キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
新入生たちを迎え、ますます活気を帯びる武蔵野のグラウンド。
新たな体制で臨む初の練習試合を翌日に控えたその日、日本サッカー協会の片桐宗正が視察のために足を運んでいた。
「相変わらず、いい活気に満ちているな」
ピッチを見つめながら、片桐が感心したように呟く。隣に立つ兵藤監督は、腕を組んで静かに頷いた。
「ああ。今年は実に頼もしい新入生が入ってきたんでな」
「ほう」
「ナトゥレーザは言わずもがなだが……真田の弟(正己)も武蔵出身らしく基礎ができていて、兄貴ほどクセが強くなくスマートに対応できる。明和出身の川村は中盤ならどこでもこなせるマルチ性がある。そして、一番の懸案だったゴールキーパーも、相川の加入でようやくメドが立った」
「そこまで揃ったのか」
「ああ。身長はまだ伸びそうだし、元バレーボール部だったおかげで左右の筋肉バランスもいい。何よりバレーで培ったフライングレシーブが身についているから迷わず飛び込める。元エースアタッカーとしての強烈なスパイクを打つための握力、そして跳躍力……キーパーに必要な素質を驚くほど備えている。その相川の姿に刺激されて、田沢をはじめ他の連中も目の色を変えて練習しているよ」
片桐は大きく感心したように息を呑んだ。
「他競技からの転向か……。それは俺にとっても盲点だったな。今後の選手発掘・強化対策の項目としても、前向きに検討させてもらうよ」
「それにな、時々こうしてロベルトがコーチを買って出てくれるのも大きい。今もああして、あいつらに的確なアドバイスを送ってくれている」
兵藤が指差した先では、ロベルト本郷が身振り手振りで若手たちにボールコントロールの極意を授けていた。
「これで、全中に向けたすべてのピースが揃ったというわけだな」
「まあな。だが、本当の勝負はここからだ。まずは、明日の練習試合でしっかり形を見せてもらうさ」
「ふっ……楽しみに出させてもらうよ」
一方、ピッチの脇で短い休憩に入った1年生の一団が、楽しげに言葉を交わしていた。
「それにしてもさ、相川がバレーをやめてサッカーに転向するなんて、最初はびっくりしたぜ」
真田正己が水分補給をしながら笑う。
「まあ、バレーでは全国優勝も経験してある程度やり切ったってのもあるけどさ……やっぱり、ナトゥレーザの存在が大きかったかな」
相川は遠くでボールを蹴る金髪の少年に目を細めた。
「あいつがサッカーに誘ってくれなかったら、今でもそのままバレーを続けてたと思うよ」
「そうだよな。ナトゥレーザが俺たちの小学校に転校してこなかったら、俺だって今こうしてサッカーをやってるかどうかわかんないもんさ」
「そうなのか?」
「ああ。だって、翼キャプテンとナトゥレーザが来る前の武蔵サッカー部なんて、亡くなった三杉さんの幻影を追いかけてるだけの、どこか淀んだチームだったからな……」
正己が少し遠い目をして肩をすくめる。
「まあ、俺たちの話はいいとしてさ……川村、お前はなんでまた東邦じゃなくて武蔵なんだ?」
相川が隣の川村に視線の先を向けた。
川村は苦笑いを浮かべながら、芝生に視線を落とした。
「俺は、沢田と一緒にサッカーをやろうと思って東邦学園を希望したんだ。……だけど、沢田にはスカウトが来たけど、俺には来なくてさ。だから自力でセレクションを受けたんだが……あえなく不合格でな。その帰りに、たまたま近くで武蔵が習実と試合をしているのを観たんだ。そこで見た戦術の緻密さと、翼キャプテンの圧倒的なプレーに心を撃ち抜かれてさ……『俺もこのチームでサッカーがしたい』って、心底思ったんだよ」
「そうだったのか……。しかし東邦のスカウトも見る目がねえよな。全小で俺たち武蔵が明和に敗退した時だって、沢田よりお前の左足にやられたようなもんだったのにさ。あのカーブのかかった正確無比なFK……直接ゴールに叩き込まれた時はぐうの音も出なかったぜ」
正己の言葉に、川村は照れくさそうに頭を掻いた。自分の誇る最大の武器——精密機械のような左足のキック精度を、真田の弟はしっかりと覚えていてくれたのだ。
その時、ピッチの中央から元気いっぱいの声が響いた。
「おーい、正己たち! 休憩終わりだぞ! 早くサッカーしようぜ!」
「まったく、俺らの大将はいつ見てもスタミナが化け物だな……!」
正己が苦笑しながら立ち上がる。相川と川村もそれに続いた。
「でも、あいつがあんな調子で引っ張ってくれるから、どんなにきつい練習も乗り越えられるんだ」
「ああ、そうだな。やろうぜ! 俺たちが上の連中からポジションを奪ってやることが、チーム全体の底上げになるんだからさ!」
新入生たちはナトゥレーザという圧倒的な太陽を中心に、強く、そして頼もしい絆で結ばれていった。
その日の練習が終わり、夕暮れに染まるグラウンド。
部員たちが引き締まった表情で整列する中、兵藤監督が一人ひとりに背番号の入った新しいユニフォームを手渡していく。
大空翼には『10』。
火野竜馬には『9』。
本間には『6』。真田には『5』。一ノ瀬には『7』。
主要メンバーの名前を次々と読み上げた後、兵藤は少し声を張り上げた。
「今回は、新入生からもメンバー入りを果たす者がいる。――キーパー、相川(12番)!」
「はいっ!」
「DF、真田正己(3番)!」
「はいっ!」
「MF、川村大輔(11番)!」
「はいっ!」
そして、兵藤は最後に一呼吸置き、静かにその名前を呼んだ。
「最後に……ナトゥレーザ」
手渡されたユニフォームを見た瞬間、部員たちの間に小さなどよめきが走った。
そこに縫い付けられていた数字は――『14番』。
かつて、病と闘いながら武蔵の魂を背負い続け、早世した天才・三杉淳が身につけていた特別な背番号だった。
一瞬の静寂の後、DFの真田がフッと穏やかに笑った。
「……いいんじゃないか。ナトゥレーザがつけるんなら、天国の三杉キャプテンも文句は言わねぇさ」
「ああ、そうだな」一ノ瀬が大きく頷く。「あいつの実力は俺たちが一番よく知ってるんだからな」
「番号がすべてじゃないが……頼んだぜ、ナトゥレーザ」本間が優しく肩を叩く。
チームメイトたちの温かい視線を受け、ナトゥレーザは自分のユニフォームの『14』の数字をじっと見つめ、それから満面の笑みを浮かべて頷いた。
「おう、任せろ!」
翼がチームの中心に進み出ると、力強く拳を握りしめた。
「よし! この新しいメンバー全員で、明日の試合に勝つぞ!」
「「「おうっ!!」」」
ピッチ脇で見守っていたマネージャーの弥生も、ファイルとボトルをしっかり抱え直して力強く頷いた。
「私たちも、明日は全力でみんなをサポートするわ!」
「「はいっ!」」北野と小山も真剣な表情でそれに続いた。
ベンチメンバーも、サポートメンバーも、新入生も上級生も関係ない。
すべてのピースが噛み合い、一丸となった武蔵中学校サッカー部は、熱い闘志を胸に、いよいよ明日へと迫った決戦の舞台へと挑んでいく。
これで全てのピースが揃い、このメンバーで日本一を目指していくことになります。ナトゥレーザがいるから三杉のつけていた14番は永久欠番ではなく、部員たちにその魂を引き継ぐことになります。