キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
都大会1回戦を完勝で終えた武蔵中学校。
その夜、ミーティングルームでは兵藤監督と浅田ユリが、東邦学園対高尾中学の試合映像を何度も巻き戻しながら分析を重ねていた。
「なるほどな……。個々の力は圧倒的だが、あまりにも利き足と一方向の動作に依存したプレーばかりだ」
兵藤が腕を組み、険しい表情で呟く。モニターを見つめる浅田も眉をひそめた。
「ええ。映像を見る限り、東邦も体幹トレーニング自体は導入しているわ。でも筋肉の左右バランスが著しく偏っている。特にひどいのが日向君、次に新田君ね。二人とも圧倒的な『個の力』があるからこそ、その歪みに本人も指導者も気づいていないのよ」
「片桐が言っていた『東邦一強』の弊害か……。日本国内だけならそれでも通用する。だが、世界を相手に戦うことを考えたら、筋肉や動作の左右バランスは致命的だ。……正直、ここまで弱点を露呈しているなら、決勝で当たればうちが勝つのはほぼ間違いない」
兵藤は一度言葉を切り、深く息を吐いた。
「問題は……なぜこんな状態になるまで放置されてきたかだ。特に日向の偏りはひどすぎる。そういえば川村も明和FC出身だったな。あいつも左足のキックは天下一品だが、加入当初は左右バランスが酷かった」
「ええ、今はだいぶ改善されてきたけれど……確か明和は吉良耕三氏が指導していたはずよ」
「吉良耕三か……。浅田ちゃん、すまないが、この映像から日向と新田の筋肉バランスを改善するためのトレーニングメニューを作成できるか?」
「一番いいのは直接実測することだけど、それは無理ね。もう少し情報が欲しいわ」
「東邦の準々決勝の映像も確保しておいてくれ。左右バランスや筋力のつき方に問題のある子どもたちが今後も出そうだからな。育成の段階で将来の芽を摘むような指導者を増やすわけにはいかないからな」
「わかったわ、やってみる」
一方、その頃——東邦学園のミーティングルーム。
日向と新田がトレーニングルームで筋トレに励む中、岬太郎、松山光、沢田タケシ、そして若島津健の4人は、自分たちの初戦と武蔵中学校の試合映像を振り返っていた。
画面に映し出されているのは、武蔵のFW火野竜馬のプレーだ。
松山が画面を指差しながら口を開く。
「火野のやつは、あの巨体でありながらポストプレーも絶品だな。日向はあまりポストプレーで味方を使う動きはしない……」
「それだけじゃないよ」
岬が真剣な眼差しで付け加える。
「火野君の凄いところは、左右どちらの足からでも同じ威力・精度のシュートが打てるところだ。確かに世界で活躍するストライカーは、足を選ばずに強烈なシュートを叩き込んでくる。……僕自身にも言えることだけど、普通は利き足と反対の足じゃシュート力に差が出るからね」
その言葉を聞き、松山は意を決したように若島津に向き直った。
「若島津……日向と火野、ストライカーとしての能力はどちらが上か、正直に答えてくれ」
問われた若島津は腕を組み、しばらく沈黙したのち、苦渋の決断のように言葉を絞り出した。
「……右足の破壊力だけなら、日向さんも絶対に負けない。だが、ポストプレーの巧さ、そして左足のシュート威力……悔しいが、総合的なストライカーとしての能力は火野の方が上だ」
「そうか……」
松山は頷き、静かに言った。
「北詰監督と山本コーチに話して、俺たちも筋力の左右バランス改善に取り組むトレーニングメニューを入れてもらえるよう相談してみる」
「小次郎には話すのかい?」
岬の問いに、松山は首を横に振る。
「現段階での完成度は火野が上だ。だが、今の段階で日向にそれを話しても、素直に自分の課題に気づくとは思えない……」
松山は画面の中の武蔵陣営を見つめ、力強く言葉を続けた。
「だからこそ、武蔵と当たるときは俺たち中盤がゲームの主導権を握るんだ。そして守備は……若島津、お前に任せるぞ」
「任せろ。武蔵相手だろうと、1点もやらん」
翌日の練習終了後。兵藤はグラウンドの片隅に川村大介を呼び出していた。
「川村、明和時代の吉良監督の指導について少し教えてくれないか」
川村は少し記憶を辿るように思い返した。
「吉良監督は、チーム全体への細かい指導は少なかったですね。『これ』と見込んだ選手に直接指導するスタイルでした。俺と同世代の沢田タケシや、若島津さんや日向さんなんかは特にそうです」
「お前にはどんな指導を?」
「俺には『右足はどうでもいいから、徹底的に左足を磨け』と言われました。狙った場所に寸分狂わず飛ぶようになるまで、ひたすら左足で壁打ちをさせられましたね」
(なるほど……一芸に特化させる指導か。着眼点は悪くないが、身体のバランスを壊すまでの極端な指導は、子供たちの競技寿命を縮めかねん……)
兵藤は心の中で思案し、再び問いかけた。
「吉良監督は、明和を辞めて今はどこにいるか知っているか?」
「確か、サッカー未開の地である沖縄でサッカー教室を開くとか言っていました。……でも、都大会の決勝とかには急に現れそうですけどね。明和時代も、俺たちの試合をそっちのけで日向さんの試合を観に行っていたことがありましたから」
「そうか、助かった。ありがとう」
川村が爽やかに頭を下げて部員たちの元へ戻っていくのを見送りながら、兵藤は一人呟いた。
「……決勝に、吉良が現れるか」
数日後、都大会準々決勝が各会場で行われた。
武蔵中学校、そして東邦学園ともに圧倒的な実力差を見せつけ、順当にベスト4へと名乗りを上げた。
そして、ついに『東京都大会・準決勝』の組み合わせが確定した。
* 第1試合:東邦学園中等部 VS 習実中学校
* 第2試合:武蔵中学校 VS 城星学園中学校
勝てば『関東大会進出』が確定する運命の一戦。
一週間後、聖地・西が丘サッカー場にて、全国への切符をかけた熱き激闘の幕が上がろうとしていた。
次第に明るみになる日向の抱える課題!そしてかつての指導者吉良耕三の影!この後、吉良耕三はどのような形で日向の前に姿を現すのか?そして兵藤は何を思う?
※原作では都大会や県大会を勝ち抜けば全国に出場していましたが、ここでは、都大会→関東大会→関東大会の上位校が全国に出場するしくみとなっています。