キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
1回戦の全日程が終了し、明日行われる準々決勝——全国大会出場決定戦の対戦カードが出揃った。武蔵中学の2回戦の相手は、山梨代表を7-0で粉砕した神奈川の雄・江ノ島中学に決まった。
学校の合宿所へ戻った武蔵中サッカー部では、夕食後に会議室へ集まり、明日の江ノ島戦に向けたスカウティング・ミーティングが開かれていた。
ホワイトボードの前に立つ兵藤監督が、ペンを走らせながら静かに切り出す。
兵藤監督
「向こうは、徹底したマンマークで対抗してくるだろう。……まあ、中学校の部活で戦術練習にそこまで時間を割けている学校など、ほとんど存在しないのが現実だがな」
本間
「なるほど……。そうなると、翼君のマークには主将の江口がつくことになりますか?」
兵藤監督
「そうなるだろうな。……だが翼に密着マークがつくこと自体は、これから先のステージを勝ち抜く上では必須の課題と考えるべきだ。だからこそ、そうなってもチームとして機能するように鍛えてきたつもりだ」
大空翼
「うちも変わらず、ゾーンプレスをかけますか?」
兵藤監督
「いや。今日の試合を見る限り、城星の時と同じようにプレスにはまりにくい相手だと見ている。ヤンチャな連中が多いからなのか、とにかく相当スタミナに自信のある人間を揃えているようだ。城星は卓越した個人技とパスワークでこちらのプレスを封じたが、江ノ島は圧倒的な運動量とフィジカルでプレスを無力化してくるだろう」
兵藤はボードの江ノ島陣形を指で示しながら言葉を重ねた。
兵藤監督
「だから明日は、こちらもロベルトと練習に取り組んできたワンタッチ、ツータッチのパスワークでボールを素早く動かし、相手に波長を合わせさせない戦い方をする」
一ノ瀬
「監督、相手はかなり走力がありますよ。こちらが少しでもミスをしてパスが引っかかれば、即座に鋭い逆襲を食らう恐れがあります」
兵藤監督
「そうだ。だからこそ、こちらもミスをしないんだ。明日は我慢比べになるぞ」
一同の顔が引き締まる。兵藤は視線を翼とナトゥレーザへ向けた。
兵藤監督
「それと翼、ナトゥレーザ。明日はドライブシュートを打っても構わんが、東邦戦の時のように闇雲に連発するのは厳禁だ。正しいコースに打てば、たとえ相手が対策を講じていようとも破ることはできない」
真田信次
「ドライブシュートの対策……止めることなんてできるんですか?」
兵藤監督
「理論上は可能だ。ゴールラインギリギリまで深く下がり、ボールにトップスピンがかかって急降下しきる前に手前でキャッチしてしまう。だが、それをするにはキーパーに相当な筋力と身体的負担がかかる。……ただ、あの江ノ島のキーパー(赤城)の体格と反射神経なら、それを可能にするかもしれん」
兵藤は翼をまっすぐ見つめた。
兵藤監督
「翼、ドライブシュートの出力を抑えて打つことは可能か?」
大空翼
「はい。今なら威力を加減して打つこともできます」
兵藤監督
「よし。それなら試合序盤、あえて加減したドライブシュートを放ってみてくれ。それで相手キーパーがドライブシュート対策を頭に叩き込んでいるかどうか、見極めてみるんだ」
大空翼
「わかりました。やってみます」
兵藤監督
「明日は球際の競り合いが多くなるぞ。向こうは一歩も退かない覚悟でぶつかってくる。だからこちらも絶対に退くな! スキを見せたら一気に食われるぞ!」
一同
「はい!」
基本方針が固まったところで、兵藤は別会場の視察から戻っていたフィジカルコーチの浅田ユリ、そしてマネージャーの小田由美へ声をかけた。
兵藤監督
「浅田ちゃん、東邦はどうだった?」
浅田
「結論から言うと、日向君は出ていなかったわ。だけど……やっぱり東邦ね、すごく強かった」
小田由美
「今日の試合、最初から松山さんがリベロのポジションに入っていたんです。機を見て前線に上がって攻撃にスパイスを加えたかと思えば、最終ラインもしっかり統率していて……。これまでの『若島津さんの個人能力頼み』だった守備陣から完全に脱却していました」
浅田
「攻撃陣もすごくて、新田君が2点、反町君が1点、岬君は得点をアシストしただけじゃなく、自分でも2点奪っていたわ」
「岬君……!」
翼の目が一瞬、鋭く光る。
井川
「岬も自ら点を取りにきたとなると、守る方はかなり厄介になるな……」
真田信次
「こりゃあ、もし決勝で当たったら、都大会の時よりも厳しい戦いになりそうだな」
兵藤監督
「そうだ。……だが、まずは明日の試合に全集中だぞ」
一同
「はい!」
こうして武蔵中学は、明日に控えた全国決定戦への備えを終えた。
同じ頃、東邦学園のミーティングルーム。
武蔵と同じく東京代表として参加している東邦もまた、自校の合宿所でミーティングを行い、今日の反省とライバルたちの戦いぶりに思いを馳せていた。
松山光
「翼たち武蔵は、波乱なく勝ち上がったか」
岬太郎
「うん。だけど……明日の武蔵の相手は江ノ島中学だね」
松山光
「そうだな。去年、俺たちも対戦したが……かなり苦戦させられたな」
岬太郎
「そうだね。去年の江ノ島のキャプテンだった山中龍也さんは、今年からうちの高等部で1年ながらレギュラーとして活躍しているしね。今年は、江口君がキャプテンか……」
松山光
「ああ。去年の山中さんとコンビを組んでいた、当時1年だった藤原も残っている。守備も同じく石川、そして……赤城がゴールマウスを守っているか」
「赤城……」
その名を聞いた瞬間、隣にいた守護神・若島津健の表情がわずかに曇った。
去年の激闘——自分以上の恵まれた体躯を持ち、豪快かつ俊敏な動きで東邦の攻撃を阻み続けたあの大型GKの威圧感を、若島津ははっきりと覚えていた。
岬太郎
「翼君たちもそうだけど、明日はどこも全国行きをかけた厳しい試合になるね」
松山光
「ああ、そうだな。……日向のためにも、俺たちは絶対に負けるわけにはいかないぞ」
松山の言葉に、岬と若島津も力強く頷く。その瞳には静かな決意がみなぎっていた。
夜が更け、両校の選手たちは明日の戦いに向けて静かに眠りにつく。
全国大会への切符を掴み取るのはどの学校か。
運命の準々決勝が、まもなく幕を開ける——。
本日は3話投稿です。次は12時頃投稿予定です。