キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
※タイトル新しくつけ足しました。
全国小学生サッカー大会、準決勝・第2試合。
南葛SCと武蔵FCの戦いは、サッカーの歴史に残る劇的な、そしてあまりにも残酷な幕切れを迎えていた。
三杉淳は、南葛の同点ゴールを死守しただけでは終わらなかった。自陣深くでボールを奪うと、限界を超えた心臓を叩き起こすように、南葛イレブンを次々と抜き去っていく。最後はゴールキーパーをもかわし、無人のゴールへと流し込む「ゴール・トゥ・ゴール」。
その瞬間に響き渡った、試合終了のホイッスル。
激闘の間、グラウンドを激しく叩きつけていた雨は、いつの間にか上がっていた。
雲の隙間から差し込む夕日と、薄っすらと空に架かった虹。その美しすぎる情景を背にしながら、三杉淳は糸が切れた人形のように、静かにうつ伏せに倒れ込んだ。
「三杉君!」
一番近くにいた大空翼が、弾かれたように三杉のもとへ駆け寄る。
抱き起こされた三杉の顔からは完全に血色が失われていた。薄く開いた唇から、途切れ途切れの息が漏れる。
「つ、翼君……さ、最高に……楽……しかった……よ」
「三杉君! しっかりしてくれ、三杉君!」
「ぼ、僕は……む……武蔵の……みんな……と……さ、……サッカーが……」
(僕は、武蔵のみんなともっとサッカーがしたかった)
最後まで言葉を紡ぎ切る前に、三杉の瞳から光が消え、そのまま翼の腕の中で意識を失った。
「三杉君! 三杉君ーーッ!」
叫び続ける翼の声を皮切りに、異変を察した南葛、武蔵のイレブンが心配そうに三杉の周りを囲もうとする。だが、それを押し分けるように大人たちの怒号が飛び交った。
「どいて! どいてくれ!」
「いかん、心音が小さいぞ! 意識がない!」
「救急車だ! 早く救急車を呼べ!!」
大人たちの血相を変えた叫び声と、けたたましく近づいてくるサイレンの音。
さっきまで死闘を繰り広げていたはずのグラウンドは、一瞬にして悪夢のようなパニックへと変貌した。激闘の余韻に浸る隙すら与えられないまま、あまりにも異質な空気の中で試合は強制終了したのだった。
明日行われる決勝戦のカードは「ふらのFC vs 武蔵FC」。
人混みの向こうで、勝利したはずの武蔵の選手たちが泣き叫び、担架で運ばれていく三杉の後を追っていく。
その光景を、ふらのの主将・松山光は、固く拳を握りしめながら静かに見つめていた。
「三杉……」
なお、準決勝・第1試合でふらに敗れた明和FCの主将・日向小次郎は、試合直後に過労で倒れ、すでに宿舎で静養に入っていたため、このグラウンドの悲劇を知る由もなかった。
試合が終わっても、大空翼はその場から動くことができずにいた。
芝生の上にへたり込み、自分の右肘をじっと見つめている。
異変に気づいた岬太郎が、心配そうに歩み寄る。
「翼君……」
「……せいだ」
かすかな声だった。翼の瞳は完全に焦点を失い、唇がガクガクと震えている。
「……俺の、せいだ……俺が……肘で……三杉君を……」
「しっかりしろ、翼!」
その異変をいち早く察知したロベルト本郷が割って入り、翼の腕を強引に掴んでピッチの外へと引きずり出した。そして、誰もいないバックヤードの陰に入った瞬間――
パァン!!
静かな廊下に、乾いた打撃音が響く。
ロベルトの手が、翼の頬を強く張っていた。
衝撃で弾かれた翼が、ハッと正気を取り戻したように目を丸くする。眼前には、見たこともない厳しい、しかしどこか切ない表情をしたロベルトが立っていた。
「ロベルト……俺、負けたの……?」
呆然と呟く翼に対し、ロベルトは叱る風もなく、優しく諭すような口調で言った。
「ああ。……けど、お前はよくやった。一度は心がおれかけたのに、よく立ち直って最後まで戦った。……さあ、宿舎に戻ろう」
ロベルトは翼の細い肩を抱き寄せ、静かに歩き出した。
翼の心の中に渦巻く「あの感触」の正体に、まだ誰も気づいてはいなかった。
宿舎に戻った南葛SCの一行。
夕食を終え、風呂上がりでさっぱりした石崎、浦辺、岸田の3人は、談笑しながら自分たちの部屋へと戻ろうとしていた。
その時、廊下の奥にある公衆電話の前に、監督の城山がいるのが見えた。
「ん? 監督だ。誰かと電話してるぞ」
「おい石崎、やめろよ盗み聞きなんて」
浦辺の制止も聞かず、石崎は壁の陰にコソコソと隠れ、耳をすませた。
「……ええ、はい、わかりました。……ご愁傷さまです」
重苦しい城山の声。そこへ、たまたま通りかかったコーチが声をかける。
「どうしました? 監督」
「あ、ああ、コーチ。……話がある。場所を代えよう」
ただならぬ雰囲気を漂わせ、沈んだ顔でコーチと共に別室へ移動していく城山。
その背中を見送りながら、石崎はニヤリと鼻を鳴らした。
「おい浦辺、見たか今の? あれは絶対、監督が彼女にフラれた顔だぜ! コーチに慰めてもらいに行くんだろ。俺たちも後を追うぞ!」
「あきれた……お前のその妄想癖、どうにかならんのかよ」
浦辺と岸田があきれ顔で溜息をつく。
石崎が「いいから来いって!」と後をつけようとした、その瞬間だった。
廊下の奥の部屋から、コーチの叫び声が響き渡った。
「何ですって!? 三杉君が亡くなった!?」
ピキリ、と石崎の動きが止まる。
「……え、今……何て言った……?」
ドアの隙間から、城山の押し殺したような声が漏れてくる。
「ああ……今しがた、病院で息を引き取ったそうだ」
「そんな……! 監督、このことを子どもたちには……!?」
「正直……伝えていいものか迷っている。特に翼には……」
壁の裏で、石崎たちの顔から一瞬で血の気が引いた。
石崎は目を見開き、ガタガタと震える手で浦辺の服をつかんだ。
「お、おい……聞いたか……? 三杉が……三杉が死んだって……」
「あ、ああ……マジかよ……」
「こうしちゃいられねえ! みんなに伝えないと!」
「まっ、待て石崎! 監督が迷ってるんだぞ!」
浦辺の手を振り払い、石崎は廊下を猛スピードで駆け出した。
こういう時の石崎の行動力と脚力は、まさにレギュラー級だった。あっという間に浦辺たちを引き離し、南葛イレブンが集まる大部屋へと飛び込んでいく。
「大変だみんな!! 三杉が……三杉が死んだぞーーッ!!」
不吉な大声が、静かな宿舎に響き渡った。
フィールドの貴公子、三杉淳、死す。
このあまりにも残酷で早すぎる死の報せは、すでに精神の限界を迎えていた大空翼に、一体何をもたらすのか――。
原作では4点目を奪った時点で体力の限界を悟り、試合をクローズすることに専念した三杉だったが、もし最後まで攻撃の手をゆるめなかったら…という世界線で描きました。そして石崎なら“ありえそう”な行動を元に考えてみました。次回の南葛イレブンの反応は?そして翼は!