キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
東京都大会決勝、激闘の火蓋を切った一戦は、前半10分に武蔵中学が1年生ボランチ・川村大介の完璧なフリーキックで先制するという波乱の展開を迎えていた。
歓喜に沸き立つ武蔵イレブン。しかし、その輪の中で背番号10・大空翼が即座に声を張り上げた。
「みんな、喜ぶのはここまでだ! 相手はあの絶対王者・東邦学園なんだ。もう一度気を引き締め直すぞ!」
「「おうっ!!」」
キャプテンの一言で、武蔵ナインの顔つきが再び鋭い戦闘モードへと切り替わる。
一方、不意を突かれた形で先制を許した王者・東邦学園。
守護神の若島津健は、ゴールネットからボールを拾い上げながらあからさまに悔しさを露わにしていた。
「くそっ……! よりによって、あまり覚えてもいない後輩に決められるとは……」
若島津が小学6年の頃、下級生で頭角を現していたのは明和の沢田タケシくらいで、2歳下の川村とは面識がほとんどなかったのだ。
すかさず司令塔の岬太郎が駆け寄り、若島津の肩を叩く。
「あれは仕方ないよ、健。あの落差でゴールポストギリギリに飛ばされたら、誰も止められないさ」
主将の松山光も鋭い眼差しでナインを集めた。
「そうだ、あの1点はもう忘れろ! まだ時間はたっぷりある。それよりタケシ、新田! お前たちポジションを入れ替えろ。……敵はお前たちの『弱点』に完全に気づいている」
「えっ……!?」驚く新田に、松山は淡々と告げた。
「お前の筋力バランスの悪さを正確につついてきているんだ。新田、右サイドへ回れ。日向、反町、お前たちもだ! 後のフォローは俺たち中盤が必ずやる」
新田は悔しそうに歯噛みした。
「……はい……くそっ、大空翼め……!」
だが、エースの日向小次郎だけは違った。荒い息を吐きながら、松山を睨みつける。
「筋力バランスがどうした! そんなものは関係ねえ! 1チャンスあれば、俺が力ずくでゴールをこじ開けてやる!」
「日向さん……」不安そうに見上げる沢田。
松山は日向の目を静かに見つめ返した。
「日向、お前がゴールを決めればそれで構わない。……だがな、チームが勝つために今何が必要か、よく考えるんだ」
東邦イレブンはそれぞれのポジションへと散り、試合が再開された。
東邦は中盤でボールを回し、右サイドへとポジションを変えた新田へパスが渡る。しかし、武蔵の対応は早かった。新田の弱点である「左側」から執拗にプレッシャーをかけ、ジリジリとタッチライン際へと追い詰めていく。
(くそっ、右に回っても左側から来やがる……!)
強引に縦へ突破を図ろうとした新田だったが、体勢を崩して痛恨のコントロールミス。ボールはそのままタッチラインを割ってしまった。
流れは完全に武蔵ペース。武蔵のスローインから、翼とナトゥレーザを中心に華麗なパスワークで東邦陣内へなだれ込む。
その時——ボールを持った武蔵の副主将・本間実に対し、猛烈な怒りを宿した日向が一直線に襲いかかった!
「お前ら……いつまでも調子に乗ってんじゃねえぞっ!!」
凄まじい鬼気あふれるスライディングタックル!
激しい激突音とともに本間がピッチに倒れ込む。ボールを奪い取った日向は、そのまま一気に推進力を上げてドリブルへ移ろうとした——その瞬間。
(……あっ)
足元に倒れ伏す本間の体に気づいた日向は、無意識のうちに本間を踏みつけまいとステップを緩め、わずかにその体をかばうように跨いで避けた。
スタジアムの観覧席からそのプレーを見つめていた吉良耕三が、不満そうに鼻を鳴らす。
(……フン、甘いな小次郎。今の貴様は倒れた相手の体を気にして足を緩めた。……昔の貴様なら、相手が誰であれ構わず顔面を蹴りあげてでもボールごと突き進んでいたはずだぞ)
そのわずかな気遣いによる踏み込みの遅れが、日向の爆発的な初速を殺していた。
日向は前線の反町一樹とのワンツーで武蔵DF真田正己をかわし、武蔵の最終ライン・井川岳人と1対1で対峙する。
井川は不敵な笑みを浮かべ、あえて体を斜めに構えた。
「どうした日向、もう一度『左側』から来いよ!」
「上等だぁぁぁっ!!」
頭に血が上った日向はボールを左側へと持ち替え、愚直にも井川の真正面から力勝負を挑んだ。
「いけない、小次郎! 一度戻すんだ!」
後方から岬が叫ぶが、すでに遅い。日向は井川のパワフルなブロックへと激突した!
ドカァッ……!!
鈍い衝撃音が響く。自身の弱点である左足での踏み込みの甘さに加え、本間をかばった際のわずかなタメの乱れが響き、日向は井川の圧倒的な体幹とパワーに真っ向から押し切られ、豪快に芝生の上へと吹き飛ばされた。
「日向さんっ!?」沢田が悲鳴を上げる。
「そら、後はお前に任せたぞ、竜馬!」
日向を完全に打ち砕いた井川は、ボールを収めるやいなや、前線へ高々とロングフィードを打ち上げた!
伸びやかな放物線を描いたパスは、東邦陣内の深い位置へ。後方からの難しいボールに対し、武蔵のエースストライカー・火野竜馬は吸い付くようなトラップで難なく足元に収めてみせた。
「させるか!」
東邦DF川辺が塞ぎにかかるが、火野は鋭い身軽なフェイント一閃で川辺を完璧に抜き去る。
目の前には、守護神・若島津!
若島津は失点を阻止せんと、必死の覚悟で前へ飛び出した。しかし、火野は驚くほど冷静だった。間合いを極限まで引きつけ、若島津が身体を倒す重心の動きを完全に見切ると、チョンとボールを浮かせて滑らかにかわしてみせる!
無人のゴール前。火野はそのまま左足を一閃した。
ドグォッ!!
一直線に放たれたシュートが、東邦のゴールネットを豪快に揺らした!
前半17分——武蔵中学、火野竜馬の圧倒的な個人技で追加点!!【武蔵 2 — 0 東邦】
「「「うおおおおおおおおっ!!!!」」」
スタジアム全体が大歓声で揺れ動く。武蔵ベンチも全員が飛び出して爆発的な喜びを爆発させた。
静まり返る東邦陣営。
得点を決めた火野はゆっくりと自陣へ戻る途中、膝に手をついて肩で息をする日向のすぐ横を通りかかった。
火野は底冷えするような不敵な笑みを浮かべ、日向の耳元に吐き捨てるように言い放つ。
「……だから言っただろ。勝負なんて最初から決まってるってな。『ナンバーワン・ストライカー』だか何だか知らねえが……日本の中だけで満足してろよ。世界を知らねえ『井の中の蛙』が」
屈辱と敗北感に打ちひしがれ、全身を震わせる日向。その拳は芝生を強く握りしめ、血が滲むほどだった。
「ひ……火野……竜馬ぁぁぁぁっ……!!」
日向の怒りの叫びが虚しく西が丘の空に響き渡る。
まさかの2点ビハインドを背負った絶対王者・東邦学園。
重苦しい暗雲が立ち込め始める中、王者の意地を見せ、反撃の狼煙を上げることができるのか——!?
正確に東邦というより日向の左右の筋力バランスをついてくる武蔵中学、日向の逆襲はあるのか!?
※岬の若島津呼びですが、旧明和系は全員下の名前呼びにします。岬自身のどこまでが下の名前呼びで「君」付けの明確なラインがわかりませんが、旧明和系キャラクターは下の名前呼び、もしくは呼び捨てでいきます。
※日向の本間へのプレイは、原作の日向が三杉をかばった姿をオマージュしました。
※本日は、2話投稿です!次回は18時頃更新予定です!時間は前後することご容赦ください。