キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
試合序盤から一歩も引かないハイレベルな攻防が続く西が丘サッカー競技場。
オフサイドで東邦の先制点を阻んだ武蔵は、1年GK相川大和の力強いゴールキックでリスタートを切った。
大きく舞い上がったボールに反応したのは武蔵のエースストライカー・火野竜馬だ。東邦のDF陣を圧倒的な肉体で抑え込み、空中戦を難なく制して頭で落とす。そのセカンドボールを副主将の本間実が素早く拾い、中央の大空翼へ展開した。
翼の前には、即座に東邦の俊足・新田瞬が立ち塞がる。
「抜かせないぜ、大空翼!」
しかし翼は冷静だった。新田の軸足が左側に向くよう、わずかなステップと視線のフェイントで誘導する。
(……あっ!?)
前日のミーティング通り、左側の筋力バランスが弱い新田は、急激な横への踏み込みに耐えきれず、一瞬で姿勢とバランスを崩した。その横を、翼が滑らかに抜き去っていく!
その様子を見ていた東邦の主将・松山光が目を見開いた。
(まさか……新田の筋力の左右バランスの悪さを完璧につついてきたというのか!?)
「させんっ!」
松山が必死のカバーに入ろうと猛ダッシュするが、すかさず本間が翼のサポートに走り込む。翼と本間の鮮やかなワンツーパスで松山を置き去りにすると、本間は右サイドの深みから中央へ鋭いクロスを供給した。
ゴール前へ飛び込むのは、武蔵のツートップ・火野竜馬と一ノ瀬明!
「火野を絶対に抑えろ! マークだ!」
東邦DF川辺が叫び、複数人で火野に覆いかぶさる。だが火野はそれをあざ笑うかのように打点の高いジャンプで空中戦を制すると、ヘディングで後ろへそらした。その落としに走り込んだのはフリーの一ノ瀬!
「もらったぁぁぁ!!」
一ノ瀬のダイレクトシュートが一直線に東邦ゴールを強襲する。完璧に枠を捉えた必殺の軌道——!
「でゃぁぁぁっ!!」
鋭い気迫の掛け声とともに、守護神・若島津健が横っ飛び一閃! 驚異的な反応速度で一ノ瀬のシュートを空中できっちりとキャッチしてみせた。
「うおおっ! 若島津!!」
東邦DF陣から歓声が上がる。ボールを抱え直した若島津は、前線へ鋭い視線を向けた。
「来い、若島津!」
日向小次郎の叫びに応え、若島津からの精確なパントキックが一直線に日向へ届く。ボールを収めた日向は、重戦車のような爆発的な推進力で一気に武蔵陣内へドリブルで切り込んだ。
「信次、来るぞ!」
センターバックの井川岳人が声を張る。
「おうよ!」
センターバックの真田信次が日向と対峙した。真田は日向の得意な右側での力勝負を一切拒否し、体を斜めに開いてコースを限定。日向を強引に「左側」へと誘導する。
(くそっ……右へ抜けねえ!)
右足で強く踏み込めない左側に追いやられた日向は、ボールコントロールが一瞬乱れた。
「ナイスだ、信次!」
その一瞬の隙を見逃さず、カバーに入った井川が日向の左側からあっけなくボールを足元から掻き取った。
「な……なにぃ!?」
あの絶対的エースの日向小次郎が、力勝負すらさせてもらえず簡単にボールを奪われた。その光景に、東邦イレブンとベンチに激しい動揺が走る。
「か……監督! 向こうは完全にうちの『弱点』を正確につついてきています!」
山本コーチが悲鳴のような声をあげるが、北詰誠監督は腕を組んだまま、微動だにせずピッチを見つめていた。
(……左右の筋肉バランスの歪みだと? 中学生レベルの大会で、そこまでのコンディショニングの穴を見抜き、実戦で攻略してくるチームが存在するなど……)
一方、武蔵中学のベンチでは兵藤剛監督が不敵な笑みを浮かべていた。
「あれだけハッキリと弱点を晒しているんだ、突かないわけがないだろう。……行けっ!」
井川から右サイドバックの広瀬拓海、ボランチの川村大介を経由し、ボールはMFナトゥレーザへ。
「見ろ! 14番のナトゥレーザだ!」
「やっぱりあいつ、すげえ……! まさに『三杉淳』の生き写しだ!」
スタンドがどっと湧き上がる。ナトゥレーザはブラジル仕込みの変幻自在なフェイントで東邦の中盤を切り裂いていく。
日向のプレーの動揺が残る東邦陣営は後手に回り、焦った沢田タケシが懸命にチェックに入るも、一歩アプローチが遅れてナトゥレーザの足を引っかけてしまった。
ピッと主審の笛が鳴る。東邦のファウル。
フリーキックの位置は、ペナルティエリアのすぐ外側。ゴール左寄り(東邦ゴールから見て)の絶好のポジションだ。
ボールの横には、翼、ナトゥレーザ、そして1年の川村大介の3人が立つ。
「壁をしっかり作れ!」松山が怒鳴る。「最後は翼かナトゥレーザで来るぞ! 集中しろ!」
壁を作る若島津と東邦ナイン。その前で、ナトゥレーザが翼に囁いた。
「翼、ここは俺に蹴らせてくれよ」
「いや……ここは『大介』、お前が蹴るんだ」
「えっ……!?」
驚く川村に、翼はあたたかい笑顔を向けた。
「この位置は、大介の得意なエリアだろ? 放課後の居残り練習で、お前がずっとFKの練習をしていたのを俺たちは知ってるよ。その成果を、ここで見せる時だ!」
「キャプテン……! わかりました、任せてください!」
主審の笛が響く。
ボールへ向かって、まずナトゥレーザが猛助走。東邦の壁が反応しかけるが、ナトゥレーザはボールを跨いでスルー!
「やはり最後は翼だ! 飛べっ!」
松山の叫びとともに東邦の壁が一斉に跳び上がった。しかし翼も蹴ると見せかけた精巧なフェイク!
最後に左足を振り抜いたのは——背番号11、川村大介だった!
パシィンっ!!
川村の足から放たれたボールは、跳び上がった東邦の壁のわずか数センチ上を美しいアーチを描いて通過。そこから急激に落ち込み、左サイドネットギリギリ(東邦側ゴールから見て)の死角へと吸い込まれていく!
守護神・若島津が驚異的なジャンプで必死に手を伸ばすも……あと数センチ届かない!
グサッ……!!
ネットが激しく揺れた。
前半10分——武蔵中学、川村大介の鮮やかなフリーキックで先制!!【武蔵 1 — 0 東邦】
「「「やったああああああああっ!!!!」」」
大歓声が西が丘を包み込む。狂喜乱舞する武蔵イレブンが、駆け出してきた川村を揉みくしゃにした。
武蔵ベンチでは、トレーナーの浅田ユリが感極まった表情で見つめていた。
「あの子の筋力バランスが改善されたことで、軸足となる右足にも左足に負けないしっかりとした筋力がついた……だからこそ完成した、最高のフリーキックだわ」
兵藤監督は満足そうに頷いた。
「筋力バランスの歪みを徹底的に突かれた東邦と、それを完璧に改善してきたうちの差、だな」
兵藤はフッと表情を引き締めた。
「さて……王者はここからどう出る?」
ついに動いた決勝戦。武蔵の計算し尽くされた戦略が、王者・東邦学園を大きく揺るがし始めていた!
川村の先制ゴールですが、飛んだコースと壁でブラインドが絶妙にかかっていれば名手若島津でもとれない設定です。逆に若島津がそれでも止めることができるのであれば、若島津こそ即A代表の守護神に抜擢されるはずです!
先制されたことでどう試合は動く!
※更新が遅れて申し訳ありません。
※連休期間中は2話更新の予定です。