キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
優勝候補筆頭と目された明和FCの衝撃的な自滅と準決勝敗退――。
その波乱の余韻とざわめきが収まらぬまま、スタジアムの関心は直後に行われる「準決勝第二試合」へと注ぎ込まれていた。
「明和が消えた今……この試合を制したチームが、事実上の全国王者だ」
集まったサッカー関係者や新聞記者の誰もが口をそろえた。
“ガラスの天才”三杉淳率いる、圧倒的な組織力と華麗さを誇る東京都代表・武蔵FC。
そして、“サッカーの申し子”大空翼を擁し、快進撃を続けてきた静岡県代表・南葛SC。
大会最高のカードであり、この死闘を勝ち上がった者が明日の決勝戦をも制するだろうと、誰もが疑わなかった。
しかし――試合は、人々の予想を大きく裏切る一方的な展開となった。
『ピーーーッ!』
キックオフの笛とともに押し寄せたのは、武蔵FCの流麗かつ圧倒的な攻勢だった。
対する南葛SCは、後手後手に回り、防戦一方。なす術もなく失点を重ねていく。
その原因は、他でもない南葛の「心臓」である大空翼にあった。
(……なんだ、今日の翼くんは)
武蔵のキャプテンマークを巻き、ピッチの中央でタクトを振るう三杉淳の眉間が、かすかに寄る。
翼の動きにはいつもの閃きも、ボールと遊ぶような伸びやかさも一切なかった。ルーズボールへの反応は遅く、三杉と対峙してもどこか腰が引け、身体をぶつけることを躊躇している。
三杉は、冷ややかに翼の瞳の奥を見つめた。
(翼くん……もしかして君は、僕の病気のことを……?)
前半終了のホイッスルが響く。
ベンチへと引き揚げる途中、三杉は武蔵のマネージャー・青葉弥生を静かな場所へ呼び出した。俯き、怯える弥生の表情を見ただけで、三杉はすべてを悟った。
「青葉君……君、翼くんに僕の心臓病のことを話したね?」
「……っ、キャプテン、ごめんなさい! 私……私、キャプテンの体が心配で……翼くんに手を抜いてくれって……!」
涙を流して謝罪する弥生に対し、三杉は怒るでもなく、ただ小さく息を吐いた。
「いいよ、青葉君。君が僕を心配してくれたのは分かっている。……だけど、失望したよ」
三杉の視線は、遠くで項垂れる背番号10――大空翼へと向けられた。
(残念だよ、翼くん。君がこれほど甘い男だったとはね……)
三杉の胸の内に、静かな、しかし激しい憤りが燃え上がる。
(僕の病気に対する動揺もあるのだろう。だがそれ以上に、目指すべきライバルだった明和の敗退によって、君は心ここにあらずだ。自分を燃やす目標を見失い、目の前の敵には病気を理由に同情の光を向けている……)
三杉は拳を強く握りしめた。
(いいだろう、大空翼。ならば後半……完全に君を叩き潰すまでだ!)
後半戦。暗転した空からついに冷たい雨が落ち始め、ピッチはあっという間に重くぬかるんでいった。
雨脚が強まる中、試合展開は依然として武蔵ペースのまま進む。翼は心臓病の事実と明和敗退のショックから立ち直れず、ピッチ上で完全に迷子になっていた。
「翼ァーーーーーッ!!!!」
その時、雨の音を突き破るような強烈な咆哮が、スタンドからピッチへ叩きつけられた。
南葛ベンチのすぐ後ろ、柵に身を乗り出すようにして叫んでいたのは、足の負傷により決勝での復帰を目指して温存されていた南葛の絶対的守護神――若林源三だった。
「何をやっているんだ翼!! そんな無様なプレーをするために、俺はキャプテンの腕章をお前に預けたんじゃないぞ!! ピッチに立っている以上、命がけで戦うのがサッカー選手だろうが!!」
「若林……くん……」
「目を覚ませ翼! お前のサッカーはそんなものか!!」
若林の怒声が、翼の凍りついた心を激しく揺さぶる。
さらに、スタンドの影で見守っていた師・ロベルト本郷の強い眼差しが翼の記憶に蘇る。
『翼、ボールは友達だ。ピッチの上では、相手に全力をぶつけることこそが最大の敬意なんだぞ』
「……翼くん!」
泥まみれになりながらボールを追いかけていた永遠のパートナー、岬太郎が翼の隣へ駆け寄ってきた。息を荒らげながら、岬は雨の中で微笑んだ。
「僕ね……この大会が終わったら、またお父さんの転勤で引っ越すんだ。だから……翼くんと一緒にサッカーができるのは、この大会が最後なんだよ!」
「岬……くん……?」
「最後なんだ……だから、後悔したくない! 翼くんと一緒に、最高のサッカーをして勝ちたいんだ!!」
若林の檄。ロベルトの教え。そして、岬が明かした別れの運命。
翼の脳内で、バラバラだったピースが一瞬にして繋がり、激しい熱となって身体中を駆け巡った。
(そうだ……俺は……何を迷っていたんだ……! 三杉くんは、命を削って全力で僕と戦おうとしてくれている! それなのに、僕がこんなところで立ち止まっていてどうするんだ!!)
翼の瞳に、爛々と輝く「闘志の炎」が蘇った。
「みんな……ごめん! 待たせたね……反撃だ!!」
息を吹き返した大空翼と、覚醒した南葛SC怒涛の反撃が始まった。
翼と岬の黄金(ゴールデン)コンビが雨のピッチを縦横無尽に駆け抜ける。武蔵FCが誇る精巧なオフサイドトラップの裏を、翼の驚異的な飛び出しと完璧なパスワークで次々と打ち破っていく。
ドォンッ!!
「入ったぁぁぁーっ! 南葛SC、ついに同点に追いついたぁーっ!!」
怒涛の猛攻で、ついに土壇場で同点に追いついた南葛。スタジアム全体が歓声で揺れ動く。
だが――この絶望的な状況でこそ、“ガラスの天才”三杉淳の本当の恐ろしさが解き放たれる。
「追いついたくらいで、勝ったつもりにならないでくれよ……翼くん」
青白い顔をした三杉の瞳から、常人離れした鬼気が立ち上っていた。
センターサークルから再開された直後、ボールを受けた三杉が動く。雨でスリッピーになったピッチを、まるで滑るかのような圧倒的なテクニックと緩急でドリブル開始。立ちふさがる南葛のディフェンス陣を、驚異的な個人技で次々と「置物」のように置き去りにしていく。
「な……なにぃ!?」
井沢も、来生も、石崎すらも触れることすらできない。
最後は飛び出してきたGK森崎の頭上を抜く、あまりにも華麗で、あまりにも残酷な勝ち越しゴール!
【武蔵FC 勝ち越し】
「くっ……これが……三杉淳……!」
再び突き放された南葛。しかし、三杉の胸はすでに限界を超えた激痛で悲鳴を上げていた。右手を強く胸に押し当て、荒い呼吸を繰り返しながら、三杉は翼を見つめる。
「来い……翼くん……最後だ……!」
運命の時計が、刻一刻と「その時」へ向かって進んでいく。
死闘はついに、誰も予想し得なかった衝撃の終盤へと突入する――。
原作同様、三杉淳のプレイに手も足もでない翼。そこから怒涛の反撃で同点に追いついた南葛。しかし天才三杉淳の圧巻の個人技で勝ち越し。追いつめられた南葛。試合の行方は!