キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
準決勝の劇的な逆転劇から一夜明けた武蔵中学校。
午前中は明日の都大会決勝戦に備えてストレッチやアジリティを中心とした軽めの調整を行い、午後からはミーティングルームにて決戦の相手・東邦学園の対策ミーティングが実施された。
スクリーンには、マネージャーの弥生や顧問の中田が撮影してきた東邦学園の準決勝・習実戦の映像が映し出されている。
「……さすがは絶対王者・東邦だな。まったく隙のない盤石の戦いぶりだ」
副主将の本間が映像を見つめながら唸ると、一ノ瀬も真面目な顔で頷いた。
「ああ。日向、反町のツートップに、スピードのある新田。そこに司令塔の岬とルーキーの沢田が絡み、後方からは松山が目を光らせている。そして最終ラインには守護神・若島津……完璧な陣形だよ」
その言葉を聞き、腕を組んでいたFW火野竜馬が鼻で笑った。
「おいおい、お前ら本気で言ってるのか? ちゃんと見ろよ! どでかい『穴』があいてんじゃねえか。あいつらの派手なプレーに惑わされるな」
「え……?」
部員たちがざわつき、再びスクリーンの映像を注視する。真っ先に目を見開いたのはキャプテンの大空翼だった。
「そうか……! まさか、こんなことがあったなんて!」
「さすが翼、気づいたか」
火野がニヤリと笑うと、スイーパーの井川岳人も手を打った。
「竜馬、俺もわかったぜ。こりゃあ明日の守備は城星よりラクだな!」
「おいおい、お前らだけで何おしゃれな会話してんだよ! 穴なんてどこにあるんだよ!?」
真田信次が頭を抱えると、相棒の井川が呆れたように笑う。
「ったく、お前が気づいてくれなきゃ困るんだよ。ヒントを出してやるよ。日向の得点パターンをよく見ろ!」
本間が画面に顔を近づけ、ハッと息をのんだ。
「そうか……! 日向は自ら力任せに点を取るだけで、ポストプレーで竜馬のように味方を活かす動きをしていない! それに……ヘディング以外、得点はすべて『右足』からだ! 左足で軽く流し込めばいい場面でも、わざわざ右足に持ち替えている!」
「それは新田にも同じことが言えるぞ!」一ノ瀬が叫ぶ。「新田も左足でのシュートがほとんどない!」
「あーっ! そういうことか!」真田が拳を叩く。「ということは、わざとあいつらに『左足』しか使えない体制に追い込めばいいってことか!」
隣で真田正己が溜息をついた。「兄貴は気づくのが遅いんだよ」
「やかましい!」
盛り上がる部員たちに、浅田ユリが静かに付け加えた。
「それだけじゃないわ。東邦の選手は全体的に筋肉の左右バランスが崩れている。一番ひどいのが日向君で、次が新田君ね」
「でも浅田先生、東邦もそれくらいは自分たちで気づいているんじゃないですか?」翼が尋ねると、浅田は首を横に振った。
「ええ、気づいて修正に取り組み始めているかもしれない。でもね、筋肉のバランス改善は一朝一夕にはいかないわ。目に見える効果が出るまでに、最低でも1ヶ月はかかるわね」
「ということは……明日の試合で彼らの弱点が消えることは絶対にない、ということか」本間が確信する。
兵藤監督が前に進み出た。
「そうだ。明日は日向に対し、右側からの力勝負は徹底的に避け、左側から仕掛けろ。左からのコンタクトなら、竜馬や岳人なら日向を物理的に吹き飛ばすことも可能だ。その上で真田、本間、一ノ瀬……お前たちが日向から泥臭くボールを奪い取ることができれば、あいつは我を失うかもしれん」
「監督……なぜそう言えるんですか?」本間が尋ねる。
「小学校はともかく、中学校になってからの東邦は今まで無敗の『無敵』だ。だからこそ、知らず知らずのうちに人は傲慢になるものなのだよ」
一ノ瀬が不敵に口元を緩めた。
「なるほど……翼や竜馬に奪われるならまだしも、日向から見たら『格下』の俺たちに無様にボールを奪われたとなれば、あいつにとっては耐えがたい屈辱でしょうね」
「へっ! そうと決まれば日向退治は俺に任せろ!」真田が身乗り出す。
だが、本間がふと懸念を口にした。
「しかし監督、もし日向が頭に血が上ってラフプレーに走り、カードをもらってピッチから消えたら、試合はどうなりますか?」
「日向と新田の左側を塞げば東邦の得点力は半減する。中盤の岬、沢田、松山は優秀だが、翼やナトゥレーザのようにゲームを組み立てつつ自分でゴールまで奪いきれるのは松山だけだ。……だから、日向が冷静さを失って退場するよりもカードをもらうのを避けて消極的なプレーをしてくれる方がうちにとっては戦いやすい」
兵藤は言葉を強めた。
「もし日向がいなくなれば、松山は完全に腹を括り、アンカーの位置に入って鉄壁の守備に専念するだろう。そして新田のスピードを活かしたカウンター一本に絞ってくる。完全に守備に割り切った東邦を崩すのは極めて困難だ。」
「どちらにせよ、東邦の最大の綻びが日向であることは間違いないですね」井川がニヤリと笑う。
兵藤は部員たちを見渡した。
「そうだ。明日は三杉淳が築いた『武蔵スタイル』に、翼、竜馬、ナトゥレーザの南米仕込みの個人技……そして相手の裏をかく『マリーシア』を加えるぞ」
「ケッ、マリーシアなら俺の十八番だ。任せておけ!」火野が不敵に笑う。
翼が勢いよく立ち上がった!
「よし! 明日は俺たちが王者東邦を倒し、『東京チャンピオン』として関東大会に乗り込むぞ!」
「「「オーッ!!!!」」」
ミーティング終了後。兵藤は西が丘のスタジアム近くの喫茶店で、日本サッカー協会の片桐宗正と向かい合っていた。
「……そうか。日向にそこまでの致命的な欠陥が……」
片桐が重々しく頷く。兵藤はコーヒーに口をつけながら静かに語った。
「ああ。だからこそ、試合後にあの吉良耕三が日向の前に現れ、無茶な挑発をしてチームから離脱させる可能性がある。そして大方、さらなる右足の肉体酷使や強引なシュート特訓を課すのだろう。だが、今のあいつにこれ以上左右の筋力バランスを悪化させるわけにはいかん」
片桐は深く息を吐き、厳しい表情を浮かべた。
「……わかった。試合後の吉良の動向はこちらでも固く監視しよう。公式大会の期間中に、ライセンスを持たない部外者が個人コーチを気取って15歳の少年に無断離脱を促すなど、指導者倫理の観点からも日本サッカー協会として絶対に看過できないからな」
「よろしく頼むよ、片桐」
「……しかし兵藤、お前の話はすべて『武蔵が勝利する』ことを前提に進んでいるな」
兵藤はニッコリと笑った。
「当たり前だろ。監督の俺があいつらを信じなくてどうするんだ」
「ふっ……そうだな。翼たち武蔵に勝ってもらわなきゃ困るよ」
それぞれの信念と戦略を胸に——ついに明日、運命の『東京都大会決勝戦』の火蓋が落とされようとしていた。
明日の決勝を前に左右の筋肉バランスのいびつさという盛大な弱点を晒してしまった日向。明日の試合は、武蔵はそこをつくことができるのか!?そしてかつての日向の師である吉良耕三も観戦するであろう決勝戦を前に大人(兵藤、片桐)たちの対応も風雲急を告げる展開に!どうなる決勝戦!!
※本日の投稿は終わりです。明日は3話投稿予定です。お付き合いいただけると幸いです。