キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
クリスマスから一週間が過ぎた。
1月1日、元旦。サッカーを志す者にとって、この日は特別な意味を持つ。高校サッカー選手権と天皇杯決勝が国立競技場で行われ、サッカーの聖地には全国から無数のサッカーファンや関係者が詰めかけていた。
その人波の中に、ロベルト本郷、大空翼、ナトゥレーザ、そしてカリオの姿があった。午前中に初詣を済ませた一行は、ロベルトが日本サッカー協会(JFA)のサッカー教室で講師を務めている縁もあり、天皇杯決勝の特別招待席へと向かっていた。
人混みの中、どこへ行くにも足元でボールをこね回すナトゥレーザを見て、カリオが苦笑いを浮かべる。
「しかし、本当にナトゥレーザはどこに行ってもボールを手放さないな」
「いいだろ別に、ボールは友だちなんだからさ! なあ、翼?」
「はは、そうだね」
無邪気に笑うナトゥレーザに、翼も優しく微笑みを返した。
用意された招待席に腰を下ろし、熱戦が繰り広げられるピッチを見つめる翼。その姿を、少し離れた私立東邦学園中等部をはじめとする強豪校のエリート部員用招待席から、じっと見つめる少年がいた。
(……翼君?)
岬太郎だった。2年ぶりの再会に、岬の胸が小さく跳ねた。
前半が終了し、ハーフタイムを迎えると、関係者席の通路は挨拶回りをする大人たちで混雑し始めた。その中に、東邦学園サッカー部のスカウト部長・大沢の姿があった。大沢は目ざとく片桐宗正を見つけると、不敵な笑みを浮かべて歩み寄った。
「片桐」
「大沢さん。ご無沙汰です。相変わらず青田買いですか?」
「ハハハ、こりゃ手厳しい。これでもうちは獲得した人材はしっかり育成しているんだぜ? ……お前の方も、うちを倒そうといろいろ動き回っているって聞くがね」
片桐はコートのポケットに手を突っ込んだまま、静かに首を振った。
「打倒東邦というよりは、サッカー界全体の底上げのためですよ。この年代のレベルアップなしに、日本が世界に出ることなど叶いませんから」
「なるほどな。だが言っておくが、うちだって世界に通用する選手を育てているんだぜ。やり方が違うだけだ。……それじゃ、他にも挨拶に行かないといけないんでな」
元日本代表のチームメイトでもある片桐と軽く言葉を交わし、大沢はその場を離れた。だが、すれ違いざまに片桐の後ろを歩いていた一人の少年の姿が、大沢の脳裏から離れなかった。
(あいつは確か……井川隼人の弟の岳人。身体能力とセンスは申し分ないが、指導者と揉めてチームを飛び出したはずだ。組織の輪を乱す人間を拾うのはご法度、だからうちはスカウト対象から早々に外したんだが……片桐め、本気であいつを使うつもりか? だが、あの暴れ馬を御せる指導者なんて、どこにいるというんだ……)
思考を巡らせながらも、大沢は次の挨拶先へと消えていった。
一方、関係者席の通路を、翼とナトゥレーザが談笑しながら自席へ戻ろうとしていた。
「翼君」
背後から届いた懐かしい声に、翼はハッと足を止めて振り返った。
「岬君……!」
視線が交差した瞬間、ふたりの脳裏に2年前の夏の別れが蘇る。
「日本に帰ってたんだね、翼君」
「うん!」
固く微笑み合うふたりの横で、ナトゥレーザが不思議そうに首をかしげた。
「どうした翼?」
「翼君、その子は……?」
「ブラジルで知り合った、ナトゥレーザだ」
「ナトゥレーザ、よろしく。僕は岬太郎」
「翼の友だちは、俺の友だちだ! よろしく岬!」
人懐っこく笑うナトゥレーザに、岬も温かい笑顔を返した。
「もうすぐ後半が始まっちゃうから、一度席に戻るね。試合が終わったら現地解散になるから……翼君、後で少し時間とれないかな?」
「うん、わかったよ! じゃあ後で!」
約束を交わし、ふたりはそれぞれの席へと戻っていった。
試合終了後。岬は松山光を伴い、ロベルトたちと合流して神宮外苑の並木道を歩いていた。2年間の空白を埋めるように、互いの近況を語り合う翼と岬。
すると突然、ナトゥレーザが二人の間へ割り込んできた。
「お兄ちゃんたちもサッカーするんだろ? ここでサッカーやろうよ!」
ナトゥレーザは足元のボールを浮かせると、頭、肩、踵を滑らかに使う超絶なリフティング技術を披露し始めた。その規格外のボールタッチに、岬と松山は驚愕して息をのむ。
「それっ、お兄ちゃん!」
ナトゥレーザが楽しそうに岬へパスを出す。岬は一瞬目を見張りながらも、その柔らかいトスを吸い付くようなトラップで受け止め、ナトゥレーザが見せた高度な技を見事にコピーしてみせた。
「うわっ、お兄ちゃん上手だなあ!」
「それっ、翼君!」
岬から出されたパスを翼が胸で収め、そこから即興のミニサッカーが神宮外苑の広場で始まった。翼、岬、松山、そしてナトゥレーザ。4人が奏でるボールの音と歓声が、冬の澄んだ空気に響き渡る。言葉以上の意思疎通が、ボールひとつを通して交わされていた。
心ゆくまでサッカーを堪能した4人は、夕闇が迫る頃、名残惜しそうに足を止めた。
「翼君。今度会う時は、敵同士だね。対戦、楽しみにしているよ」
岬が爽やかに微笑む。続いて松山が、静かな、しかし燃えるような眼差しで翼を見つめた。
「翼、俺たち東邦は全国三連覇が目標だ。お前が立ちふさがるなら、お前を倒す」
「俺もみんなと戦えるのが楽しみだよ。その上で……俺たち武蔵が東邦を倒して日本一になる!」
翼の力強い言葉に、松山と岬は力強く頷いた。互いの健闘を誓い合い、握手を交わして別れる。
寮への帰り道、並んで歩く松山と岬。
「岬……翼のやつ、前にも増してうまくなっている。それに、あのナトゥレーザってやつ……相当やるぞ。本当に俺たちの前に立ちふさがるかもしれん」
「そうだね。ものすごい強敵だ。……でも松山、なんだかすごく嬉しそうだね」
「フッ……相手が強ければ強いほど、倒しがいがあるからな」
松山は不敵に口元を緩めた。ふたりの胸には、王者としての新たなる闘志が燃え上がっていた。
現在は天皇杯の元日決勝はないですが、1980年代中頃から後半にかけての国立競技場周辺は、サッカーに関わる者にとっては一大イベントでした。いよいよ物語は鍛錬の冬に入ります。日向も国立競技場にいましたが、翼にそこまで親近感があるわけではないので岬の誘いを断り、そのまま帰った設定にしています。
※神宮外苑での翼たちの草サッカーの描写は80年中頃から後半にかけての時代設定です。現代の状況設定はしていませんのでご容赦ください。