キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
東京都大会決勝戦、終了の笛。激闘を制し、都王者となったのは武蔵中学だった。
ピッチの上で抱き合い、喜びを爆発させる武蔵イレブン。その歓喜の輪へ、敗れた東邦学園の主将・松山光、新田瞬、そして岬太郎の3人が静かに歩み寄ってきた。
松山が悔しさを押し殺しながらも笑みを浮かべ勝者を讃える。
「やられたよ、翼。最後の最後であんな恐ろしいシュートを隠していたとはな」
翼が汗を拭いながら微笑みを返した。
「10人になってからの東邦の粘りは本当に驚異的だったよ。……次は関東大会だね」
「ああ。関東大会ではこうはいかんぞ」松山が力強く頷く。
その傍らから、新田がギラギラとした眼光で翼を見つめた。
「翼さん、俺も今日あんたの凄さを思い知ったよ。だけど……次の試合では俺が勝つ!」
「望むところだ、新田君!」
そして、岬が優しく、しかし確かな闘志を瞳に宿して翼と視線を交わした。
「翼君、流石だね。でもね……今日翼君と戦ったことで、僕の中でも翼君に勝ちたいっていう気持ちがより強くなったんだ。関東大会でまた戦えるのを楽しみにしてるよ」
「……岬君」
その時、遠くからナトゥレーザの陽気な声が飛んだ。
「おーい、翼ー! 早く早く、みんな待ってるぞー!」
「うん、今行くよ!」翼は振り返り、東邦の3人に力強く告げた。「それじゃあみんな、関東大会で会おう!」
「ああ、またな!」
固い握手を交わし、松山たちも自陣のベンチへと戻っていく。
一方で、1年生同士の静かな火花も散っていた。
東邦の沢田タケシが、武蔵の川村へ声をかける。
「大介、今日は俺の負けだ。だが次は、絶対に俺たち東邦が勝つ」
川村は爽やかに笑った。「タケシ、お前とコンビを組んで戦うのも楽しかったけどさ、敵として戦う方がより成長できるって実感したよ。悪いけど……次も俺が勝つよ」
互いの健闘を称え合い、自チームの輪へと戻っていく二人。ピッチ上では、あらためて武蔵イレブンが抱き合い、優勝の喜びをかみしめていた。
メインスタンドでは、その光景を武蔵中学の保護者たちが見守っていた。
「奈津子さん……やっぱり翼は凄い奴ですよ。あの土壇場の場面で、プロでも滅多に成功しない高難度のシュートを選択し、それを決めてしまう。あいつのサッカーセンスは本物です」
ロベルト本郷の言葉に、大空翼の母・奈津子の目から溢れる涙が頬を伝った。
「そうね……本当によく、ここまで回復してくれたわ。3年前の、あの夏の出来事から……。悲しみを克服して、こんなにも強く成長した姿を見られる日が来るなんて……」
「……奈津子さん」ロベルトは静かに寄り添う。「そうですね。ですが……翼の挑戦は、まだ始まったばかりですよ!」
「ええ、そうね。次は関東大会ね」
そこへ、副主将・本間実の母親をはじめとする武蔵中学の保護者たちが歩み寄ってきた。
「大空さん、本当に……本当にありがとう。翼くんが武蔵に来てくれたおかげで、三杉くんが亡くなってからずっと抜け殻のようだったあの子のやる気が戻って……こうして息子の成長した姿を見ることができたんだから……」
「本間さん……」
次々と奈津子の元へ集まり、感謝の言葉を口にする保護者たち。
翼だけではなかった。3年前、三杉淳という絶対的象徴を失った悲劇に苦しんでいたのは、子供たちだけではなかったのだ。我が子の傷ついた心に寄り添い、共に深く傷ついていた保護者たちもまた、今、翼と武蔵イレブンの勇姿を通して過去の悲劇に向き合い、乗り越えようとしていた。
やがて、死闘が繰り広げられたピッチは、互いの健闘を称え合う表彰式の舞台へと姿を変えていく。そこには、都王者として誇らしく賞状とカップを掲げ、弾けるような笑顔を見せる武蔵中学サッカー部の姿があった。
だがその頃、関係者席の雰囲気は重く、そして激しく色めき立っていた。
「あの絶対王者・東邦が敗れた……」
「戦力としては歴代最強とまで噂されたあの東邦学園がだぞ……!?」
「大空翼……3年前の全小で南葛を率いていたあの男が、表舞台に出てくるや否や武蔵を率いて東邦を撃破するとは!」
「おい、特にあの決勝点のシュートは何だ!?」
「『ドライブシュート』だ……プロの試合でも滅多にお目にかかれない代物だぞ。それを中学生が見せるなんて、抜群のサッカーセンスとしか言いようがない」
「関東大会を勝ち上がり、全国に出たら武蔵が優勝候補の筆頭だな」
「おいおい、それはないだろう。東邦の底力はまだこんなものじゃない」
「どうかな……ナンバーワンストライカーと思われていた日向小次郎に、あんな致命的なメンタルの脆さがあったとはな。あの弱点を克服するのはちょっとやそっとじゃ不可能だぞ」
「確かに……武蔵は翼以外にも、ブラジル留学生のナトゥレーザ、守備の要の井川、そして日向とのストライカー対決に完勝した火野竜馬と、タレントが揃いすぎている」
「どちらにせよ……東邦の一強体制は完全に崩れたということだ」
「激動の『戦国時代』が訪れたわけか……」
ひそひそと交わされる関係者たちの会話を、日本サッカー協会の片桐宗正は静かに聞いていた。
(……狙い通り、東邦の一強体制は崩れた。しかし、東邦もただ倒れたわけではない。己の弱点を晒しながらも翼に食らいついた新田、チームの窮地に自ら同点ゴールを叩き込んだ岬……武蔵という強大な対抗馬が現れたことで、彼らもまた急速に覚醒し始めている)
片桐の思考は、関東全域へと巡っていく。
(そして……強烈な留学生を擁する千葉の『東総学院』や、タレント集団である神奈川の『江ノ島中学』……関東大会には、まだまだ危険な強敵が牙を研いで待っている)
(……あとは、日向小次郎か)
片桐の視線が、スタンドの一角へと注がれた。そこから静かに立ち上がり、会場を後にしようとする一人の男——日向の明和FC時代の恩師、吉良耕三の姿があった。
吉良が動いたことを確認すると、片桐もまた静かに席を立った。
(……吉良耕三の時代錯誤なスパルタ指導で、日向という才能を潰させるわけにはいかない)
激動の関東大会、そして日向小次郎の再起を巡り、大人たちの思惑もまた静かに動き始めていた。
都大会閉幕——物語の舞台は、猛者たちが集う『関東大会』へ!
都大会が終わりました。子どもたちの喜びや悔しさは当然で、そんな子どもたちを日々支えている保護者の葛藤も描きたかったので描きました。物語は都大会から関東大会へと舞台が移ります。
でもその前に原作では、日向の恩師吉良耕三が試合終了後に日向の前に現れ、日向に以前のような闘争心がなくなったことを指摘して、沖縄行きを示唆し、チーム離脱→タイガーショット開発という流れでしたが、ここでもこうなってしまうのでしょうか!?
※本日の投稿はこれで終わりです。また週末中心の投稿に戻ります。なので次回は土曜日の投稿となります。お付き合いいただけるとうれしいです。