キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
西が丘サッカー競技場を包む熱気は、第一試合が終了してもしばらく引く気配を見せなかった。
武蔵中学対江ノ島中学——互いに死力を尽くした5-4の死闘は、観客だけでなく、大会関係者や各校のスカウト陣の胸にも深い爪痕を残していた。
メインスタンドの中段、日本サッカー協会の強化担当・片桐宗正は、メモ帳を閉じると静かに息を吐いた。
(武蔵が激闘を制し、まずは全国大会出場を決めたか……。それにしても江ノ島の藤原彰、あれほどまでの選手に成長していたとはな。去年の藤原は、今は東邦学園高等部の山中龍也に前線を支えられた一人の点取り屋に過ぎなかった。だがトップ下にポジションを下げたことで、ゲームメイクと個の打開力を兼ね備え、プレイヤーとしての幅を格段に広げた。……まだまだ関東には、我々の知らない逸材が隠れているのかもしれんな。そういう意味では、これから登場する東総学院も実に注目のチームだ)
片桐が視線をピッチに戻すと、アナウンスとともに第二試合を戦う二校がピッチへと姿を現した。
埼玉県大会2位・大宮第二中学校。そして、千葉県大会1位・東総学院中学校である。
両チームがピッチに散らばると、スタンドの一部からどよめきと大きな歓声が沸き起こった。観客の視線が一挙に東総学院の二人の選手へと集まる。
「おい見ろ! あいつが“千葉のヒーロー”10番の村田だ!」
「それだけじゃないぞ、来たぜ……驚異のケニア人留学生、14番のケビン・ムワンギ・カマラだ!」
東イレブンの中に立つその姿は、あまりにも異質だった。
188センチのスラリと伸びた長身。しなやかな筋肉を纏った長い手足。軽快なステップでピッチの芝を踏みしめるだけで、ただならぬ躍動感がスタンドまで伝わってくる。
東総のウォームアップが終わる頃、汗を拭い、ユニフォームを着替え終えた武蔵中学サッカー部の面々が、明日の準決勝の対戦相手をスカウティングするためにスタンドへと姿を現した。
「東総VS大宮二中……この勝者が、俺たちの明日の準決勝の相手か」
翼がピッチを見つめながら呟く。
隣でピッチを凝視していた真田が、怪訝そうな顔で眉をひそめた。
「東総も俺たちと同じで留学生を使ってくるか……。しかしありゃ、南米のブラジル人じゃないな?」
その疑問に答えたのは、分析ノートを抱えたフィジカルコーチの浅田ユリだった。
「ケビン・ムワンギ・カマラ。ケニアからの留学生よ」
「ケニアだって?」
火野が呆れたように鼻で笑った。
「おいおい、アフリカなんて世界のサッカーから見たら、アジアと並んでサッカー後進国だぜ! フィジカルバカの素人じゃねえのか?」
「データを見誤っちゃダメよ、火野くん」
浅田はノートを開きながら、淡々とその背景を説明する。
「彼にはちょっと面白い経緯があるの。東総学院は中高一貫校なんだけど、高等部は陸上、特に駅伝の全国的な強豪校なのよ。冬の京都で行われる全国高校駅伝で優勝するために、マラソン大国のケニアからスカウトされて来日した陸上エリートなの。でもね……来日してみたら、陸上以上にサッカーの素質と技術がズバ抜けていたのよ。だから今は、陸上長距離とサッカー部の『二足の草鞋』を履かされているというわけ」
「……浅田先生の話から考えると、陸上仕込みのスタミナと、あの長身を併せ持った規格外のフィジカルエリートということになるな」
本間が険しい表情で呟く。
「その通りだ」
後ろから歩み寄ってきた兵藤監督が、重々しい声で付け加えた。
「スピード、スタミナ、そして高さ。明日の準決勝は、あのカマラをチーム全体でいかに組織的に抑え込むかが勝敗の鍵になるぞ」
兵藤の言葉を受け、武蔵イレブンの目が一斉に鋭さを増した。
◇
主審のフエが鳴り、試合が開始された。
東総学院ボールでキックオフ。まずは自陣で落ち着いてパスを回す東総に対し、大宮二中は前線からプレスをかける。
ハーフウェイライン付近で東総の10番・村田がボールを受けると、一瞬でギアが上がった。
「行くぞ!」
“千葉のヒーロー”村田は鋭いファーストタッチでスピードに乗ると、大宮二中のダブルチームをあざ笑うかのようにドリブルで突破。バイタルエリア手前で大宮ディフェンスが後手に回り、一瞬の隙が生じる。
村田は見逃さず右サイドへ展開。駆け上がったサイドハーフから、すかさずゴール前へ鋭いクロスが供給された。
大宮二中のセンターバック陣が必死にポジションを取ろうとしたその時——彼らの頭上を「影」が覆った。
「高いっ……!?」
スタンドの真田が思わず声を上げる。
「高さだけじゃない、跳躍のスピードが早すぎる!」
一ノ瀬も目を見開いた。
垂直跳びで圧倒的な打点に達したカマラが、大宮二中のディフェンダーの上から頭一つ抜け出してヘディングを叩き込む!
ドンッ! という重い音が響き、ボールは大宮二中のゴールネットを激しく揺らした。
東総学院、開始わずか数分であっさりと先制。1-0。
「くそっ、落ち着いてパスを回せ! 反撃だ!」
大宮二中も埼玉県2位の意地を見せ、中盤で細かくパスを繋ぎながら東総の組織を崩そうと試みる。しかし、そのパス回しをあざ笑うかのように立ち塞がったのは、東総の2番・「千葉の頭脳」と呼ばれるセンターバックの里見だった。
里見は大宮二中のパスコースを完全に読み切り、鋭い出足でインターセプト。奪った瞬間に迷わず前線へロングフィードを放ち、大宮二中の最終ラインの裏を狙う。
「……いや、パスが長すぎる! ラインを割るぞ!」
大宮二中のGKが叫ぶ。
だが、誰もが流れると確信したそのボールに向かって、漆黒の疾風が駆け抜けた。長いストライドで一気に加速したカマラの足先が、タッチライン際ギリギリでピッチに突き刺さるように伸びる!
「な……追いついたのか!?」
絶望する大宮二中のDFをよそに、カマラは吸い付くようなトラップでボールを収めると、そのままノーモーションで右足を振り抜いた。
極太のシュート軌道がサイドネットに突き刺さる。追加点、2-0!
そこからは、まさに凄惨な一方通行のゲームだった。
必死に反撃の糸口を探る大宮二中だったが、攻撃の芽はことごとく“千葉の頭脳”里見に事前に読み切られ、完全に封殺される。そして奪ったボールは、里見と村田を経由して、すべて前線のモンスター・カマラへと供給された。
カマラの高さ、異次元のストライドから繰り出されるスピード、そして尽きることのないスタミナの前に、大宮二中の選手たちの心は完全にへし折られた。
ピー、ピー、ピーーッ!
試合終了のホイッスルが西が丘に響き渡る。
東総学院 8 - 0 大宮第二中学校
ケビン・ムワンギ・カマラ、圧巻のダブルハットトリック(6得点)達成。
東総学院が、大宮二中を完膚なきまでに叩きのめす圧勝劇であった。
第一試合の熱狂的な歓声とはまったく違う、冷ややかな不気味さと戦慄のどよめきが西が丘サッカー競技場全体を支配していた。大敗した大宮二中の選手たちは、ただただ茫然とピッチに崩れ落ちている。
これで、明日行われる駒沢陸上競技場での準決勝・第一試合のカードが確定した。
武蔵中学校 vs 東総学院
アフリカからの強力な留学生カマラと、それを操る村田・里見を擁する千葉の王者・東総学院。
武蔵中学は、この凄まじい怪物に一体どう立ち向かうのだろうか——!
死闘を終えた武蔵中学、次の相手は強力留学生を擁する東総学院に決定!武蔵中学はどう戦う!?
※今日の投稿は終了です。次回は週末投稿です。お付き合いいただけるとうれしいです。