キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
全小準決勝での三杉淳の悲劇的な死。その過酷な体験によって心に深い傷を負った大空翼は、全小が終わった直後の9月、身を置く環境を変えてブラジルへと渡っていた。
アマゾン奥地でのナトゥレーザの出会いを経て再びサッカーの情熱を取り戻していった翼、やがてサンパウロFCの育成組織に身を置き、翼の傍らには、兄カリオとともにアマゾンの奥地からスカウトされたナトゥレーザの姿もあった。
そして——中学2年の7月初旬。
サンパウロFC Jr.は、南米各国の強豪ジュニアチームが集う国際交流大会に参加するため、アルゼンチンへと遠征していた。参加クラブは地元のアルヘンティノス・ジュニオルスJr.、ボカ・ジュニオルスJr.、そしてウルグアイのモンテビデオJr.といった南米屈指の育成組織ばかりである。
初めての海外遠征に、鋭い眼光を輝かせるナトゥレーザ。
「翼、見てみろよ。空気も街並みも、サンパウロとは全然違うぞ」
「ああ。だけど、ピッチの熱量はどこへ行っても同じだ」
翼もまた、アルゼンチンの地が放つ独特の緊張感に神経を研ぎ澄ませていた。心の傷を治療し乗り越えてきた瞳には、静かで力強い闘志が戻っていた。
初戦の相手は、ウルグアイのモンテビデオJr.に決まった。
試合前のミーティングで、サンパウロJr.の指導に当たるロベルト・本郷がボードを叩く。
「相手は伝統的なウルグアイサッカーの激しさと勝負強さを体現するチームだ。特に注意すべきは、ワントップに入る『火野竜馬』。現地では“ジャパニーズ・ボンバー”と呼ばれている。重戦車のようなパワーと、南米の荒波で磨かれたテクニックを兼ね備えた危険なストライカーだ」
自分以外にも、南米の地でトップレベルを目指す日本ルーツの選手がいる——翼はその名に強い興味を惹かれた。
「今日の攻撃は、翼とナトゥレーザのラインに集める。ふたりのアイデアでウルグアイの堅守を打ち破ってくれ」
ロベルトの指示を受け、選手たちはピッチへと向かった。
◇
キックオフ直後、試合は電撃的な展開を迎える。
ボールを収めたモンテビデオJr.のFW火野竜馬が、迷わず正面から翼へと1対1を仕掛けてきたのだ。
「来いッ、サンパウロの10番!!」
荒削りだが圧倒的な威圧感を放つ巨躯。翼は正面から受け立つべくステップを踏むが、火野はそのまま強烈な身体接触で翼を弾き飛ばした。
「くっ……!?」
ピッチに倒れ込みながら、翼は驚愕に目を見開いた。
(なんだ、この重さは……! パワーだけなら、明和FCの時の日向君すら超えている……!)
エース対決をパワーで制したモンテビデオJr.は一気に勢いに乗り、サンパウロ陣内へと雪崩れ込む。最後はペナルティエリア内に侵入した火野が、重厚なステップから豪快な右足のシュートを叩き込み、鮮やかに先制点を奪ってみせた。
しかし、サンパウロも黙ってはいない。
翼は無理なパワー勝負を避け、一瞬の判断スピードとファーストタッチで火野のアプローチをいなすと、ナトゥレーザとのテンポの早いコンビネーションへ移行する。1タッチ、2タッチで相手の激しいプレスを無力化し、最後はナトゥレーザが飛び出したゴールキーパーをもあざ笑うかのように抜き去り、同点ゴールを挙げた。
その後、試合は壮絶な打ち合いへと発展する。
モンテビデオJr.は火野が強烈な左足のシュートで追加点を奪い、さらには相手DFを引きつけた見事なポストプレーから味方のゴールを演出。だが、それを上回ったのが翼とナトゥレーザの超次元的なコンビネーションだった。
ピッチを広く使い、ダイレクトパスで相手の守備ブロックを完全に崩壊させたサンパウロJr.が、最終スコア5-3で勝利を収めた。
ノーサイドの笛が鳴った瞬間、汗だくの火野が翼のもとへ歩み寄ってきた。
「おい、大空翼……。お前とあの20番(ナトゥレーザ)、とんでもねえな。次は絶対に負けねえぞ」
「火野君……君もすごいストライカーだ。また戦おう!」
固い握手を交わすふたり。お互いの胸に、ライバルとしてのリスペクトが刻まれた瞬間だった。
——そして、その激闘をスタンドから鋭い目つきで見つめる男がいた。日本サッカー協会の賀茂港である。
「……なるほどな。全小準決勝での三杉淳の死、……あの壮絶なトラウマに向き合い、翼はブラジルの地で完全に精神を再生させたか。思考と技術も一段上の領域に達している」
賀茂はメモ帳に視線を落とし、火野竜馬のデータにペンを走らせた。
「そして、モンテビデオの火野竜馬……両親が日本人か。あの破壊力と勝負強さ、全日本の未来のために、喉から手が出るほど欲しい逸材だ」
◇
アルゼンチン遠征はその後も続き、翼はアルヘンティノスJr.の絶対的エース、ファン・ディアスとの遭遇などを通じて、世界の層の厚さを肌で実感していく。
世界を相手に戦いたい——その野心が燃え上がる一方で、翼の胸にはどうしても消えない思いがあった。
(世界へ羽ばたく前に、俺には日本で決着をつけるべきことがある。準決勝で命を落とした最高のライバル・三杉君が全てを捧げた武蔵中学で、仲間たちとともに日本一になる……それを果たさずに、前へは進めない)
遠征最終日の夜。ホテルの裏庭で、翼は火野とふたりで会っていた。
「再戦だ、翼! 次の南米選手権か、来年のユース大会で決着をつけようぜ!」息巻く火野に対し、翼は静かに首を振った。
「ごめん、竜馬君。俺は……日本に帰るんだ」
「……あ? なに言ってんだお前! 日本は確かにお前の母国かもしれねえが、南米に比べたら月とスッポンのサッカー後進国だぞ! 世界を舞台に戦う気はないのかよ!?」
「逆だよ、竜馬君」翼の瞳には、揺るぎない光が宿っていた。「世界で戦うために……まず日本一になるんだ」
翼は静かな声で、全小準決勝で起きた悲劇、そして三杉淳という存在が残した武蔵中学のサッカーについて語り始めた。黙って耳を傾けていた火野は、やがて深く息を吐き出すと、頭をガリガリと掻いた。
「……そうかよ。わけは分かった」
火野はニッと不敵な笑みを浮かべ、翼の肩を強く叩いた。
「だけどよ、お前が帰ったところで、その本気のパスを受け止められるストライカーが今の日本にいると思うか?」
「え……?」
「翼、困ったことがあれば俺を呼べ。最初はサッカー後進国の日本なんて冗談じゃねえと思ってたが……お前と戦ってみて気が変わった。お前と組むなら、日本代表として世界一を取るのも悪くねえってな!」
翼の目が丸くなった。
「……竜馬君。ありがとう! わかった、次はチームメイトとして共に戦おう。そして、一緒に日本を世界一にしよう!」
「おうッ!」
夜空の下、熱い誓いの握手が交わされた。
◇
それから半年後の年末。
協会の賀茂と片桐による半年間におよぶクラブ交渉と書類手続きを経て、日本へ降り立った火野竜馬。この規格外のストライカーの合流が、東邦学園一強と思われた中学サッカー界に、さらなる波乱をもたらすことになるのだった。
幕間いかがでしたか。物語は中2の冬になります。次は懐かしい人物との再会も…