キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜   作:ロンゲスト・ロード

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都大会決勝後の帰路、翼はかつての南葛SC監督城山の訪問を受けていた。翼は、そこで後輩たちの全小出場、かつての仲間(石崎)たちも東海大会まで勝ち進んでいることを知り、全中での再会に胸を膨らませる。一方、東邦学園も日向のかつての師吉良耕三が現れ、日向がハングリー精神が薄れたことを指摘し、自身が沖縄で運営するサッカースクールでの鍛え直しを示唆するも、そこに武蔵中学監督兵藤が現れ、吉良の時代錯誤の指導を非難し、東邦学園監督北詰も同調し、もし吉良が日向の沖縄への連れ去りを行えば告訴すると吉良に伝える。憤慨しながら立ち去る吉良。日向の胸中は!?


第56話 逆襲の狼煙

西が丘サッカー競技場からの帰り道、日向小次郎はかつての師・吉良耕三から容赦ない叱咤を浴びせられた。過酷な言葉に激しく動揺した日向だったが、武蔵中学の兵藤剛監督、そしてサッカー協会の片桐宗正らの介入によって、吉良の強引な横槍は退けられた。

だが、日向の胸の内に生じた大きな揺らぎは、消えることはなかった。

学校へ戻った東邦学園サッカー部は、そのまま合宿所へと移動した。その際、主将の松山光、岬太郎、そして守護神の若島津健の3人が北詰誠監督に呼ばれ、何事か静かに言葉を交わしていた。

部員たちが自室へ戻った後、北詰たち首脳陣は本館の会議室に集まり、今日の試合の報告と今後の対策会議を開いていた。その席には、スカウト部長の大沢の姿もあった。

「今回の敗戦は……我々指導陣にとっても、極めて重い結果となった」

北詰は深々と息を吐き出し、重苦しい表情で口を開いた。

「選手たちの左右の筋力バランスの歪みを放置し、そこを武蔵という強敵につけ込まれてしまった。この敗戦の責任は、決して子どもたちにはない。我々大人の責任だ。……だが、戦いはまだ続く。我々は今後どう戦うか、それを早急に定めねばならん」

大沢が腕を組み、眉をひそめた。

「なるほどな。だが日向は、今日のレッドカードによって関東大会の1回戦が出場停止だ。となると、全国行きをかけた2回戦からピッチに戻すのか?」

「いや……」北詰は首を横に振った。「日向は、関東大会の『決勝戦』まで一切使うつもりはない」

「なに……?」

「武蔵の兵藤監督も指摘していた通り、日向の左右の筋力バランスの歪みは想像以上に深刻だ。下手に試合に出し続けるより、一度実戦から離し、集中してその歪みを矯正・リハビリさせる必要があると考えている」

大沢の目が光った。「……つまり俺に、日向を鍛え直せということか?」

「そうです。大沢さん、元日本代表であるあなたに、日向の再生をお願いしたい。引き受けていただけますか?」

北詰が頭を下げかけた、その時だった。

「——お待ちください、北詰監督!」

熱い声を出して立ち上がったのは、コーチの山本だった。山本は拳を握り締め、必死の眼差しで訴えた。

「日向の再生は……この私に任せていただけないでしょうか!」

「山本コーチ……?」

「日向の左右の筋力バランスの歪み、そしてメンタル面でのケア……あいつが東邦に入学してからずっと一番近くで見守りながら、それを見抜けなかった責任は全て私にあります! だからこそ……日向の再生は、私が何が何でもやり遂げてみせます!」

山本の並々ならぬ執念と責任感に、北詰も一瞬言葉を詰まらせ、思案に暮れた。

「……気持ちは痛いほど分かる。だが山本コーチ、あなたが日向にかかりっきりで個別指導を行ったら、一体誰がチーム全体の練習を見るんだ?」

正論を突きつけられ、山本はぐっと言葉を詰まらせ、悔しそうに沈黙した。

その時、会議室のドアが勢いよく開いた。息を切らせた岬太郎が飛び込んでくる。

「監督! 小次郎……いや、日向が合宿所から抜け出そうとしています! 今、松山くんと若島津くんが必死に止めています!」

北詰の目が険しく光った。まるで最初から予期していたかのように立ち上がる。

「……やはり動いたか。岬、日向はどこだ!?」

合宿所の裏手、暗がりの中で緊迫した問答が続いていた。

荷物を背負った日向を、松山と若島津が左右から力づくで押さえつけている。

「離せ、松山! 俺は……沖縄に行く!!」

「兵藤監督が言っていたことを忘れたのか、日向!?」

松山が激しい口調で怒鳴りつける。

「お前の最大の課題は、左右の筋力バランスのいびつさなんだぞ! 沖縄に行って砂浜を走ったところで、そんなものが改善するわけがないだろ!!」

「わかっている! わかっているさ!!」

日向は喉を張り裂けんばかりに叫んだ。その瞳には、血のにじむような執念が宿っていた。

「だがな……沖縄に行けば『究極の右足』が手に入るんだ! それさえ手に入れば、翼に……何より、あの火野に勝てるんだよ!! 俺はやつに……火野竜馬に、何としても勝たなきゃならねえんだ!! 頼む、松山……黙って俺を沖縄に行かせてくれ!!」

次の瞬間、あの孤高のエース・日向小次郎が、地面に膝をつき、松山の目の前で深く額を地面にこすりつけた。

「……ッ!? 日向、お前……!」

松山と若島津が息を呑む。あの日向が、なりふり構わず土下座をしてまで勝ちを乞うているのだ。

松山が絶句し、次の言葉を言いかけた——その時。

「——日向よ」

重厚な声とともに、暗がりから北詰監督、山本コーチ、大沢、そして岬らが姿を現した。

北詰は土下座する日向の前に歩み寄り、静かに見下ろした。

「誰よりも……お前の『勝ちたい』という強い気持ちは分かった。だが日向……我々指導陣は、お前にとってそれほど信用できない大人か?」

「……! 違います、監督……!」

日向は額を上げたが、その表情は悔しさに歪んでいた。

「今日の敗因は、全て俺の甘えと思い上がりが原因です……! だから俺は沖縄に行って、その甘えを叩き直して来たいんです……!」

「なるほど。吉良耕三の『究極の右足を与える』という言葉に惑わされたか。……日向よ、仮に吉良の言う言葉通り『究極の右足』を手に入れたとして、その後のことを考えたことはあるのか?」

「俺が究極の右足を手に入れれば、チームを勝たせることができます! 絶対に負けません!」

「短期的な勝利なら、もたらすことができるかもしれん」北詰の口調が鋭さを増す。「だが……さらに歪みを増したお前の筋肉バランスはどうなる!? これ以上のアンバランスは、サッカー選手として二度と取り返しのつかない致命的な障害になるんだぞ!! そうなることが分かっていて、お前を沖縄に行かせるわけにはいかん!」

「だからと言って!!」日向が叫び返した。「究極の右足も手に入らず、左右のバランスも戻らないまま指をくわえている方が……俺にとっては最悪なんだ!!」

「そんなことは絶対にさせないぞ、日向!!」

絶叫するように割り込んだのは、山本コーチだった。

山本は、一冊の分厚いデータファイルを取り出し、日向の目の前へ突きつけた。

「こ……これは……!?」

日向はファイルに敷き詰められた緻密なグラフと数値を見て、目を丸くした。

「そこには、お前の左右の筋力数値の測定データと、それを完璧に改善するためのトレーニング・メニューが記されている!」

山本が熱を込めて語りかける。

「数ヶ月前……松山から『日向の筋力バランスの歪みを改善するメニューを組んでほしい』と提案があったんだ。それ以来、お前が筋トレをするたびに、松山たちが測定して記録していた数値を元に、俺が分析して作成したものだ! これがあれば……左右のバランスを完璧に矯正しながら、さらなる筋力強化を図ることができる!!」

山本は向き直し、北詰へ深く頭を下げた。

「北詰監督! どうか日向の再生を、この私にお任せください!!」

北詰は山本を見つめ、そして深く力強く頷いた。

「……分かった。山本コーチ、あなたに日向を任せる。関東大会の決勝戦には、完璧な状態に仕上げてくれ」

「はいッ!!」

北詰は次に、静かに控えていた岬太郎に向き直った。

「岬! 日向は関東大会の決勝まで使わん。これからの東邦の攻撃は、全てお前の腕にかかっている! 単なるゲームメイカーにとどまるな。翼やナトゥレーザのように、自ら果果にゴールを奪うストライカーとなれ!」

岬の瞳に、静かで力強い炎が宿った。「はい!」

「松山、若島津!」

「はい!」

「日向が戻らん以上、相手に絶対に点を与えん戦いが必要になる。完封してみせろ!」

「「はい!!」」

そして北詰は大沢へと視線を向けた。

「大沢さん。山本コーチが日向つきっきりになる間、申し訳ないがコーチとしてチームの指導を手伝っていただけますか?」

大沢は豪快に笑った。

「任せときな、北詰さん! スカウトの仕事は田中に任せればいいし、松本も広報で揉まれた経験を生かしてくれるさ。……大人だってな、何度でも再挑戦できるんだ! だから日向、お前はチームのことなんか気にするな。しっかりと弱点を克服して来い!」

その時、暗がりから足音が近づいてきた。新田瞬や沢田タケシ、反町をはじめとする東邦の部員たちが、いつの間にか集まっていたのだ。

新田がニッと八重歯を覗かせて笑う。

「そうですよ、日向さん! 日向さんがいない間は、俺がガンガン点を取って勝ち進みますから!」

タケシも真っ直ぐな瞳で言った。「日向さんの戻ってくる場所は、僕たちが絶対に守ってみせます!」

部員たちから次々と飛ぶ、温かくも頼もしい励ましの声。

「お前ら……」

あの日向小次郎の目から、ポロポロと大きな涙が溢れ落ちた。

一人で背負い込み、孤立していたはずの自分には、こんなにも頼もしい仲間と、自分を本気で守ろうとしてくれる大人がいたのだ。

北詰が気恥ずかしそうに咳払いをした。

「……まったくお前たちは! 早く部屋に戻って身体を休めろ! 明日から関東大会に向けて地獄の猛練習だぞ!!」

「「「はいッ!!!!」」」

夜の静けさを切り裂くような、力強い東邦イレブンの快吼。

絶対王者・東邦は、都大会で敗れた。しかし、より強くなって関東大会に戻ってくるだろう。

王者の逆襲が、この日から始まった。

それから数日後——沖縄。

関東大会の開催が目前に迫っていたが、日向小次郎がこの沖縄の地に姿を現すことはなかった。

波が打ち寄せる砂浜で、酒瓶を握りしめた吉良耕三が、忌々しそうに海に向かって吐き捨てた。

「……チッ、小次郎め! 恩を仇で返しおって……!!」

吉良は振り向き、砂浜でぜいぜいと息を切らせて倒れ込んでいる小学生たちの前で、激しく竹刀を振り下ろした。

「おいお前ら、何ぬるいことをしとるんじゃあッ! 死ぬ気でサッカーボールを蹴らんかーっ!!」

バシィッ! と竹刀が砂を叩く音と、吉良の怒号だけが、空しく沖縄の海にこだましていた。

 




日向なら吉良の甘言に惑わされて沖縄に行くだろうと思いました。しかし原作と違い、現場を目撃した北詰なら日向の行動を見越して手を打ってくるだろうという前提で話を進めました。これで日向の沖縄入りはなくなり、山本コーチと二人三脚で筋力バランスの改善に取り組むことになる日向の行方は!?

※次回は18時頃の更新予定です。
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