キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
準決勝第二試合、激闘はいよいよ最終盤を迎えていた。
三杉淳の神業とも言える超絶な個人技により、武蔵FCが勝ち越しゴールを奪取。スコアは4対3。
だが、その代償はあまりにも大きかった。
(くっ……あぁっ……!!)
自陣ゴール前へ戻る三杉の視界が、一瞬、真っ白に明滅する。
胸の奥を万力で押し潰されるような激痛。心臓の限界は、すでに数分前に訪れていた。
しかし、三杉は顔色ひとつ変えず、自陣のゴールポストを背にして絶え間なくピッチへ声を出した。
「ラインを上げろ! パスコースを限定するんだ! このまま逃げ切るぞ!」
キャプテンとしての完璧なコーチング。だが――仲間へ指示を送りながらも、三杉の脳裏には拭いきれない不穏な予感が渦巻いていた。
(さすがだよ、翼くん。あの極限の逆境から這い上がり、ここまで僕たちを追い詰めるとはね……。だけど……このまま『守り』に入って本当にいいのだろうか? 大空翼という男は……土壇場の逆境でこそ、真の力を発揮する男なんじゃないのか……?)
降りしきる冷たい雨の中、三杉は右手を静かに自分の左胸に当てた。
ドクン、ドクンと、不規則に、そして狂おしく脈打つ鼓動。
「僕の心臓……頼む、最後まで……持ってくれよ……!」
残された時間は、あとわずか。残すところ数プレイという極限の土壇場。
追い詰められた南葛SCは、最後のリスクを冒して全人員を武蔵陣内へ叩き込んできた。
ボールをキープした大空翼へ、三杉を含めた武蔵のディフェンス陣が一気に詰める!
「来い、翼くん……!」
三杉が自身のブロックへ入ったその瞬間――雨のスタンドから裂けるような叫びが三杉の耳に届いた。
「キャプテンーーーーーッ!!」
マネージャー・青葉弥生の必死の叫び。
その一声に宿った「違和感」で、三杉の超人的なサッカーIQは一瞬にしてすべてのカラクリを理解した。
(――なっ、翼くん自身がシュートに来るんじゃない……パスだ!!)
翼は三杉たちを引きつけるだけ引きつけ、自分を囮にして逆サイドへ完璧なラストパスを放っていた。そこへ走り込んでいたのは、黄金コンビのパートナー・岬太郎!
「させないっ!!」
理解と同時に、三杉の身体が弾かれたように動いた。翼の放ったパスの軌道へ飛び込み、ジャンプ一閃――! 逆サイドで待ち構える岬の手前で、泥にまみれたボールを危機一髪でインターセプトしてみせる。
着地した三杉は、驚愕に目を見張る翼と視線を交わした。
(翼くん……ありがとう。心から楽しかったよ。だけど――この試合は、これで終わりだ!!)
ボールを収めた三杉は、守りに入るどころか、そのまま一気に前傾姿勢をとった。
自陣ゴール前から、相手ゴールへ向かって怒濤の超ロングドリブルを開始する!
「な、なんだと……!? 自分で上がってくるというのか、三杉淳!!」
逃げ切るどころか、自ら引導を渡すべく突き進む天才。
体力の限界を迎えているはずの南葛イレブンが次々と襲いかかるが、三杉の鋭いダブルタッチ、華麗なマルセイユルーレットの前に、誰ひとりとしてその影を踏むことすらできない。
「三杉くんっ、行かせない!!」
最後に立ち塞がったのは、凄まじい執念でバック走から追いついた大空翼だった!
ペナルティエリア手前、二人の天才が激しく交錯し、ボールを奪い合う。
雨飛沫が舞い散る中、身体と身体が激しくぶつかり合った――その時。
――ボコッ。
雨音を突き破り、翼の右肘に重く鈍い感触が残った。
翼の肘が、三杉の左胸――心臓の真上に強くめり込んだ音だった。
「ッ……ぐぁあぁぁっ……!!!」
三杉の顔が、見たこともない苦悶に歪む。あまりにも鮮烈な激痛。
「あっ……! み、三杉くん……!?」
自分が三杉の胸を突いてしまった感触に、翼の足が一瞬、完全に止まった。動揺と恐怖で凍りつく翼。
しかし――三杉はその「一瞬の隙」を見逃さなかった。
(今だ……っ!!)
心臓の激痛を、血を吐くような凄まじい意志の力で力づくでねじ伏せ、三杉は一気に加速! 棒立ちになった翼の脇を、疾風のごとく抜き去った!
「な……なにぃーっ!? 抜けたあぁぁぁーっ!!」
絶体絶命の南葛。飛び出してくるGK森崎の動きを、三杉は冷徹なまでに冷静に見極める。
森崎が重心を左に傾けた瞬間、右足のアウトサイドで優しくボールの軌道を変えた。
転がったボールは、無人のゴールネットを静かに揺らした。
『ピーーーーーーッ!! ピーーーーーーッ!!』
無情の試合終了を告げる、タイムアップのホイッスル。
【試合結果】武蔵FC 5 - 3 南葛SC
自陣ゴール前から相手ゴールまでをたった一人で完結させた、サッカー史に刻まれる狂気のロングドリブル。
【5対3】――伝説の『ゴール・トゥ・ゴール』。
「勝った……僕たちの……勝ちだ……」
歓喜に沸き返るスタジアムの中で。
土砂降りの雨が降り注ぐ南葛ゴール前、武蔵FCの背番号14は、ボールを見届けた姿のまま、静かに、ぴたりと動かなくなった。
その背中は、あまりにも高く、圧倒的で、そして儚かった。
胸を突いた肘の感触、濡れた髪から滴る雨水、そして目前に立ちすくむ三杉淳の後ろ姿。
大空翼は、その光景を――生涯、忘れることはなかった。
原作では、三杉を完璧に引きつけた翼のプレイ、もしそこでピッチ外からのコーチングがあれば三杉はどのような選択をしたのかから始まったif。原作とは違う流れで翼たちはどうなるのだろうか?次回をお楽しみに!