キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
関東大会2日目が終了した。
西が丘サッカー競技場で行われた2試合を経て、今日全国大会への切符を掴み取ったのは、武蔵中学校と東総学院の2校。また、駒沢陸上競技場のサブグラウンドで行われた試合では、東邦学園と城星学園の2校がそれぞれ全国行きを確定させていた。
その夜——武蔵中学サッカー部の合宿所。
大広間には熱気と適度な緊張感が漂い、明日の準決勝・東総学院戦に向けたミーティングが行われていた。
「東総のキーマンは、留学生のカマラだ。やつを抑えることができれば、勝利は一気に近づく」
ホワイトボードの前に立つ兵藤監督が、きっぱりとした声で告げる。しかし、DFの真田信次が腕を組みながら口を挟んだ。
「監督、確かにそうだけどよ! それはどこの学校だって考えることだろ。だけど実際、それができてねえからあいつらはここまで勝ち上がってきてるんだぜ!」
「そうだ。実際、東総のサッカーは中盤の組み立てを完全に省略し、前線のカマラと村田にボールを預けるだけの、至ってシンプルな戦術だ」
兵藤が頷くと、本間が苦笑混じりに息を吐く。
「縦ポンサッカーか……しかし、相手が悪すぎるな」
「そうかもしれんな。だけどお前らのサッカーは、日本人相手だけで終わりか?」
兵藤の眼光が厳しく光る。
「世界に出たら、カマラみたいな体格と身体能力を持ったやつなんてゴロゴロいるぞ。世界を相手に戦う気があるなら、こんなところで腰が引けてたら話にならない」
「世界……」
翼の目が、すっと鋭さを増した。その言葉を受け、大型DFの井川岳人が力強く頷く。
「監督、つまり明日は俺がカマラを抑えられるかどうか、ってことだろ? 世界なら俺たちは、いつも身近で感じているからな」
その言葉に、FWの火野竜馬が不敵な笑みを浮かべて井川の肩を叩く。
「岳人、お前なら大丈夫だ。毎日ピッチでお前とマッチアップしてるのが誰だと思ってるんだよ!」
「……竜馬」
井川がフッと口元を緩める。兵藤が提示したホワイトボードのデータを指し示した。
「今日の試合を見る限り、カマラの身体能力は圧倒的だ。しかし、足元の技術はまだまだおぼつかない。つけ入る隙は十分にあるぞ!」
「おいおい、待てよ!」
ここで真田信次が慌てて身を乗り出してきた。
「DFリーダー(自称)の俺を差し置いて、勝手に話を進めるんじゃねえよ!」
すかさず、キャプテンの翼が柔らかい笑顔でフォローを入れる。
「大丈夫だよ、信次。信次にはカマラの相棒である村田を抑える重要な仕事があるじゃないか。俺はカマラよりも、その前でチャンスを作る村田こそが本当の脅威だと思っている。村田を完璧に抑えられるのは、岳人より信次の方がふさわしいと俺は思うよ!」
「ハハハハハハ! 翼、分かってるじゃねえか! さすがキャプテンだ! 村田のやつは俺に完全に任せておけ!」
一瞬で上機嫌になり、胸を張る真田信次。そのやり取りを横で見ていた本間は、心の中で深く感心していた。
(さすがだ、翼君。真田の性格を完璧に掴んでいる。プレーだけじゃなく、キャプテンとしても間違いなく一流だ……)
室内が一瞬和やかな空気に包まれた。しかし、スタメンに名を連ねる1年生の真田正己と川村大介の2人だけは、硬い表情を崩していない。
その様子に気づいたナトゥレーザが、不思議そうに声をかけた。
「正己、どうした? そんな深刻な顔をして」
真田正己は兵藤監督に向き直ると、意を決したように尋ねた。
「監督……東総の16番は、試合に出ていますか?」
兵藤に代わり、データノートを開いていたフィジカルコーチの浅田ユリが答える。
「1年生の星野慎吾君ね。ええ、たまに出ているわ。でも、後半からの途中出場がほとんどね」
川村が顔を曇らせて呟く。
「やはりそうか……今日、アップの時にあいつの姿を見かけたから、ひょっとしてと思ったんです」
話についていけない真田信次が首をかしげる。
「何だ正己、東総の1年がどうしたってんだ?」
「俺たちの代で『千葉の星野』と言えば、超有名なやつなんだよ。あいつがピッチに出ている時は、ゲームの支配者と言っていいくらいの圧倒的な存在感を放つんだ」
川村も言葉を重ねる。
「去年の全小(全国小学生大会)の決勝で当たった相手でした。あいつが出ている間は完全にリードされていて……あいつがベンチに下がってから、ようやく逆転して勝てたんです」
「なるほど、実力はかなりありそうだな。だけど、なぜそんな選手が途中で交代するんだ?」
本間の問いに、川村が真面目な顔で答えた。
「テクニックやゲームの支配力は抜群なんですが……とにかくスタミナがないんです。だから交代せざるを得なかったんですよ」
浅田が深く頷きながら解説を加える。
「骨格も心肺機能も、まだ成長の発達途上なのね。技術に体力が追いついていないの。だから東総の監督も、彼の身体の状態を厳しく見極めながら使っているといったところかしら」
「なるほど。大介と正己の話をまとめると……明日、うちがカマラと村田を完璧に抑え込むことができたら、間違いなく後半頭からその星野が投入される、ということか」
「そして……東総がまったく別のチームに変わる、と言いたいわけだな?」
一ノ瀬の言葉に、真田正己と川村が重々しく頷いた。
周囲に緊張が走る中、翼がまっすぐな瞳で皆を見渡す。
「どちらにせよ、世界で戦うつもりなら、絶対に負けられない相手だよ!」
「そうだ! だから俺たちもしっかり対策を立てて試合に臨むぞ!」
兵藤の言葉に全員が強く頷き、武蔵のミーティングは夜遅くまで続いていった。
一方、同じ頃——東総学院の宿舎。
こちらも明日の武蔵戦に向けたミーティングが行われていた。
「立花のおやっさん(監督)、明日も今日と同じ戦い方でいいんだな?」
10番を背負う村田が尋ねると、パイプ椅子にどっかと腰掛けた立花監督が豪快に笑った。
「おう! お前とカマラが縦に走るだけで、相手はキリキリ舞いさ!」
しかし、DFの里見が慎重な面持ちで釘を刺す。
「監督、ですが相手はあの東邦学園を破った武蔵ですよ。カマラ対策は絶対に立ててくるんじゃないですか?」
当のカマラはニコニコと朗らかな笑顔を浮かべている。
「里見さーん、大丈夫でーす!」
「ふっ……それも織り込み済みよ」
立花監督の目が、鋭い勝負師のものへと変わる。彼は部屋の隅に座っていた背番号16の少年に視線を向けた。
「だから明日は慎吾、後半の頭からお前を使うぞ! もし前線の縦の推進力が封じられたら、お前のゲームメイクが必要になる」
「慎吾、そん時は頼んだぜ! 点は俺とカマラが取るからさ!」
村田がニッと笑って親指を立てると、カマラも顔をほころばせる。
「慎吾! 大丈夫でーす!」
星野慎吾は静かに立ち上がると、力強い目で言葉を返した。
「キャプテン、カマラさん……任せてください!」
「よし! 明日はあの武蔵を倒して、決勝へ出るぞ!」
「オーッ!!」
選手たちの咆哮が宿舎の部屋に響き渡る。
江ノ島中学との激闘を制した武蔵中学校であったが、明日の駒沢メインスタジアムでは、千葉からの刺客・東総学院が牙を研いで待ち構えていた。
80年代後半から留学生が現れ始め、90年代前半にその力を遺憾なく発揮し、起用に規制ががかけられた留学生問題。もしキャプテン翼にもその世界観が描かれていたら…という視点も入れて留学生キャラクターを描きました。
※本日も3話投稿の予定です。