キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
7月最終週の週末。強い日差しが照りつける西が丘サッカー競技場は、朝から超満員の熱気に包まれていた。
この日は、関東大会への出場権を懸けた東京都大会の3位決定戦と、頂点を決める決勝戦の2試合が行われる。
今年の関東大会は東京開催のため、開催地枠を含めた上位3校が出場権を得ることができる。すでに決勝進出を決めた武蔵中学と東邦学園が2つの枠を手中にしており、残り『1』の切符を巡って、3位決定戦で城星学園と習実中学が激突した。
準決勝で武蔵をあと一歩まで追い詰めた城星学園は、この日も伝統の華麗なパスワークを遺憾なく発揮。司令塔の古川とエース風見がそれぞれ鮮やかなゴールを奪うと、習実の反撃を1点に抑え込み、2—1で勝利。見事に最後の1枠である関東大会進出を決めてみせた。
そして——いよいよ運命の決勝戦の時間が近づく。
「東京王者」を決める一戦とあって、保護者や学校関係者だけでなく、噂を聞きつけた多くのサッカーファンやメディアが詰めかけ、スタジアムの熱気は最高潮に達していた。
「なあ、どっちが勝つと思う?」
観客席のあちこちで議論が交わされている。
「そりゃ、やっぱり東邦だろ! 全国2連覇は伊達じゃないぜ」
「東邦四天王が3年になった今年が、歴代最強チームって呼び声も高いからな」
「いや待てよ、武蔵も相当だぞ。三杉淳の悲劇があってここ数年は低迷していたが、大空翼が加入してあっという間にこの決勝まで駆け上がってきた」
「大空翼って、あの小学生の時に全国大会で騒がれたやつだろ? でもあいつ、確か静岡の南葛にいたんじゃないのか? なんで武蔵にいるんだ?」
「さあな、親の転勤とかじゃないのか? 何にせよ今年の武蔵は一味違うぜ」
「確かに。だが武蔵は翼だけじゃないぞ。ブラジルからの留学生のナトゥレーザってやつも規格外だ。一昨日の準決勝見たか? まさに『三杉淳の再来』かと思ったぜ。それにストライカーの火野竜馬、あいつのパワーもヤバい。個人のタレントだけなら東邦四天王に引けを取らん」
そんなギャラリーの喧騒の中に、腕を組んで佇む一人の男の姿があった。東邦の元監督・吉良耕三である。日向小次郎の成長と動きを確かめるべく、静かに見守っていた。
そして、関係者席からは日本サッカー協会の片桐宗正が、吉良の怪しい動きを鋭い視線で見逃さずに捉えていた。
一方、武蔵中学の保護者応援席の一角では、翼の母・奈津子、そしてロベルト・本郷とカリオが並んでピッチを見つめていた。
「奈津子さん……やっぱり翼はすごいやつですよ。チームに加わって短期間でここまでの集団を作り上げ、都大会の決勝までやってきた。並の選手じゃ絶対にできないことです」
ロベルトが感慨深そうに呟くと、奈津子はおだやかに微笑んだ。
「そうね……でも、翼ひとりだけの力じゃないわ。ナトゥレーザ君が、いつも翼の隣に寄り添ってくれたからよ。ありがとう、カリオさん」
感謝を伝える奈津子に、カリオは温かく首を振った。
「お母さん、こちらこそありがとうございます。翼と出会わなければ、ナトゥレーザは今だにアマゾンの奥地から出ることなく、外の世界を知ることはなかったでしょう。ナトゥレーザが世界を知るきっかけになったのは、翼という『太陽』のおかげですよ」
その時——
「「「うおおおおおおっ!!!!」」」
スタジアムを割れんばかりの大声援が包み込んだ。
大きな拍手と歓声の中、ついに両チームの選手たちがウォーミングアップのためにピッチへ姿を現したのだ。
「来たぞ! 王者・東邦学園だ!」
「大空翼が武蔵を率いて、ついに表舞台へ帰ってきたぞ!」
決戦の興奮が渦巻く中、念入りなアップが終わり、両チームは運命のキックオフ直前、最後のロッカールームミーティングを迎えていた。
【東邦学園ロッカールーム】
監督の北詰誠が、鋭い眼光で選手たちを見渡す。
「……敵は強力だ。だが、勝つのは我々東邦だ!」
「「はいっ!!」」
日向、松山、岬、若島津をはじめとする東邦ナインの返事が、室内に重々しく響き渡った。
【武蔵中学ロッカールーム】
兵藤剛監督は、穏やかだが揺るぎない自信をたたえた目で全員を見つめた。
「お前たちなら、東邦に勝てる。……思いきり楽しんでこい!」
「「はいっ!!」」
翼を中心に、弾けるような笑顔と熱気で武蔵イレブンが応えた。
両チームがピッチ中央へ入場し、試合前の整列を行う。
並んだ両雄の間で、視線が激しく交錯した。日向小次郎が、隣の列に立つ火野竜馬を睨みつける。
「火野……お前に『ナンバーワン・ストライカー』が誰か、今日たっぷりと教えてやる」
火野はフッと不敵な笑みを浮かべ、肩をすくめた。
「フッ……弱い犬ほどよく吠えるぜ。勝負の結末なんて、目に見えてるのにな」
「なにぃ!?」
日向の青筋が浮かび上がった瞬間、隣の岬太郎がそっと肩を叩いた。
「よせ、小次郎。試合の中でわからせたらいい」
「……チッ」
日向は吐き捨てるように視線を外した。
そして、主審の元で両チームの主将によるコイントスが行われる。
東邦のキャプテンマークを巻いた松山光が、翼をまっすぐに見つめた。
「翼……やはりここまで来たな。だが、今日勝つのは俺たち東邦だ」
翼は少しの迷いもなく、澄み切った瞳で答えた。
「違うよ、松山君。今日で東邦の無敗記録は終わる。俺たち武蔵が、それを証明する!」
コインが青空へ高く舞い上がり、落ちる。
東京都大会決勝戦——【武蔵中学 VS 東邦学園】。
宿命の決戦の火蓋が、ついに落とされようとしていた!
三杉の意志を受け継ぎ、“絶対王者”東邦学園の前に立った翼、今、東京ナンバー1をかけて熱い戦いが始まろうとしています。
※次回は12時頃更新予定です。お付き合いいただけるとうれしいです。