キャプテン翼if武蔵の10番〜三杉淳の意志を継ぐ者〜 作:ロンゲスト・ロード
関東大会3日目。
聖地・駒沢陸上競技場に舞台を移したこの日、メインスタジアムには準決勝の2試合に加え、全国大会への残り2枠をかけた熾烈な代表決定戦をひと目見ようと、早朝から多くの観客が詰めかけていた。学校関係者や保護者だけでなく、純粋なサッカーファンもスタンドを埋め尽くし、会場は昨日までのサブグラウンドとは一線を画す独特の熱気に包まれている。
【本日の対戦カード】
* 第一試合(代表決定戦): 江ノ島中学(神奈川) vs 大宮二中(埼玉)
* 第二試合(代表決定戦): 明和東中学(埼玉) vs 京浜中学(神奈川)
* 第三試合(準決勝): 武蔵中学(東京) vs 東総学院(千葉)
* 第四試合(準決勝): 東邦学園(東京) vs 城星学園(東京)
競技場の外では、第三試合を控えた武蔵中学のメンバーがバスから降り立ち、関係者通路へと向かっていた。ライバルたちの動向を見定めようと視線を走らせていた大空翼の視界に、大量のスポーツドリンクのボトルを抱えて慌ただしく走る一人の女子中学生の姿が映る。
「あっ……!」
ほんのはずみで抱えきれなくなったボトルが手元から滑り落ち、アスファルトの上へガラガラと散乱した。翼はすぐさま駆け寄り、転がったボトルを手際よく拾い上げて彼女に差し出した。
「大丈夫? 一緒に拾うよ」
「ありがとうございます……」
女子中学生は深く頭を下げてボトルを受け取り、ふと翼の顔を見上げた途端、目を丸くして思い切り後ずさった。
「て、てめえは武蔵の大空翼!?」
そう、その少女は昨日武蔵と死闘を繰り広げた江ノ島中学のマネージャー・江口翔子であった。翼はまったく悪びれる様子もなく、人懐っこい笑顔を浮かべる。
「君は、江ノ島の……」
「江口だ! 江口翔子だよ! 名前くらい覚えておけ!」
いきり立つ翔子に対し、翼は一切毒気を含まない爽やかな表情でまっすぐ彼女を見つめた。
「そうだね、ごめん。みんなのことを考えてこうやって荷物を運んでるんだね。江ノ島中のみんなが羨ましいよ!」
「えっ……!?」
思いがけずまっすぐに褒められた翔子は、一瞬で顔を赤くして言葉を詰まらせた。(私のこと……褒めた……?)
しかし、すぐに我に返ると、慌ててフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「あ、あたり前だろ! マ、マネージャーとして選手のことを考えるのは当然のことだ!」
「そうだね!」
屈託のない笑顔を返す翼のもとへ、騒ぎを聞きつけた江ノ島中の主将・江口をはじめとする両校のメンバーが次々と集まってきた。
「武蔵の大空翼……翔子、お前まさか失礼なことしてねえだろうな」
眉をひそめる兄の江口に、翔子は怒鳴り返す。
「当たり前だろ! 落ちたスポーツドリンクを拾ってもらっただけだ!」
「そうなのか! 俺はてっきり、お前が変に絡んでいったのかと思ったぜ!」
呆れ顔の江口に対し、翼がすかさずフォローを入れる。
「心配ないよ! 江口君、優しい妹さんだね!」
「優しい? あの翔子が? ハハハハハハ、そう言ってもらえるのは嬉しいぜ!」
江口は豪快に笑うと、表情をキュッと引き締め、武蔵のメンバーとしっかり向き合った。
「昨日は負けちまったが、今日の第一試合の代表決定戦で必ず勝って、俺たちも全国行きを決めるぜ! そして全国で再戦だ!」
翼も力強く頷き、握手を交わす。
「そうだね! 俺たちも江ノ島が勝つように応援するよ!」
「それじゃあ、俺たちは第一試合だから先に行くぜ!」
互いにエールを送り合い、両チームはそれぞれの控室へと別れていった。
スタジアムのスタンドには続々と観衆が入り込み、いよいよ第一試合のキックオフ時刻が迫る。
ピッチに江ノ島中学のイレブンが姿を現すと、メインスタンドから割れんばかりの歓声が巻き起こった。
『江ノ島ーっ!』
『勝って全国へ行けぞ!』
『見ろよ、10番の藤原だ!』
『昨日武蔵を追い詰めた実力は本物だぞ!』
スタンドの一角で観戦していた武蔵の本間が、その盛り上がりに目を見張る。
「すごい人気だな、江ノ島は」
隣の浅田ユリがフフッと優しく微笑んだ。
「あなたたちとあれだけの死闘を繰り広げたのだもの、人気が出ないわけがないわ」
顧問の中田先生も感慨深げに頷く。
「瀧本先生が作るチームは、毎年魅力あふれる選手が出てくるからな。同じ教育者として実に勉強になるよ」
主審のホイッスルが響き、全国行きをかけた代表決定戦・第一試合(江ノ島中学 vs 大宮二中)が始まった。
しかし、試合展開は観客の予想を大きく裏切り、江ノ島の一方的なワンサイドゲームとなった。
昨日、武蔵と限界を超える死闘を演じ、敗れはしたものの確固たる自信を掴んだ江ノ島。それに対し、東総学院のモンスター留学生・カマラにダブルハットトリックを決められ、精神的に崩壊したままこの日に臨んだ大宮二中。両者の「勢いと覚悟の差」はあまりにも歴然だった。
前半立ち上がり、江ノ島のエース・藤原の精緻なアーリークロスから、1年生FWの加藤が鋭く頭で合わせて鮮やかに先制!
勢いに乗る江ノ島はその後も手を緩めることなく、多彩なパスワークとアグレッシブな連動で大宮二中を終始圧倒した。
ピッピーッ!
試合終了の笛が鳴り響いた時、スコアボードには「4 - 0」の数字が刻まれていた。江ノ島中学が完璧な勝利を収め、見事に全国大会への切符を掴み取ったのである。
歓喜に沸くピッチ上で、エースの藤原が汗を拭いながら空を見上げた。
「ふう……なんとか全国行きが決まったな。また翼さんと試合ができるといいな」
ベンチ裏でドリンクボトルを抱える江口翔子も、小さくガッツポーズをつくった。
「やったな、兄貴……(また、大空翼に会える)」
スタンドの武蔵陣営も、ライバルの見事な復活劇に拍手を送っていた。
「やはり江ノ島か……」
本間の呟きに、真田信次がフンと胸を張る。
「当然だろ! あれだけ俺たちが苦戦した相手なんだからな!」
「また江口君たちと試合ができるのが楽しみだよ!」
少年期そのままの無邪気さで喜ぶ翼を見て、火野竜馬が呆れつつも嬉しそうにニヤリと笑った。
「本当、翼は根っからのサッカー好きだな」
激闘を控えた武蔵中学サッカー部に、束の間の和やかな空気が流れる。
だが——その和やかさを切り裂くように、駒沢メインスタジアムには第二試合・代表決定戦(明和東中学 vs 京浜中学)の選手入場を告げるアナウンスが響き渡ろうとしていた。
武蔵中学と死闘を繰り広げた江ノ島中学も見事に全国行きを決めました。全国ではどこまで勝ち上がることができるのか!?
※次の投稿は18時頃です。