キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
西が丘サッカー場。関東大会1回戦の第1試合、武蔵中学vs前橋中央中学の戦いは、東京王者・武蔵の6-0という圧倒的な完勝で幕を閉じた。
続いて行われる第2試合は、神奈川県第1代表の江ノ島中学と、山梨県代表の躑躅ヶ崎(つつじがさき)中学の一戦である。
初戦を終え、汗を拭った武蔵中学のメンバーは、明日の2回戦で激突する「勝ち上がり校」の戦力を見定めるため、そのまま西が丘のメインスタンド上段に陣取っていた。
武蔵中が座るスタンドとは少し離れた一角から、腹に響くような熱い地鳴りの応援が響き渡り始める。江ノ島中学の応援団だ。
真田信次
「何か……江ノ島中学の連中、ガラが悪そうなのが多いな」
井川
「ああ、あそこは昔から有名だからな」
一ノ瀬
「岳人は確か神奈川のクラブ出身だったろ。お前、あいつらと対戦したことあるのか?」
井川
「いや、俺は直接対戦してない。当時すでにチームメイトともめてて、俺自身が試合に出られなかったからな……」
苦笑いする井川の横で、武蔵中サッカー部顧問の中田先生が目を輝かせながら口を開いた。
中田先生
「江ノ島中学はな、昔はいわゆる荒れた学校だったんだ。そこで学校を立て直すために学校側が取り組んだのが、部活動の強化だった。だからあそこはサッカー部だけじゃなく、バスケ部やバドミントン部、テニス部なんかも全国大会の常連校なんだぞ」
真田信次
「中田先生、やけに詳しいですね」
中田先生
「当たり前だ、俺は教師だぞ! 先生同士の研修や情報交換だって色々とあるんだ。……ほら、あそこに立っているのがサッカー部顧問の瀧本先生だ。あの先生、昔は野球をやっていて甲子園にも出たことがあるんだ。教師になって当然野球部を指導するつもりだったんだが、江ノ島には野球部がなくてな。未経験のままサッカー部の顧問になったそうだ」
一ノ瀬
「へぇ……未経験からですか」
中田先生
「就任当初は部活どころじゃなく、まず部員を練習に参加させるところからのスタートだったらしい。だが地道に声をかけ続けて少しずつ人数を増やし、就任5年目で全国大会に出場させたんだ」
一ノ瀬
「あ、俺もその話知ってます! たしか昔、テレビのドキュメンタリーで放送してましたね」
中田先生
「ああ、その通りだ。そこから一気に全国の常連に上り詰めたんだよ」
ベンチの様子をじっと観察していた兵藤監督が、興味深そうに顎に手をやった。
兵藤監督
「ほう……つまり、毎年やんちゃでエネルギーの有り余った連中が一定数加入し、それを叩き上げてきたチームというわけか」
武蔵イレブンが江ノ島中学の持つ背景と底力を確認し終えた頃、ピッチ上ではウォーミングアップが完了し、主審のホイッスルが鳴り響いた。
試合開始。躑躅ヶ崎中のボールでキックオフされた。
江ノ島中学の戦術は、武蔵のような緻密で洗練された組織戦術ではない。基本に忠実なマンマーク——しかし、その前線からのプレッシングの強度が尋常ではなかった。
1年生ツートップの山村と加藤が、まるで獲物を追う猟犬のように執拗にボールホルダーへ食らいつく。その激しいプレッシャーに根負けした躑躅ヶ崎中のDFが、2人を避けるように苦し紛れのパスを出した瞬間だった。
2年生エースの藤原彰が、狙いすましたインターセプトでボールを奪い取る。
藤原彰
「さてと……行きますか」
藤原はそのまま一瞬の加速でドリブルを開始。鋭いフェイントで相手MF2人をあっという間に置き去りにする。
大空翼
「速い……!」
翼の目が光る。さらに武蔵のメンバーの目を引いたのは、前線の動きだった。
本間
「あの1年生FWたち、もうあんなところまで上がっているぞ!」
ボール奪取と同時に、山村と加藤が最前線へスプリントを仕掛けていたのだ。
必死にペナルティエリア付近を固める躑躅ヶ崎中ディフェンス陣。だが、藤原はそのブロックをあざ笑うかのように、横へスッと優しいラストパスを送る。
そこへ後方から走り込んできたのは、キャプテンの江口大翔。
ドカッ!
狙いすました右足の一閃。弾丸ライナーのシュートがゴールネットを突き破るように突き刺さった。江ノ島中学、鮮やかな先制!
息を呑む武蔵中イレブン。
本間
「あの6番(江口)……いつの間にあそこまで上がっていたんだ!」
火野竜馬
「あの10番(藤原)もなかなかやるぜ。自分で打とうと思えば打てたのに、敵を完全に崩しきってから味方に一番打ちやすいパスを出してやがる」
反撃を試みる躑躅ヶ崎中だったが、江ノ島の前線からの激しいチェックにかかり、ハーフウェーラインを越えることすら容易ではない。たまに鋭いカウンターで迫っても、江口と石川を中心とした鉄壁のディフェンスラインにことごとく潰される。
逆に藤原の絶妙なタクトから、1年の山村と加藤が連続で追加点を奪い取った。
後半に入っても、江ノ島の運動量とペースは一切落ちない。
川村
「あの1年生FWたち……後半に入っても全くスピードが落ちないぞ!」
真田正己
「俺たちと同じ1年なのに、あのスタミナはなんだよ……!」
その後も怒涛の攻撃で得点を重ねる江ノ島中学。
試合終了間際、躑躅ヶ崎中も意地の一射を放つ。ペナルティエリア内から放たれた鋭いグラウンダーのシュート。ゴール隅を捉えた誰もが「決まった」と思った瞬間、江ノ島の大型GK・赤城純が動いた。
185センチの恵まれた上背からは想像もつかないしなやかさと俊敏さで横飛びし、片手一本で弾き飛ばす。
赤城純
「甘ぇんだよ!!」
西が丘に轟く赤城の雄叫び。
兵藤監督
「あのキーパー……上背があるだけでなく、身体のキレと反応速度が尋常じゃないな。ヨーロッパのトップレベルに見られるようなゴールキーパーだ」
結局、試合は始終江ノ島ペースのままタイムアップ。
7 - 0。江ノ島中学がその圧巻の地力を見せつけ、1回戦を大勝で飾った。
スタンドでその圧倒的な強さを見せつけられた武蔵中イレブンの間に、緊張感が漂う。
しかし、主将の大空翼の顔に浮かんでいたのは、恐怖ではなく底抜けの笑顔だった。
大空翼
「江ノ島中学、強いじゃないか! そんな凄い相手と全国行きをかけて戦えるなんて……楽しみで仕方ないよ!」
翼のその一言に、チームの空気が一気に晴れ渡る。
火野竜馬
「ふっ……やっぱりお前らしいな、翼」
本間
「そうだな。俺たちの目標は日本一だ。こんなところで躓いているわけにはいかないよな!」
真田信次
「さすが俺たちのキャプテンだぜ!」
兵藤監督
「よし、次の相手も決まったことだ。学校に帰るぞ!」
一同
「はい!」
武蔵中学イレブンは、身を引き締め直して西が丘を後にした。
明日——勝者が全国大会への切符を手にし、敗者はここで夏が終わる決戦の2回戦。
東京王者・武蔵中学と、神奈川の雄・江ノ島中学の激突が、刻一刻と近づいていた。
武蔵中学の回戦の相手は江ノ島中学に決まった!強敵江ノ島中学を前に武蔵中学はどう戦う!?
※江ノ島中学は、完全オリキャラです。関東大会を描くにあたり、東邦以外にライバル校がなく簡単に全国行きが決まるのは興がないなということで登場させました。80年代、90年代初頭のテイストを散りばめたキャラクターかつ学校設定となっております。お楽しみいただけたら幸いです。
※これで本日の投稿は終わりです、次も週末投稿になります。お付き合いいただけるとうれしいです。