キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
石崎の余計な大活躍により、三杉淳の死は瞬く間に南葛SCの部屋全体へと広がっていた。
「三杉が……亡くなった……?」
来生が呆然と呟く。
「嘘だろ……? さっきまでグラウンドで走ってたんだぞ!?」
井沢が信じられないといった様子で叫ぶ。
高杉は言葉を失い、ただじっと床を見つめて沈黙していた。
声をあげる者、言葉を失う者、あまりの衝撃に部屋の雰囲気は一変した。
そこへ、騒ぎを聞きつけた監督の城山が急ぎ足で部屋に入ってきた。
「どうしたんだ、一体この騒ぎは?」
「監督! 三杉が……三杉が亡くなったというのは本当ですか!?」
来生が詰め寄る。城山は思わず顔をしかめた。
「お前たち……どうしてそれを……」
城山の言葉に、全員の視線が一斉に石崎の方へと向けられた。
気まずそうに頭を掻きながら、石崎がしどろもどろに弁明する。
「い、いやあ……か、監督が深刻そうな顔をしてるのが見えたもんだから、つい彼女にフラれたのかなと思って……慰めようかと……なっ、浦辺!」
「ば、馬鹿! あ、あれはお前が勝手に……それに岸田、お前もだろ!」
「俺を巻き込むなよ!」
城山は呆れ果てた顔で石崎、浦辺、岸田の3人を見つめた。
「……そうなのか?」
「はい……すみません……」
3人は深々とうなだれた。城山は「どうしようもないな」と言わんばかりに深く溜息をつき、頭を振った。
「……こうなった以上、隠しても仕方がない。全員を集めてくれ」
南葛SCのメンバー全員が部屋に集められた。重苦しい空気の中、城山がゆっくりと口を開く。
「正直、みんなに伝えるのを迷っていたのだが……こうなっては仕方ない。今晩19時頃、武蔵の三杉君が亡くなったと、武蔵の監督さんから連絡があった」
部屋に重い静寂が落ちる。井沢が意を決したように尋ねた。
「あの……明日の決勝戦はどうなるんですか?」
「武蔵の監督さんは辞退(棄権)も考えていたそうだ。だが、選手全員の強く熱い願いで、明日の決勝戦に出場することになった」
「ちぇっ……あいつらが棄権してくれりゃあ、俺たちが代わりに出てふらのなんかコテンパンにするんだがなー」
ぽろりと漏らした石崎の軽口に、来生が激昂して胸倉を掴みかからんばかりに怒鳴った。
「馬鹿野郎! 三杉が亡くなったんだぞ! 少しは頭使って物を言え!」
「悪っ……分かってるよ……」
浦辺が心配そうに城山へ問いかける。
「明日はどうするんですか? 俺たちも葬式に出るんですか?」
「いや、向こうの監督さんから『子どもたちに葬儀の様子を見せるのはショックが大きいだろうから、全員での参列は見合わせてほしい』と申し出があった。したがって、こちらから出席するのは私と、キャプテンである翼の2人のみにする」
それを聞いた岬太郎が、切実な目で城山を見つめた。
「監督……僕も行ってもいいですか? 翼君だけじゃ、三杉君の死を受け止めるのは大変だと思うんです」
「岬、そりゃないぜ。それなら南葛小のキャプテンである俺も行くべきだろ!」
石崎が身を乗り出す。だが、部屋の隅でずっと俯いていた大空翼が、静かに、しかしはっきりとした声で言葉を遮った。
「ありがとう……石崎君、岬君。俺、1人で大丈夫だから。……ちゃんと、三杉君の死に向き合うよ」
「翼君……」
岬は言葉を飲んだ。翼の瞳は力なく揺れていたが、その奥には悲痛な決意が滲んでいた。
「翼、お母さんは近くのホテルに泊まっているんだな?」
城山が優しく問いかける。
「私からお母さんに事情を話しておくから、明日の午前中はお母さんと一緒に準備をしておきなさい。お通夜は決勝戦が終わった後の夜だ。他のメンバーは決勝戦を観戦したあと、ホテルで待機するように」
翌朝。空は晴れ渡っていたが、空気はどこか冷ややかに澄んでいた。
遂に、全国小学生サッカー大会・決勝戦の幕が上がる。
よみうりランドの観客席の中に、日向小次郎の姿があった。
昨日の準決勝第1試合の後、過労で倒れていた日向だったが、一晩で驚異的な回復力を見せ、吉良監督から「後学のために決勝を見ておけ」と命じられてスタジアムに足を運んでいたのだ。
そこへ、翼抜きの南葛一行が通りかかる。目ざとく日向を見つけた石崎が、声を張り上げた。
「よう、日向じゃねえか!」
「お前らは……」
日向が眉をひそめる。
「昨日は残念だったな!」
「何を言うかと思えば……そういうお前らも敗退したじゃねえか。それに予選リーグでは俺たちが勝ち越してるんだぜ」
「言わせておけば! 負けたら一緒じゃねえか!」
言い争う二人の前に、すっと人影が立ちふさがった。東邦学園のスカウト・松本と田中である。
「日向君、ちょっといいかしら」
「……スカウトの件ですよね」
松本は淡々とした口調で、冷酷な現実を突きつけた。
「ええ。昨日は残念だったわね。当初の約束通り『優勝』できなかったから、あなたの特待生スカウトの件は白紙に戻させてもらうわ」
「……分かってます。約束を守れなかったのは俺だ」
「そうね。今回は縁がなかったけれど、中学で優勝したら改めてスカウトさせてもらうわ」
隣に立つ田中が「あんた、そこまで言うか……」という哀れみの表情を浮かべていたが、松本は一顧だにせず颯爽と立ち去っていった。
「小次郎……」
岬が心配そうに声をかける。だが、石崎は容赦なく爆笑した。
「ギャハハハ! お前スカウト駄目だったの!? 当然だよな! レッドカードもらった奴がスカウトされるわけねえだろ!」
「おい石崎! 場所変えるぞ!」
あまりにも度を越した石崎の言動に、浦辺が焦って石崎の首を締めあげるようにして強引に引っ張っていった。
「いってぇ! 何すんだよ浦辺!」
引きずられていく石崎の後ろで、岬が頭を下げた。
「小次郎……すまない」
「気にするな、岬。……悔しいが、あいつの言うことももっともだ。……だが、中学では俺が絶対日本一になる!」
「させないよ、小次郎」
岬は力強く微笑むと、南葛のメンバーの後を追って走っていった。
そして、決勝戦の笛が鳴った。
試合は、終始ふらの小のペースで進んだ。
大黒柱である三杉淳を失った武蔵FCには、いつもの華麗な連携もキレもなく、選手たちは焦りと悲しみで足が重かった。松山光率いるふらのの徹底されたチームワークの前に、武蔵は完全に翻弄されていく。
前半12分、ふらのの主将・松山光が鮮やかなミドルシュートで先制。
さらに前半終了間際、FW小田が追加点を奪い、2 - 0で前半を折返す。
後半に入ってもふらのの勢いは止まらない。
17分、再び松山が泥臭く押し込んで3 - 0。
その後もふらのは危なげないゲームコントロールで時間を使い、試合終了のホイッスルを聞いた。
ピッ、ピッ、ピーーーッ!!
「試合終了! 3対0! 勝ったのは北海道代表・ふらの小!!」
大空翼、岬太郎、日向小次郎、そして三杉淳。
後に「黄金世代」と呼ばれる天才たちが一堂に会したこの大会を制したのは、泥臭くチームワークを磨き続けた松山光率いる「ふらの小」であった。
表彰式。秋晴れの空の下、松山光は誇らしげに優勝旗を高く掲げた。
歓声をあげるふらのイレブンと、応援席の拍手。
こうして、激動と悲劇の全国小学生サッカー大会は静かに幕を閉じた。
しかし、本当の悲劇は……この後に控える夜の通夜で、大空翼を待ち受けているのだった。
南葛に明和、原作での決勝進出チームが揃って消えたこの大会に優勝したのはふらの小でした。有力なライバルがそれぞれの事情でいなくなった中でふらの小の優勝はどう評価されるのだろうか?キャプテンの松山の胸中はいかに!
次回は翼に最大の悲劇が迫ります。
※東邦スカウト田中は原作描写で松本の隣にいる男性スカウトです。名前がなかったのでつけさせてもらいました。