キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
正月の三ヶ日休みが明けた、1月4日。
冬の澄み切った朝の空気が満ちる武蔵野のグラウンドに、部員たちの元気な声が響いていた。
年内最初の練習日。キャプテンの大空翼を中心に、グラウンドの四隅に清めの塩を撒き、今年一年の無事と勝利を祈って全員で礼を捧げる。正月休みで英気を養った部員たちの表情には、どこか引き締まった決意が宿っていた。
挨拶を終え、集合した部員たちの前に監督の兵藤が立つ。その両脇には、見慣れない二人の少年が佇んでいた。
「よし、全員揃っているな。今日から武蔵に加わる新しい部員を紹介する。火野と井川だ」
兵藤の言葉に、部員たちの間に小さなどよめきが広がった。浅黒い肌に金髪をなびかせ、鋭い眼光でこちらを睨みつける大柄な少年——火野竜馬。自由気ままでどこか冷めたような不敵な笑みを浮かべる長身の少年——井川岳人。
「あの金髪の奴は知らないが……もう一人の奴って、神奈川の井川じゃないか?」
一ノ瀬が声をひそめる。
「中学でチームメイトと揉めてクラブチームに移ったけど、そこでも監督と揉めて辞めたって聞いたぞ……大丈夫なのかよ」
真田たちのひそひそ話が聞こえたのか、井川は鼻で笑い、底冷えするような声を放った。
「ふっ……ここも上辺だけの評価しかしない連中の集まりか。所詮は、三杉淳の残党の集まりだな」
「なんだと……!?」
『三杉淳』という名を侮辱するように扱われ、真田や本間たちの顔色が瞬時に変わった。空気が一気に緊迫し、怒りに拳を握りしめる部員たち。だが、その殺気立った雰囲気を割って入ったのは、翼だった。
「待てよ、みんな」
翼はまっすぐな瞳で井川を見つめ、静かに、しかし力強い声で言葉を紡いだ。
「俺たちは……三杉君の死を乗り越えようと、今歩き始めたばかりだろ。井川君だって、周りからの評価に苦しんで……それを自分自身で変えたくて、ここ(武蔵)に来たんだ。……人は、いつだってやり直せる。そうだろ?」
翼の言葉に、息をのむ部員たち。副主将の本間が静かに前へ出た。
「……そうだ。俺たちだって三杉さんが亡くなってから、周りから散々馬鹿にされてきて……それでも今、前を向いてやってるんじゃないか」
「俺だって一度は部を逃げ出した身だしな……」
一ノ瀬が苦笑いを浮かべると、真田も頭をガリガリと掻きながら溜息をついた。
「そうだな……俺たちも偉そうなことが言える立場じゃなかったわ」
武蔵イレブンを包んでいた怒りは消え去り、そこには過去の苦しみを知る者同士の温かな理解が広がっていた。翼は井川と火野に向かって、爽やかな笑顔を向けた。
「だから俺たちは歓迎するよ。井川君、そして竜馬!」
「ん? なんだ翼、お前そいつ(火野)と知り合いなのか?」
意外そうな真田の問いに、翼は頷いた。
「うん。俺がブラジルでサンパウロFCのジュニアにいた頃、ウルグアイのモンテビデオのジュニアチームと対戦したことがあってさ。竜馬とはそこで試合をしてるんだ」
「なるほど、海外帰りか……どうりで俺たちが知らないわけだ」
本間が納得したように頷く。
腕を組み、ニッと不敵に歯を見せて笑ったのは火野だった。
「翼、あの時の約束を覚えているか? 『お前と俺が組んで、日本を世界一にする』っていう約束をさ。俺はその約束を果たすために、ウルグアイから日本に戻ってきたんだ。まずは……最短で日本一だ!」
火野の叫びにも似た宣誓に、兵藤が力強く胸を張った。
「よーし! お前たち、今年はチームとして明確な目標を発表する。——それは『日本一』だ。火野の言う通り、最短で日本一を獲るための道を突き進むぞ!」
「『はい!!』」
グラウンドを揺らすような返事。初日の気合が最高潮に達したその時、パン、パンと手拍子の音が響いた。
「はーい! 盛り上がっているところ悪いけど……今日はフィジカルトレーニングよ!」
浅田ユリがニッコリと微笑みながら、メニューの載ったバインダーを掲げる。
「休み明けのコンディション調整と、怪我をしないための体作り。これこそが『日本一』への一番の近道なんだからね」
「げぇっ……! せっかく年明け初蹴りができると思ったのに……!」
真田が露骨に肩を落とすと、グラウンドにドッと大きな笑いが巻き起こった。井川も、どこか呆れたように、しかし先ほどまでの毒気を抜かれた表情でその光景を見つめていた。
新たに火野竜馬と井川岳人が加わった武蔵中。悲願の『日本一』という頂に向けて、気持ちも新たに力強いスタートを切っていた。
一方、同じ頃の私立東邦学園中等部。
冬休みの最中でありながら、王者・東邦のグラウンドには凄まじい緊張感と熱気が満ち満ちていた。三連覇という至高の目標を掲げる部員たちは、寸暇を惜しんで汗を流している。
激しいメニューを消化し、束の間の休憩に入ったピッチ脇。汗を拭いながら、主将の松山がぽつりと呟いた。
「武蔵との公式戦は、全中に向けた都大会までおあずけか」
ドリンクボトルを手に、岬が静かに頷く。
「そうだね。翼君にナトゥレーザ……あと三杉君が鍛え上げた武蔵のイレブンだね」
二人の会話を横で聞いていた新田瞬が、靴紐をギュッと結び直しながら不敵な笑みを浮かべた。
「大空翼と対戦か……。これでようやく、俺の方が上だということを証明できる。南葛での実績(日本一)は俺の方が上なのに、世間はいまだに『翼、翼』と言っているんでね」
キーパーグローブを鳴らし、鋭い眼光を放ったのは若島津健だ。
「俺がすべて完封してやる」
そして、グラウンドの片隅で黙々と筋力トレーニングを続けていた日向小次郎が、ゆっくりと立ち上がった。その全身から放たれる圧倒的な威圧感。
「どちらにせよ……チームの日本一と、ナンバーワン・ストライカーの座は誰にも渡さん!」
日向のその一言で、チーム全体の空気が一段と跳ね上がる。松山が不敵に口元を緩め、部員たちに向かって声を張り上げた。
「よし! みんな、もう一丁やるぞ!」
「『おう!!』」
絶対王者・東邦学園にも隙はない。
日本一に向けて、各校が熱い闘志を燃やしながら新年の始動を果たしていた。
井川の加入ですが、井川の兄隼人は既に頭角を現しており、片桐とも知り合いで弟の身を案じて相談をして片桐が動いたという設定にしました。さすがに原作以上に強力な東邦の攻撃陣を止めるのにモブだけでは限界があるので…加入しています。