キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
新緑の風が吹き抜ける5月。
数試合の練習試合を経て、新布陣の連携と兵藤監督の戦術『ゾーンプレス』の精度を極限まで高めた武蔵中学校サッカー部は、ついに全国中学校サッカー大会・東京都ブロック予選の初戦を迎えていた。
対戦相手は、奇しくも去年の秋のブロック予選初戦で武蔵が敗北を喫した相手——三鷹台中学だった。
試合開始直前の控室。三鷹台のミーティングルームでは、監督が部員たちを前にボードを叩いていた。
「風の噂じゃ武蔵は練習試合で都大会ベスト4の習実中に勝ったらしいが……お前たちは秋の大会で、あの武蔵に快勝しているんだ! その時の勝ち筋を忘れるな。キーマンは間違いなく10番の大空翼だ。奴にボールが入ったら即座に二人で挟み込め! 翼さえ抑えれば、武蔵など恐るるに足りん!」
「はいっ!!」
一方、武蔵の控室。
兵藤監督は静かな眼差しで選手たちを見渡していた。
「相手は秋の予選と同じ三鷹台だ。おそらく奴らは、前回の勝ちに味をしめてお前たちを舐めてかかるだろうな」
真田が不敵にニヤリと笑った。
「監督、俺たちを秋の時と同じチームと思われちゃ困るぜ!」
「その通りだ。だが、相手の認識はそう簡単には変わらん。そして、間違いなく翼に厳しいマークを集中させてくる。……だからこそ、序盤は翼ではなくナトゥレーザを中心にして攻める! 『翼を抑えれば勝てる』という相手の甘い目論みを、開幕早々に完膚なきまでブチ壊してこい!」
兵藤は言葉を切り、力強く指示を続けた。
「それから、試合の行方が決まった時点で主力はどんどん交代させる。翼、お前もだぞ。ベンチのメンバーも、いつ声がかかってもいいように準備を怠るな!」
「「「はい!!」」」
キャプテンの大空翼が輪の中心に立ち、力強く拳を突き上げた。
「よーし! ここから、俺たちの『日本一』への挑戦が始まるぞ。行くぞ、みんな!」
「「「オーッ!!」」」
【武蔵中学校 スターティングメンバー】
* GK: 相川大和(12番/1年)
* DF: 真田正己(3番/1年)、井川岳人(4番/3年)、真田信次(5番/3年)、広瀬拓海(2番/2年)
* MF: 本間実(6番/3年/ボランチ)、川村大介(11番/1年)、大空翼(10番/3年)、ナトゥレーザ(14番/1年)
* FW: 火野竜馬(9番/3年)、一ノ瀬明(7番/3年)
ピッチに整列した選手たち。その中で、翼はある異変に気づいていた。
(……岳人君の様子が、いつもと違う?)
これまで挫折を繰り返し、武蔵で初めて掴んだ「公式戦のスタメン」という重圧からか、圧倒的な体躯を誇る井川の身体が珍しくガチガチに硬くなっていたのだ。
審判のホイッスルが響き、武蔵ボールでキックオフ。
FWの火野がボールを少し動かし、一ノ瀬へ。一ノ瀬から中央の翼にボールが渡る。三鷹台のMF陣が一斉に翼へプレッシャーをかけようと押し寄せた——その瞬間。
翼は敵陣に向かわず、くるりと反転すると、自陣の最後方に位置する井川めがけて、鋭く強めのパスを叩き込んだのだ!
「えっ……!?」
予期せぬバックパスに驚きながらも、井川は長い足を伸ばして必死にトラップに成功する。
「岳人、大丈夫だ!!」
翼が眩しい笑顔で振り返り、叫んだ。
「武蔵のサッカーは、君からのビルドアップで始まるんだ!」
——武蔵のサッカーは、お前から始まる。
その言葉が、緊張で凍りついていた井川の胸を強く打った。自分は信頼されている。このチームの要として、ここに立っているんだ——。腹の底からスッと力が抜け、井川の瞳に本来の野性が蘇った。
「ふっ……言ってくれるぜ、キャプテン!」
三鷹台のFWが奪い取ろうと襲いかかってくるが、落ち着きを取り戻した井川は、軽やかなステップで相手をあざ笑うかのようにかわしてみせた。そして、前線へ精確無比なロングフィードを放つ!
そのボールの落下点に一直線に走り込んだのは、左サイドを切り裂く14番——ナトゥレーザだった。
「もらったぞ!」
ナトゥレーザは吸い付くようなトラップから、華麗なステップでカットイン! 相手DFのタイミングを完璧に外すと、右足を一閃した。
ドカッ!!
豪快なシュートがゴールネットを揺らす! 電光石火の先制点!
「な、なんだあの14番は……!?」
呆然とする三鷹台。反撃を試みようと前線へボールを運ぼうとするが、待ち構えていたのは武蔵の緻密な『ゾーンプレス』だった。
本間と川村が完璧な間合いで挟み込み、いとも簡単にボールを奪い取る。ボールを受けた左足のスペシャリスト・川村大介が、前線へ精密機械のような正確なパスを供給。ボールを受けた翼から、サイドに開いた一ノ瀬へ。スペースが生まれた中央へ翼が鋭く走り込み、一ノ瀬からの折り返しをダイレクトで叩き込んで2点目!
さらに勢いに乗る武蔵。ナトゥレーザが中央へ侵入し、その外側を勢いよくオーバーラップしたのは1年の真田正己だった。翼から正己へ渡り、正己の鋭いクロスを、ゴール前で咆哮した火野竜馬がヘディングで力強く叩き落として3点目!
三鷹台は手も足も出ない。攻撃を仕掛けようとしては武蔵の組織的な守備に阻まれ、カウンターから幾度となくゴールを脅かされた。
圧倒的な大差がついた時点で、兵藤監督は指示通り翼や火野といった主力をベンチに下げ、体力の温存とラフプレーからの保護を図った。だが、代わって入った控え部員たちも高い集中力を維持し、試合を完全にコントロール。
ピッ、ピッ、ピーーーッ!!
試合終了のホイッスル。
結果は7—0。秋の屈辱を完璧なまでに晴らす、武蔵中学校の圧倒的な大勝だった。
「勝ったぞー!!」
歓喜に沸く部員たち。ベンチの前で、翼は晴れやかな顔で井川とハイタッチを交わした。
「ナイスディフェンスだったよ、岳人君!」
「フッ……翼、お前のバックパスのおかげだよ」
三鷹台に快勝し、最高のスタートを切った武蔵中学校サッカー部。
『日本一』という至高の頂へ向けた彼らの挑戦は、今、確かな第一歩を刻んだのだった。
見事に秋の都大会の借りを返した武蔵中イレブン、井川岳人もメンタル面の脆さを克服しました。武蔵中の次の相手はどこに?