キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
関東大会準々決勝、武蔵中学対江ノ島中学の一戦は、江ノ島が勝ち越せば武蔵がすかさず同点に追いつくという、互いの意地と技術が激突する凄まじい点の取り合いとなっていた。
前半も残り時間が5分を切ろうとした頃、中盤で再び武蔵のキャプテン大空翼の元へボールが渡る。
すかさずプレッシャーをかけに江ノ島キャプテンの江口が動こうとしたが、それを横手で制したのはエースの藤原彰だった。
藤原彰
「大翔さん、ここは俺にやらせてください」
江口大翔
「……頼んだぞ、彰!」
藤原が目の前に立ちはだかり、翼に真っ向から挑みかかる。
翼の繰り出す細かなステップと揺さぶりのフェイントに対し、藤原は驚異的な集中力と反応速度で喰らいついていく。
だがその時、左サイドからナトゥレーザがボールを呼び込む声を上げた。
ナトゥレーザ
「翼!」
翼がスッと顔を上げ、ナトゥレーザの方向へ視線を送る。そのわずかな挙動につられ、藤原の視線も一瞬だけナトゥレーザの方向へ動いた。
——その、わずかコンマ数秒の隙!
翼は視線とは裏腹に、驚異的な軸足の押し出しでドリブルを急加速。一気に藤原の横を突き抜けて抜き去った!
兵藤監督
「うまい……!」
絶対的エースの藤原があっさりと抜き去られたことで、江ノ島ディフェンス陣に一瞬の動揺が走る。翼はその刹那の隙を見逃さなかった。
相手の寄せがわずかに甘くなった瞬間、翼は右足を深く後ろへ引き、思い切り振り抜く。
放たれたのは、綺麗なトップスピンを描く必殺のドライブシュート!
寄せが甘く、完璧な姿勢とインパクトで放たれたボールは、放物線を描いて江ノ島ゴールの真上から急降下していく。立ちはだかるのは江ノ島の大型守護神・赤城純。
赤城はあらかじめラインギリギリまで位置を下げ、完璧なタイミングで跳び上がった。
赤城純
「やらせは……せんッ!!」
赤城は空中で片手を差し伸ばし、ドライブシュートの威力を削ぎ落とそうと試みる。しかし、今回のシュートは抑えを効かせていない威力十分の一撃。ボールは赤城の分厚い手を力任せにはじき飛ばし、そのまま豪快にネットを揺らした!
ゴォォォール!!
前半28分——3 - 2!
武蔵中学がこの試合初めての勝ち越しに成功する!
その後、江ノ島中の反撃を武蔵ディフェンス陣が総力で凌ぎ切り、前半は武蔵の1点リード(3-2)でタイムアップの笛が鳴った。
ロッカールームへと引き上げていく両チーム。
ハーフタイム、両校ともに徹底した水分補給と疲労回復に努めながら、後半に向けた熱い指示が飛ぶ。
武蔵中学のベンチ。
兵藤監督
「前半、よくリードして終わってくれた。……だが翼、ドライブシュートの使い所はよく考えろ。向こうのキーパーなら、次は間違いなく完璧な対策を立ててくる。無駄打ちだけは避けるんだ」
大空翼
「はい!」
兵藤監督
「DF陣とボランチは連携してブロックを組み直せ。相手のタフさを見る限り、後半になって体力が落ちることは期待できない。お前たちがルーズボールを奪えたら、うちの攻撃チャンスは一気に広がるからな」
火野竜馬
「頼んだぜ、みんな。点の取り合いなら俺たちは負けねえからな!」
井川
「わかってるよ、竜馬」
本間
「こっちも相手より先に動いて、フリーになっている味方には敵の位置を声を掛け合って教えていこう」
大空翼
「この試合に勝てば全国だ! ……だけど、そんな先のことを考えてたら足元を掬われるぞ! 今は目の前の敵を倒すことだけに全力を尽くしてくれ!」
一同
「おう!!」
兵藤監督
「……それと翼。後半、お前のマークには向こうの10番(藤原)がついてくるはずだ。やつはお前との試合を通じて、恐ろしい速度で成長している。気を引き締めろ」
大空翼
「わかっています。……だけど、サッカーは俺一人じゃありません。俺の後ろには仲間がいる。みんながいる限り、俺たちは絶対に負けません!」
本間
「翼くん……!」
真田信次
「翼の言う通りだぜ! 俺たち全員で、この試合勝つぞ!」
一同
「おう!!」
チームの強い絆と連帯感で、武蔵イレブンの士気は最高潮に達していた。
一方の江ノ島中学。
イレブンの健闘を労いつつも、リードを許した展開に瀧本監督の表情は硬い。
瀧本監督
「前半、よく頑張ったぞ、お前たち!」
赤城純
「くそっ……やつめ(翼)、最初のドライブシュートは威力を抑えてやがったのか……!」
加藤&山村
「あの14番(ナトゥレーザ)もだ! 俺たちを舐めやがって……!」
江口翔子
「颯にマー坊! てめえら、舐められっぱなしでいいのかよ!?」
すかさず二人が言い返そうとする前に、キャプテンの江口が言葉を挟んだ。
江口大翔
「舐められっぱなしでいいわけないよな。……お前ら、後半あの14番はお前たちに任せて大丈夫か?」
加藤&山村
「任せてください! どんなことがあっても喰らいついてみせますよ!」
石川亘
「大翔さん、翼はどうしますか? 正直、俺も火野を抑えるので精一杯です……」
江口が答えを出そうとしたその時、藤原が毅然とした声で割り込んだ。
藤原彰
「大翔さん……翼さんは俺に任せてくれませんか?」
マネージャーの翔子が身を乗り出して怒鳴る。
江口翔子
「彰! てめえ、兄貴じゃ役不足だって言いたいのか!?」
藤原彰
「勝つためだ!」
藤原の強い眼差しに翔子が一瞬言葉を詰まらせる。藤原はきっぱりと言い放った。
藤原彰
「颯と雅人が向こうの14番を抑えるのに専念したら、うちの得点力は半減する。俺が点を取る。だから大翔さんがゲームを組み立てて、俺にパスを送ってください」
江口大翔
「……わかったよ。去年の形にするわけだな。俺がゲームを組み立てて、龍也さんとお前が点を取っていた頃にな」
藤原彰
「大丈夫。翼さんは俺がどんなことがあっても抑えますから!」
石川亘
「彰、俺たちもお前をサポートするぜ」
赤城純
「当たり前だ! これ以上好きにはさせん!」
熱を帯びていくイレブンのやり取りを聞きながら、瀧本監督は心の中で深く頷いていた。
(彰が変わり始めている……。チームの中でもずば抜けた実力を持つ彰だが、これまではどこか力をセーブしている部分があった。だが……大空翼という規格外の選手と対戦したことで、彰の眠っていた本物の才能が引き出されつつある)
瀧本監督
「彰、いいだろう。後半はお前が翼のマークにつけ。舐められるなよ!」
藤原彰
「わかっています!」
江口大翔
「よし! 後半は同点、そして逆転だ!!」
一同
「おう!!」
ハーフタイムが終わり、再び緑のピッチへと足を踏み入れた両チームのイレブン。
その瞳には、誰一人として翳りなどなかった。
全国大会出場をかけた決戦の後半戦が、今まさに始まろうとしていた。
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