半は1-0で折り返した。
後半も武蔵の勢いは衰えない。後半15分、前線で体を張った一ノ瀬が相手DFを背負ってポストプレー。その落としに素早く反応した翼が、相手の裏のスペースへ抜け出す。鮮やかなファーストタッチで相手CBを置き去りにし、左足でサイドネットへ流し込んだ。
追加点。2-0。
「すごい……! 兵藤監督の言った通りに体が動く……!」
「これなら、本当に東邦にも……!」
手応えを感じ始める部員たち。しかし試合終了間際、習実のなりふり構わぬロングボール作戦の前に、武蔵のDF陣の足が止まった。フィジカルに勝る相手FWに空中戦で競り負け、こぼれ球を押し込まれて1点を返されてしまう。
ピピッ、ピーーーッ!
2-1。新生・武蔵の初陣は、勝利という形で幕を閉じた。
「勝ったぞーっ!」
「都ベスト4の習実に勝ったんだ!」
喜びを爆発させ、抱き合い跳ね回る部員たち。その傍らで、顧問の中田先生が目頭を押さえて泣いている。
「お前たち……よくやった、本当に……!」
「弥生ちゃん、中田先生をお願いね」
浅田ユリがクスリと笑い、動揺する部員たちのケアを任せると、パイプ椅子から立ち上がった兵藤は一人、バックネット裏へと歩を進めた。
そこには、トレンチコートの襟を立て、煙草の煙をくゆらせる片桐の姿があった。
「いいチームになりつつあるな、兵藤」
片桐の言葉に、兵藤は表情を一切崩さず、静かに頭を振った。
「スコアは2-1だが、課題が多すぎる。真田も一ノ瀬も決定力に欠け、翼のチャンスメイクを活かしきれていない。そして何より、最後の1失点だ……物理的な高さとパワーで押し込まれた時、今のDFラインでは耐えきれん」
「……東邦の猛攻を防ぎ切るには、程遠いか」
「ああ。日向小次郎の強引な突破、松山光の展開力、そして若島津健から点を奪うには……全国上位と戦うための『絶対的なストライカー』と『守備の要となるCB』が不可欠だ。今の部員たちの努力だけでは、埋められない絶対的なスペックの差がある」
兵藤の冷徹な分析に、片桐はフッと口元を緩め、煙草を携帯灰皿に揉み消した。
「分かっている。そのための『仕込み』は、すでに動かしているよ」
「……ほう」
「心当たりがある。神奈川でくすぶっている男と、南米から届く超弩級のストライカーだ。準備が整い次第、また連絡する」
「よろしく頼む」
兵藤はそれだけ言い残すと、喜びに沸く選手たちの元へと戻っていった。
夕暮れ時のグラウンド。初勝利の歓喜に包まれる部員たちの背後で、片桐は静かに受話器を握りしめた。武蔵を「一強・東邦」を打倒する完璧な戦闘集団へと仕立て上げるための、裏のスカウティングがいよいよ始まろうとしていた。
習実戦でこれまてに取り組んだ成果と新たに見えた課題。課題を克服するべく動き出した片桐。一体誰を連れてくるのだろうか。