キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
年が明け、火野竜馬と井川岳人が正式に加わった武蔵中のグラウンドは、連日熱を帯びた練習が繰り広げられていた。
新陣容の中で、誰よりも意気込んで声を張り上げているのは、FWからセンターバック(DF)へとコンバートされた真田信次だった。
初め、兵藤からコンバートを言い渡された時の真田は、当然のように露骨に不満を撒き散らしていた。
「何でエースFW(自称)の俺がDFにコンバートなんだよ! 俺が前にいないで誰が点を獲るんだ!?」
「そりゃ、竜馬だろ」
呆れ顔の一ノ瀬に、真田は食ってかかった。
「ふざけんな! 武蔵トリオが攻撃を支えるんだろーが!」
「そうは言うけどさ、本間だってボランチに転向だぞ?」
「お前は、ポジション変わらないからそんな気楽なことが言えるんだよ!」
押し問答を繰り広げる二人を、兵藤はどこか楽しそうに眺めていたが、やおら静かに真田の肩に手を置いた。
「真田。お前のその負けん気の強さがいいんだ。チームが劣勢に立たされた時、一番後ろから声を張り上げてチーム全体の士気を引き上げられるのは……翼にもできない、お前だけの重要な役目なんだぞ」
「え……? 俺だけの役目……?」
「おまけに対人プレーにも強く、空中戦もめっぽう強い。お前なら、東邦の日向だって完封してくれると思ったんだがな……。まあ、やっぱり守備の要は、井川でいくか」
言うや否や、兵藤が背を向けて井川の方へ歩き出そうとすると、真田は慌ててその腕を掴んだ。
「ま、待て監督! 武蔵のDFリーダー(自称)はこの俺を置いて他にいないだろうが! 三杉キャプテンの元でオフサイドトラップを叩き込まれたこの俺、真田信次以外にな!」
「ほう、やってくれるか?」
「当たり前だ! ——おーい井川、こっち来い、対人練習だ! 翼、容赦なく攻めてこい!!」
あっという間にやる気満々でグラウンドへ飛び出していく真田の背中を見送りながら、部員たちは新監督の手腕に脱帽していた。
(すげえ……あのウルサ型の真田を一瞬でやる気にさせて、コンバートを納得させちまうとは……)
本間は心の中で深く感心していた。真田信次という男は、実に扱いやすく、そしておだてに乗る男であった。
真田の他にも、武蔵に絶大な活気をもたらしている存在があった。ナトゥレーザだ。
これまでは「押しかけ」という形でたびたび武蔵中の練習に混ざっていた彼だったが、4月からの武蔵中への正式入学が内定したことを機に、放課後や土日の練習への参加が学校側から正式に認められたのだった。
「それっ! 岳人、行くぞー!」
「まだまだ甘い!!」
ナトゥレーザの変幻自在のドりブルに、喰らいつく井川。ハイレベルな激突があちこちで巻き起こっている。
その様子を、ネット越しに見つめる兵藤と片桐宗正の姿があった。
「火野と井川の様子はどうだ?」
「順調だよ。チームにもすぐになじんでいる」
兵藤の答えに、片桐は少し意外そうな表情を浮かべた。
「二人とも、なかなか我が強いと聞いていたがな」
「井川の場合は、行く先々でトラブルを起こして挫折を繰り返してきた。だが、うちの部員たちも三杉淳を失った悲しみから、ようやく這い上がろうとしている最中だ。いわば同じ『挫折を知る者』同士、自然と受け入れることができたんだろう。……火野に関しては、『翼が認めた男』というのがデカいな。もちろん、本人の実力も申し分ない」
兵藤の説明に、片桐は深く納得したように頷いた。
「なるほどな。……それで、戦力としての手応えはどうだ?」
「ディフェンスに井川と真田。中盤はボランチに本間を置き、ゲームメイクは翼。前線には一ノ瀬と火野。各ポジションに核となるプレーヤーを配置できた。あとは4月からナトゥレーザが加わり、さらにナトゥレーザのコネで有望な新人も加わりそうでな。なんとか全国のトップレベルと渡り合える形は見えてきた。……あとは……」
「キーパーか?」
片桐の問いに、兵藤は少しだけ表情を曇らせた。
「そうだ。田沢も武蔵出身らしく基礎技術はしっかりしている。だが、全国の並み居る怪物ストライカーたちを止めるとなると……。最悪、井川はオールラウンダーの素質があるからキーパーへのコンバートも頭をよぎるが、さすがに現実的じゃない」
「……」
「それはそうと、片桐。ナトゥレーザは夏の全中に出られるんだろうな? 学校側は留学生として受け入れるつもりのようだが」
「そこは問題ない。学校が正式に認めた留学生であれば、日本サッカー協会が出場制限をかけることはない。万全の状態で登録できるよう手配してある」
「それを聞いて安心したよ。あいつは今の武蔵にとって、絶対に欠かせないピースだからな」
片桐は兵藤の顔をまっすぐに見つめ、静かに、しかし熱を込めて言った。
「頼んだぞ、兵藤。今年の武蔵が東邦の対抗馬とならなければ……日本サッカー界の未来はない」
「フッ、任せろ片桐。今年の夏の王者は、東邦じゃない。——うちだ」
大人の密やかな会話をよそに、武蔵のグラウンドには翼を中心とした活気あふれる声と、激しくボールを追う足音がどこまでも響き渡っていた。
凍てつくような冬の鍛錬を乗り越え、季節は巡る。
悲願の『日本一』をかけた最後の夏に向け、翼たちにとって運命の中学3年生の春が、すぐそこまで迫っていた。
各ポジションに核となる選手が配置され、戦力に厚みを増した武蔵中学、季節はいよいよ3年生の春を迎えます!春にはナトゥレーザも正式に加入し、どんなチームになるのか!