キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜   作:ロンゲスト・ロード

58 / 61
都大会決勝は、武蔵中学の優勝で幕を閉じた。一方、試合後に動き出した吉良耕三に対して後を追いかける日本サッカー協会の片桐。試合後の大人たちの動きが慌ただしくなる!


第55話 帰路の訪問者

東京都大会決勝戦の熱狂が冷めやり、表彰式も滞りなく終了した。

帰り支度を済ませた武蔵中学サッカー部は、顧問の中田の引率のもと、西が丘サッカー競技場を後にして帰路へとついていた。その途中、大空翼の背中に懐かしい声がかけられた。

「翼!」

振り返った翼の瞳が丸くなる。「城山監督! お久しぶりです、どうしてここに……!?」

笑顔で歩み寄ってきたのは、翼が小学生時代に所属していた南葛SCの監督・城山だった。

「おいおい、いくらお前が南葛を卒業したと言っても、俺にとっちゃ教え子だからな。教え子の動向は卒業しても気になるもんさ」

後方で様子を見ていた武蔵の真田信次が、副主将の本間実に耳打ちする。

「なあ本間、誰だあの人?」

「3年前に対戦した、南葛SCの城山監督だよ」

「そうだっけ?」

「無理もないさ。俺たちにとっちゃ敵チームの監督だったからな」

城山は翼の肩を叩き、感慨深げに目を細めた。

「翼……3年前のあの出来事から、よくぞここまで立ち直ったな。翼と岬、そして新田が東京一をかけて戦うなんて、3年前には考えられなかったよ」

「そうですね……。城山監督は今も南葛SCの監督を?」

「ああ、今年はうちも全国小学生大会に出場できることになったよ。よかったら後輩たちの様子も見に来てくれ。……あっ、そうだった、お前たちもすぐに関東大会があるんだったな!」

「はい。でも、時間が取れればぜひ見に行きます!」

城山は力強く頷いた。

「ありがとう。だが無理はするなよ。今年の全中は静岡で開催だ。その時にまた会おう。そうそう……石崎たち南葛中も、静岡県大会を制して東海大会への出場を決めたぞ!」

「石崎くんたちもですか!?」

「そうだ。あいつらも全国でお前や岬たちと対戦することを目標に、猛練習に励んでいる」

翼の胸に熱いものが込み上げた。

「ありがとうございます! 俺たち武蔵は関東大会も勝ち上がって全国に行き、そして優勝します!」

「ハハッ、頼もしいな。じゃあ翼、今度は静岡の全中で会おう!」

城山は爽やかに手を振り、去っていった。

翼は武蔵の仲間たちに向き直る。「さあ、まずは学校に帰ろう!」

真田がふと周囲を見回した。「あれ? 兵藤監督と浅田コーチは?」

引率の中田が答える。「大事な用があるとのことで、先に帰っていてくれとのことだ。それに今日は学校に着いたら解散で、明日はオフだそうだぞ」

「よーし! 明日はオフだ! 久しぶりに遊び回るか!?」歓喜する真田に、井川岳人が呆れ顔で頭を小突いた。

「馬鹿野郎、明日はしっかり体を休めるんだぞ! すぐに関東大会が始まるんだからな!」

「わ、わかってるよー!」

和気藹々とした雰囲気に包まれながら、武蔵イレブンは意気揚々と帰途についた。

一方——敗れた東邦学園も、試合後のミーティングを終えて重苦しい空気の中で帰路へと向かっていた。

敗戦のショックからチーム全体の表情は暗い。その一行の先頭付近を歩いていたエース・日向小次郎の前に、突如として一人の男が立ちはだかった。

酒の匂いを漂わせ、鋭い眼光を向ける男——吉良耕三だった。

「ッ……!? 吉良監督……!」驚く日向に対し、吉良はニヤリと不敵に笑うと、吐き捨てるように言葉をぶつけた。

「わしの元を離れて、ずいぶんと丸くなったのう、小次郎」

日向は息を呑み、言い返すことができない。吉良の容赦ない言葉が続く。

「今のお前は牙の抜けた虎……いや、人に飼い慣らされた猫だ! だからあんな甘い、腑抜けたプレーに終始するんだ! かつてのお前なら、倒れた相手(本間)など気にせず、その頭を蹴り飛ばしてでもゴールを目指していたぞ! 挙句に、格下だと思った相手にボールを奪われたくらいで逆上して退場するなど、愚か者もいいところじゃ!」

「ッ……!」

「わしはな、お前をそんな腑抜けた選手に育てた覚えはないぞ!……わしは今、沖縄にいる。沖縄に来い。一からお前を鍛え直してやる」

言いたいことだけを吐き捨て、去ろうとする吉良。その背中に、東邦の主将・松山光が静かに、しかし断固とした口調で異を唱えた。

「待ってください」

吉良が足を止める。松山は吉良をまっすぐに見据えた。

「日向は倒れた相手を気遣っただけです。それはフェアプレーに則った当然のプレーのはずだ。それを『腑抜けたプレー』だなんて言うのはおかしいんじゃないですか!?」

吉良は眉をひそめ、冷笑した。「お前……そんな甘いことを言っておるから試合に負けるんじゃろが! サッカーは格闘技じゃ!」

「日向を昔に戻すということは、ラフプレーしかできない頃の日向に戻すということですか!?」松山は一歩も引かない。「それに、この後すぐに関東大会、そして全国大会を控えている俺たちに、日向を沖縄に行かせている暇なんてありません!」

「ほう……じゃあお前らは、小次郎がいなきゃ何もできない出来損ないの集まりなんじゃな! そんなチーム、さっさと敗退したらええんじゃ!」

暴論を吐き捨てる吉良に、日向が思わず声を張り上げた。

「吉良監督! 俺のことは何を言われても構わない! だけど……こいつら、チームの仲間は関係ないだろ!!」

「小次郎! お前はどこまで甘いんじゃ! わしが一からその性根を叩き直してやるわ!!」

吉良が大声を張り上げた、その時だった。

「——どういう風に叩き直すのか、具体的な方策をご提示いただきたいですね」

冷ややかな声が落ちた。

東邦イレブンがどよめく。現れたのは、武蔵中学の監督・兵藤剛、コーチの浅田ユリ、そして日本サッカー協会の片桐宗正だった。

吉良が忌々しそうに睨みつける。「何じゃお前ら……部外者が!」

兵藤は淡々とした口調で切り返した。

「それを言うならあなたもでしょう、元明和FC監督の吉良耕三さん。部外者のあなたが、公式試合が続く中学生を許可なく沖縄に連れ出して特訓なんてさせたら大問題ですよ。それに『鍛え直す』と言いますが……その具体的なトレーニング方法を教えていただけますか?」

「誰がお前なんぞに話すか!」

「じゃあ当てましょうか?」兵藤は呆れたように肩をすくめた。「概ね、朝から晩まで砂浜から波に向かって、サッカーボールを右足でひたすら蹴り込む特訓で強靭な足腰を鍛え直す……とでも言うつもりじゃないんですか?」

「ッ……!?」吉良の顔が引きつる。完璧に看破された動揺を隠せない。

その過酷かつ時代錯誤な内容を聞き、東邦の部員たちから一斉にドン引きの声が漏れた。

「ひたすら波に向かってボールを蹴り込むって……正気の練習じゃないぞ」

「沖縄って台風がよく来るところだろ!? 暴風雨が来てもやらせる気か……!?」

吉良は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

「それくらいやらんと、強靭な足腰と鋼のようなメンタルは身につかんわ!!」

兵藤の目が一瞬で冷たく光った。声を荒げて吉良を喝破する。

「吉良さん、あんた正気か!? 日向くんの今の課題は右足の強化じゃない! 彼の課題は左右の筋肉バランスの歪みだ! これを修正するのが先決なのに、右足をさらに追い込んで歪みを広げるつもりか!?」

「ええい黙れ! 小次郎には全ての敵をねじ伏せる『究極の右足』があれば十分じゃ! お前たちのチームなど簡単に蹴散らせるわ!」

「チームや選手は、あんたの身勝手な欲望を満たすための道具じゃない!! 選手の身体的リスクや課題に気づきながら、さらにそれを放置して壊そうとするやり方は……断じて認めない!」

兵藤の怒りに満ちた一声に、その場がしんと静まり返った。

そこへ、重厚な足音が近づいてくる。東邦学園監督・北詰誠だった。

「……兵藤監督の言う通りだ」

北詰は吉良の前に立ちはだかり、毅然とした態度で告げた。

「吉良さん、あなたはかつての日向小次郎の師匠だったかもしれない。だが今の彼は、東邦学園にとってかけがえのない選手だ。その選手を頭ごなしに否定し、壊そうとすることは許しません。……それに、これから公式戦が続く。チームを勝手に離脱させたり、そのような違法な誘惑を行って日向に不利益が生じた場合……吉良さん、あなたを東邦学園として警察および法的に告訴します」

「こ、告訴……!? わしを訴えるだと!?」

横に立っていた片桐宗正も静かに口を開いた。

「話は聞かせてもらいました。日本サッカー協会としても、東邦学園が告訴に踏み切った場合、全面的な指導者ライセンスの剥奪および厳重な処分を下すことになります」

大人たちの圧倒的な論理と法的措置の前に、吉良は顔を歪ませて捨て台詞を吐いた。

「何じゃお前ら、示し合わせおって……! 今日のところは引き下がるがな、小次郎、お前は自分の足でわしのところに来るんじゃ! その時に吠え面をかくなよ!」

悪態をつきながら、日向の前から去っていく吉良耕三。

北詰は兵藤に向き直り、深く一礼した。

「兵藤監督、あなた方にまでご迷惑をおかけした。……ですが、これはうちの問題です。東邦のことは、うちで処理します」

兵藤はいつもの不敵な笑みに戻った。「そう言っていただけるなら構いません。東邦のことですからね。……ただできれば、最高の状態の強い東邦と当たって倒す方が、うちの子供たちの成長に繋がりますから」

北詰の口元がかすかに緩んだ。「……兵藤監督、それはお約束しよう」

兵藤、浅田、片桐の3人は、静かにその場を後にした。

北詰が日向の肩にそっと手を置く。「日向、学校へ帰るぞ」

「……はい」

松山が声をかける。「よし、行くぞみんな!」

こうして、東邦学園もまた静かに帰路についた。

試合後の吉良耕三の強烈な介入——それが日向小次郎の葛藤する心にどのような影を落とし、いかなる決断へと繋がっていくのか。

この時の彼らは、まだ知る由もなかった。




原作では、吉良が日向のハングリー精神がなくなったことを指摘し、沖縄行きを促したイベントです。原作では吉良に言われ放しの日向でしたが、この世界線ではの主将は松山です!おかしいと思うことはおかしいと言える男です。原作では、日向がトップで若島津や沢田も明和出身なので吉良に頭が上がりませんが、松山は違います。そして口論になって時間が稼げれば北詰たち大人も現れ、現れたら原作みたいに日向が吉良に言われ放しで終わることはないんじゃないかと思いました。
ここでは、兵藤監督も加勢し、吉良の時代遅れのスパルタ指導を否定しましたが、このまま日向は沖縄に行くことはないのでしょうか!?

※本日は3話投稿です。次は12時頃投稿の予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。