キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
都大会の激闘が幕を閉じ、激戦を制して関東大会へと駒を進めた武蔵中、東邦学園、城星の3校は、それぞれの課題と向き合いながら新たな戦いに備えて練習を再開していた。
武蔵中学サッカー部も、都大会決勝の翌々日から活動を再開した。午前中は過酷な戦いの疲労を抜くための軽めのリスティングとリカバリー調整に費やし、午後は関東大会へ向けたチーム戦略を確認するための重要なミーティングが予定されていた。
午後、武蔵中学のミーティングルーム。
部員たちは午前中に高体連・中体連合同の抽選会へ参加していた顧問・中田の帰校を静かに待っていた。ドアが開き、中田が入室してくると、部屋の中にぴりっとした緊張感が走る。
「みんな、お疲れ様。関東大会の組み合わせが決まったぞ」
中田から配られたトーナメント表を手に取り、真っ先に声を上げたのは本間だった。
「俺たちの初戦は前橋中央中学か……。2回戦は、おそらく神奈川を制した江ノ島中学だな。ここで早くも全国行きをかけた大きな山場を迎えることになるな」
膝にテーピングを巻いた一ノ瀬が表を指でなぞる。
「準決勝はたぶん千葉の東総学院……そして決勝は、やはり東邦か」
「なあに、東邦なんざ、何度来ても返り討ちにしたらいいさ!」
そう言って鼻で笑う真田充に、弟の真田正己が呆れ顔を向けた。「本当、兄貴は単純だな……」
井川が腕を組み、ふと疑問を口にする。
「しかし、日向は一ノ瀬への危険なバックチャージで出されたレッドカードがあるから、関東大会の1回戦は出場停止だろ? 出るなら2回戦からか」
「フン、出たところでどうにもならないさ」
火野竜馬がニヤリと不敵に笑う。
「あれだけの決定的な欠点を晒したんだからな。どの学校も、あいつを左側に追い込んで勝負すればいいだけの話だ」
その時、翼が静かに兵藤監督へ視線を向けた。
「……監督。都大会決勝の表彰式の後、僕たちから離れて東邦の方へ向かわれましたよね?」
兵藤は微動だにせず答えた。
「ああ。日向の欠点を指摘したまでだ」
真田が目を丸くする。「はあ!? 何でそんな敵に塩を送るような真似やってんだよ!」
「日向の小学校時代の指導者である吉良耕三が、日向の身辺を嗅ぎ回っているという情報を得ていたんでな」
兵藤は淡々と言葉を続けた。
「あんな盛大な弱点を晒した日向を『一から鍛え直してやる』と言い出し、大会期間中に自分が主催する沖縄へ連れ出そうとするのを阻止するためさ」
MFの川村もうなずく。「吉良監督なら、本当にやりかねませんね……」
「分かりました」翼が納得したように頷く。「ですが……日向君が誘惑を振り切れず、沖縄に行ってしまった可能性はないでしょうか?」
「あの時点ではない!」
兵藤の目が鋭く光る。
「だが、学校に戻った後、吉良があいつに吹き込んだ『究極の右足を与える』という甘い言葉に惑わされていたら、沖縄に飛び出していたかもしれんな。まあ、もしその選択をしていたら、あいつのサッカー選手としての未来は完全に途絶えていただろうが」
「究極の右足って、一体何なんだ?」真田が首をかしげる。
フィジカルコーチの浅田が解説を加えた。
「具体的な指導法までは分からないけれど……とにかく彼を極限まで追い込んで右足だけを徹底的に鍛え上げ、どんな体勢からでも強烈に打てるシュート力を身につけさせることじゃないかしら。だけど……それを手に入れたと同時に、彼の身体の左右バランスのいびつさを短期間で矯正することは絶望的になるわね」
本間が深く頷く。「なるほど……しかし、そういった身体への致命的な危険性を察して、周囲の人間が日向の沖縄行きを止めたということは考えられませんか?」
「それは十分にあり得るな」兵藤は小さく口元を緩めた。「むしろ、そう動いてもらうためにわざわざ俺が問い詰めたんだからな。……ところで中田先生、午前中の抽選会で何か変わった様子はありませんでしたか?」
中田は少し記憶をたぐるように首をひねった。
「特に変わったことはありませんでしたね。北詰監督が自ら抽選会に現れることは都大会の時もありませんでしたし……そういえば、都大会の抽選時には顔を出していた東邦の山本コーチの姿を、今日は見かけませんでした」
その言葉を聞いた瞬間、兵藤の瞳に確信めいた光が宿った。
「……日向は沖縄ではなく、東京にいるな」
「えっ? どうしてそれが分かるんですか?」本間が驚いて尋ねる。
「あくまで俺の推測だがね」と言って、兵藤がみんなに話をする。
「いくら代理とはいえ、自分たちの対戦相手が決まる抽選会がどうでもいいわけではない。北詰監督が多忙なら、その意を汲む山本コーチのような立場に近い人間が来るのが筋だ。それがないということは、東邦の内部でそれ以上に優先すべき『重大な事態』が起きているということだ」
浅田がはっと息を呑んだ。「日向くんの筋力バランスの矯正ね……! あそこまで歪んだバランスを正すには、専属でマンツーマン指導を行わないと間に合わないわ」
「その通りだ。だからこそ、山本コーチが日向の再生につきっきりで取り組んでいると踏んだわけさ。ま、あいつが沖縄にいようが東京にいようが、俺たちの目指すべき頂点が変わるわけではないがな」
一ノ瀬が慎重に尋ねる。「ですが監督、東邦はそこまでの弱点を抱えた日向を、関東大会でフル出場させるでしょうか?」
「もし俺が東邦の指揮官なら……日向は少なくとも関東大会の『決勝戦』までは一切使わないな」
兵藤は即答した。
「実戦感覚を保つことも大切だが、今のあいつに必要なのは集中した筋肉バランスの矯正だ。そのためには、まとまった時間とまとまった期間が絶対に必要なんだよ」
「となると……決勝までは日向抜きで東邦は戦い抜くことになるか」
「ああ。そして、日向抜きで勝ち上がることができたなら……東邦というチームは、今より一層底知れない強さを手に入れて戻ってくるだろうな」
兵藤の言葉に、ミーティングルームが一瞬静まり返った。
だが、その静寂を破ったのは翼の清々しい笑顔だった。
「おもしろいじゃないか! みんな、都大会の決勝の時よりもさらに強くなった東邦と、また関東大会で再戦できるなんて!」
ナトゥレーザも目を輝かせて乗っかる。
「そうだな! 強い相手とやるのはいつだって楽しみだ! だって……最後に勝つのは俺たちなんだからな!」
ふたつの天才の前向きな言葉に、室内には一気に活気が戻り、選手たちが口々に意気込みを語り始めた。
「おいおい、盛り上がるのはまだ早いぞ」
兵藤がパンッと手を叩いて室内を制した。
「まずは俺たちのチームの『現状』を正しく共有しなきゃならん。……一ノ瀬は都大会決勝で、日向から激しいバックチャージを受けて負傷した。幸い打撲で済んだが、完治するまでは無理させん。したがって関東大会は、負傷退場後のフォーメーションをベースに挑む」
兵藤は黒板にマグネットを並べていく。
「ボランチは本間と向井のダブルボランチ。川村は位置を一列上げ、翼は竜馬のすぐ下に配置する」
一ノ瀬が申し訳なさそうに頭を下げる。「……みんな、すまない」
「いいってことよ!」真田が背中を叩く。「お前も決勝までには完璧に治して戻ってこい!」
「それと、明後日からは部員全員で合宿所に入る」
兵藤が新たな指示を出した。
「関東大会の開催地は東京だが、その先の全中の会場は静岡だ。少しでも家とは違う『集団生活の環境』に身体を慣らしておかねばならん」
「よーし! なんだか俄然燃えてきたぞ!」真田が拳を握り締め、雰囲気が一層和やぐ。
「……それとな。今日から我がチームに、新たな臨時コーチとスタッフが加わってくれることになった」
兵藤が入り口へ視線の向けると、ドアが開き、ふたりの人物が姿を現した。
「ロベルトコーチと、カリオ君だ」
部屋に入ってきたのは、元ブラジル代表の名10番ロベルト・本郷と、ナトゥレーザの兄のカリオだった。
「ロベルトコーチは言わずと知れた存在だ。今回は時間が許す限り、技術や戦術の指導を行ってもらう。そしてカリオ君にはマネージャー兼データスタッフとして、みんなのコンディションと分析のフォローに入ってもらう」
ロベルトは暖かな微笑みを浮かべ、選手たちを見渡して深々と頷いた。
「みんなよろしくお願いする。」
すると、ナトゥレーザが飛び上がらんばかりに目を輝かせた。
「兄ちゃんが来てくれるのか!兄ちゃんの料理を食べられるのはうれしいな。みんな兄ちゃんの料理は最高にうまいんだぞ。」
和やかな笑い声が広がり、室内は一気に温かい空気に包まれた。
こうして武蔵に新しいスタッフが加わった。武蔵も関東大会に向け結束を固めるのであった。
都大会が終わり、武蔵中学の次の目標は関東大会制覇!新たなスタッフも加わり新たな決意に燃える武蔵中学サッカー部!
※これで本日の投稿は終わりです。明日は3話投稿の予定です。お付き合いいただけるとうれしいです。