キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
関東大会開幕を目前に控え、合宿期間に入った武蔵中学サッカー部。グラウンドでは連日、熱を帯びた過酷な練習が繰り広げられていた。
とりわけ部員たちの目を惹くのは、臨時コーチとして指導に当たるロベルト・本郷の存在だった。ロベルトが部員たちに徹底して叩き込んでいたのは、驚異的なテンポで行われる高速のパスワーク。ボールを持ちすぎず、ワンタッチ、ツータッチで相手のプレスを滑らかにはがしていく現代的なフットボールの技術である。
「止める、蹴るの動作を独立させるな! 常に一歩先、次のプレーの選択肢を持った状態でファーストタッチに入れ!」
ミスがあれば、相手が翼やナトゥレーザであろうと容赦なく激しい叱責が飛ぶ。さらにはゴールキーパーの相川に対しても、最後尾からのビルドアップに参加できるよう、足元の徹底的なコントロール技術を求めていた。
「相川、パスを受けた瞬間に首を振れ! 逃げのクリアではなく、攻撃の起点となるパスを出すんだ!」
しばらくして、激しいトレーニングの合間にしばしの休憩が挟まれた。兵藤監督が汗を拭うロベルトの傍らに歩み寄る。
「ワンタッチ、ツータッチで相手のプレスをはがしていくやり方は、ヨーロッパでも最新の戦術トレンドだ。ロベルトさんも、なかなかレベルの高い要求を突きつけますね」
兵藤の言葉に、ロベルトは穏やかだが力強い眼光をグラウンドに向けた。
「翼……いや、日本サッカーが本気で世界と戦うためには、これらの技術と判断のスピードが絶対に必要なんです。もし私が指導するチームが南葛のような個に依存したチームであれば、ここまでは求めないでしょう。ですが……武蔵には三杉淳が作り上げた『組織サッカー』という強固なベースがある」
ロベルトはしっかりと頷く。
「元々高度な戦術理解を備えた彼らだからこそ、私はもう一段高いレベルの要求をするんです。そして、他のチームがその進化を見て『必死に武蔵を倒そう』と研究し、追いかけてくる。その切磋琢磨の結果として、日本の年代全体のレベルが引き上げられていくんですよ」
「なるほど……深いお考えだ」兵藤は小さく笑みを浮かべると、笛を構えた。「それでは、次の練習へ行きましょうか」
一方、グラウンド脇の合宿所・厨房付近でもマネージャー陣が忙しく立ち働いていた。
「浅田先生、これを運べばいいんですか?」
大きな段ボール箱を両腕に抱えたカリオが尋ねる。
「ええ、それを食堂まで持って行ってくれるかしら」
浅田が指示を出すと、カリオは軽々と梱包された大量の食材を運んでいく。
その頼もしい後ろ姿を見送りながら、マネージャーの弥生が吐息をついた。
「カリオさんが来てくれて、本当に助かるわ。やっぱり合宿の力仕事は大変だもの」
北野も笑顔で同意する。
「それだけじゃなく、カリオさん、お料理もとっても上手で勉強になるんです」
「さあ、私たちも負けていられないわ。食事の準備に取りかかりましょう!」
浅田の声を合図に、マネージャーたちも手際よく動き出した。
こうして武蔵中は、心身ともに隙のない万全の態勢で着々と関東大会への準備を進めていた。
◇
時を同じくして、東邦学園のグラウンド。
こちらでも臨時コーチ・大沢の容赦ない檄が、新たにリベロの位置に入った松山光へと飛んでいた。
「松山、アプローチが遅い! 相手に選択肢を与えるようなディフェンスをするな! お前がしっかりと追うコースを制限して切れれば、後ろの若島津が格段に守りやすくなるんだ!」
「くっ……はい!」
「松山、ラインを押し上げる判断が遅いぞ! それではオフサイドトラップがかからん! 川辺、古田、今井! お前たちも松山のラインコントロールの動きに遅れず合わせろ!」
「「はいッ!!」」
その様子をベンチから見つめていた北詰監督は、胸中で深く感嘆していた。
(さすがは大沢さんだ。松山をリベロに配置することで、これまで若島津個人の能力に依存しきっていた守備陣に、組織としての圧倒的な厚みを持たせている。……私も負けてはいられんな)
北詰は前線と中盤のグループに向かって声を張り上げた。
「高島、小池! しっかりと中央でブロックを組め! 沢田、高島たちがボールを奪い取ったら、迷わず素早く前線へ展開するんだ!」
さらに、パスを供給したばかりの岬太郎へ鋭い視線を向ける。
「岬! 今の展開なら、自分で打てたはずだ! 安易にFW陣へ預けるな! お前自身が貪欲にゴールを狙う姿勢を見せることで、相手のディフェンスは迷うんだ。お前にマーカーが引き寄せられて迷いが生じれば、結果としてFW陣へのマークが軽くなる!」
「はい! 次は狙っていきます!」岬が強く頷く。
そして——グラウンドから少し離れたサブグラウンドの陸上トラック。
そこには、左腕と左脚にいくつもの重厚なウエイトバンドを装着し、汗だくになって走る日向小次郎の姿があった。
傍らでは山本コーチがストップウォッチを手に、容赦なく怒声を浴びせ続けている。
「日向、遅い! 右足の筋力に頼るな、意識を極限まで左足へ向けろ! ……よし、ダッシュあと10本!」
「ハァ……ハァ……はいっ!」
「休憩を入れたら、右足での基本フォームのシュートを100本! それが終わったら、今度は左足で200本打つ! その後はプールへ移動して水中負荷トレーニングだ!」
全身から湯気のような汗を吹き出させながら、日向は荒い息の下で歯を喰いしばった。
「はい……ッ!」
右足に偏りきっていた歪な筋肉のバランスを、極限の負荷と正しいフォームの反復によって強引に再構築していく地獄のようなリハビリプログラム。膝と筋肉が悲鳴を上げる中、日向の瞳の奥には、メラメラと青い執念の炎が燃え盛っていた。
(見ていろ、翼……火野! 俺は必ず完璧に復活して……お前たちを叩き潰す!!)
それぞれの意志と進化を抱き、ついに関東大会の激闘の火蓋が切って落とされようとしていた。
関東大会に向けて最新の戦術を取り入れる武蔵、一方、決勝までは日向を使わないと布陣で連携を深める東邦、そして翼と火野の雪辱を誓い必死に筋力バランスの適正トレーニングに汗を流す日向!関東大会の開幕が近づいている。
※本日は3話投稿です。次回は12時頃です。お付き合いいただけるとうれしいです。